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【魔法少女ユノ 零】

 ユノが、マムが魔法少女を殺す場面に()(くわ)したのは、ユノが魔法少女として初めて〈アノマリー〉との戦いに参加した時のことである。


 魔法少女は、例外なく全員、日本にて出生している。


 そして、全員、二〇一一年三月十一日生まれ——東日本大震災が発生した日の生まれである。


 とはいえ、魔法に目覚める時期に関しては個人差があり、ユノは、三番目に魔法に目覚めた魔法少女だった。


 一番目に魔法に目覚めたのはマムである。


 そして、二番目に魔法に目覚めたのは、カナエという名の、見るからに()えない、顔中そばかすだらけの三つ編みの女の子だった。



 魔法少女を管轄している省庁は()(ほう)(しよう)である。


 〈アノマリー〉の登場を受けて急遽作られた魔法省は、〈魔法版の防衛省〉ともいえる存在である。


 一般の兵器では歯が立たない〈アノマリー〉に対して、魔法少女をもって立ち向かい、日本、いや、世界を守ることを使命とする機関なのである。


 魔法が使えるようになったユノは、一緒に避難シェルターにいた母親に報告するより先に、魔法省へと連絡をした。



 そして、そのわずか三日後には、魔法省の指示で、はじめての〈アノマリー〉退治へと向かった。


 〈アノマリー〉の出現が報告されたのは、(きよう)()市と(おお)()市とである。


 二カ所同時に出現した以上、魔法少女も二手に分かれるほかなかった。



 ユノが訪れたのは、広いお寺である。

 元々、電灯の数にとぼしく、しかもそのほとんどが〈アノマリー〉によって壊されてしまっているため、深い夜の闇に包まれている。かろうじて夜目がきく程度だ。

 ユノは白い玉石の上を、ジャリジャリと音を立てながら歩く。


「……ユノちゃん、ここってなんだか不気味な場所だよね……」


 ユノと同時に(りん)(じよう)したカナエが声を振るわせる。ユノの背後にいるため姿は見えないが、おそらく病人のように()せ細った身体もプルプルと震えているのだろう。


 ユノは(おく)(びよう)(もの)に、冷たく吐き捨てる。


「怖いんだったら帰れば」


「……いや、その、別に怖いわけじゃないんだけど、お寺に()()があるって知らなかったから……」


「お化けが怖いのに〈アノマリー〉退治が務まるわけ? あんた何しに来たの?」


「……いや、ユノちゃん、私は、その、そうじゃなくて……」


 カナエの声はほとんど泣いていた。


 (あき)れ過ぎて、ため息すら出ない。


 弱虫は置いておくしかない。

 いても(あし)()(まと)いになるだけだ。


 ユノは墓地の中を(おお)(また)で進む。


 ジャリジャリジャリ。


「ユノちゃん待って!」


 カナエの叫び声が聞こえたが、無視をする。


「マムが来るまで待とうよ!」


 この叫びも、ユノへの引き留めることはない。


 むしろ逆効果だ。

 ユノは、マムが臨場する前に成果を上げ、自分の能力を魔法省に見せつけたいと(こいねが)っている。



 ユノは、あの〈タレント気取り〉の女が昔からずっと嫌いだった。


 この度、あの女と(どう)(りよう)になったわけだが、自分からは一度も口をきいていない。


 魔法省の大人たちは、みな口を揃えて『マムは天才だ』『マムの魔法は別格だ』と()(はや)しているものの、ユノが思うに、マムが使っている(いろ)()(まど)わされているか、そうでなければ、カナエがあまりにも使えないだけだろう。


 ユノが魔法少女になった以上、もうあの〈タレント気取り〉は必要ない。



 今回、ユノとカナエが京都市に、マムは大津市に出動している。


 京都市と大津市はそれぞれ異なる都道府県の県庁所在地であるが、直線距離は十一キロしかない。


 カナエは情けないことに、マムが大津市の〈アノマリー〉を倒し、京都市まで飛んでくるのを待ってから〈アノマリー〉と戦おうなどと言っているのだ。

 なんたる(てい)たらくだろう。


 マムが京都市まで来る必要などない。


 もっといえば、もう(こん)(りん)(ざい)、マムは戦場に来なくて良い。


 魔法少女の〈広告塔〉としてメディア戦略に(てつ)してもらうことが、マムにとっての適材適所だろう。


「ユノちゃんにとって初めての戦いなんだよ! できるだけ(しん)(ちよう)にならなきゃ!」


「うるさい! 黙ってて!」


 ユノは、すでに二十メートル以上も距離が離れてしまったカナエを睨みつけると、それ以上は一度も振り返らなかった。


 カナエの叫び声は(かな)()(ごえ)になり、やがて(やなぎ)の葉が風でこすれる以外は何も聞こえなくなった。


 魔法省には『カナエは腰が(くだ)けてしまって戦闘不能だったので、私一人で戦うしかなかった』とでも事後報告するとしよう。


 ユノが聞くところによると、魔法省は、魔法少女の臨場に際し、最初の頃はドローンを飛ばして戦闘の様子を(さつ)(えい)しようとしていたらしい。


 もっとも、いざ実際に戦闘が始まるとドローンは戦闘の〈(なが)(だま)〉ですぐに壊されてしまい、使い物にならなかったとのことだ。


 ゆえに現在では、魔法少女の戦いを観察しようという(こころ)みは(とん)()しているようだ。


 魔法省は、魔法少女の事後報告によってしか、戦闘の(ない)(じつ)を知ることができないのだ。


 それにしても、〈アノマリー〉は一体どこにいるのだろうか。


 京都市内に〈アノマリー〉がいることは確実である。


 多くの国民が地下シェルターに()(なん)する中、各地に(ちゆう)(ざい)するモニター役の魔法省職員より、『京都市内で〈アノマリー〉による大量破壊活動が発生』とのレポートを()()したのだ。


 そして、臨場したところ、実際に、()()の町並みは見るも()(ざん)に壊されており、どう考えても(じん)()(てき)ではない破壊活動の(けい)(せき)があった。


 もっとも、上空からは、(しつ)(こく)の〈アノマリー〉の姿は確認できなかった。


 〈アノマリー〉は(もの)(かげ)に隠れているのである。


 そして、大抵が荒れ地となったこの地において、破壊されずに残っていたのは、上空から見下ろす限り、歴史あるお寺の(しき)()だけだった。


 このお寺の広い敷地のどこかに〈アノマリー〉は必ず(ひそ)んでいるのだ。


 絶対に見つけ出してやる。


 そして、マムが現れる前に、一人で〈アノマリー〉を倒す、とユノは心に(ちか)う。


 しかし、この時、まだユノは気付いていなかった。


 本当の〈敵〉の正体に——。




 カナエが飛ばした〈(はと)〉が、ユノの背中をチュンチュンと(つつ)いたのは、カナエと別れてから十分ほど経った頃のことだった。


 本物の鳩ではない。

 

 カナエが魔法で作った(だいだい)色の〈鳩〉である。鳩に突かれたとき、ユノはお寺のお(どう)にいた。


 カナエがユノにSOSを送ったのだと気付いたユノは、橙色の〈鳩〉の案内に従い、すぐに飛んだ。無論、カナエを助けるためではない。ユノの()(がら)を奪われないためである。


 お堂を出ると同時に、夜の空が一瞬赤く光った。


 ユノは、光が見えた方へと急いで向かう。


 なぜだか〈鳩〉は、ユノがお堂を出た瞬間、パッと消えた。


 ユノは(あせ)っていた。


 あの赤い光は、マムの魔法に違いない。


 いつの間にやらマムが臨場し、しかも、ユノより先に〈アノマリー〉を発見し、戦闘を開始しているということだ。


 このままだと手柄をマムに取られてしまう。


 しだれ柳の木の下に、少女の姿が確認できた——暗闇の中なので断言はできないが、カナエとは服装が違うので、おそらくマムだろう。


 その少女が(たい)()している相手も、上空から見えた。


 それは、〈アノマリー〉ではなかった。


 それは、(よこ)(じま)のセーターを着た少女——カナエだった。


 〈対峙している〉という表現は不正確かもしれない。


 カナエは、白い(たま)(じや)()の上に血まみれで横たわっている。


 百メートルほどの距離があるため、断定できないが、おそらく——死んでいる。


 あの女に殺されたのだ。



「マム!」


 ユノは反射的にあの女の名前を叫んでいた。


 今考えると、これは(しつ)(さく)にほかならなかった。


 叫ぶことなく、攻撃すべきだったのだ。叫ぶことはマムに自分の居場所を伝えるだけの()(さく)に過ぎなかった。


 体勢はあまりにも不利である。向こうは地に足をつけている一方、こちらは空に浮かんでいるのだ。


 マムは、ユノを目掛けて片手を伸ばす。


 たったそれだけのモーションで、彼女は、手のひらから、彼女自身の身体の四、五倍はあろうかという大きさの〈火の玉〉を発生させる。


 不利だったのは体勢だけではない。

 悔しいが、魔法のレベルがあまりにも違う。


 ユノにできること——それは()(もの)(ぐる)いになって敵の攻撃を(かわ)すことだけだった。


 ユノは魔法に背を向け、逃げる。


 〈火の玉〉がこちらに迫ってくる。


 視界全体が真っ赤になる。


 避け切れなかったか。


 ユノは死を覚悟した。


 しかし——。


 パチン。


 ユノの身体に当たる前に、魔法は(はじ)けた。


 そのことの意味が、ユノにはすぐに理解できなかった。


 マムが行ったのは、攻撃ではなく〈()(くらま)し〉だったいうことがようやく理解できたのは、情けないことに、マムの姿を完全に見失った後だったのである。





「不慣れな戦闘ゆえ、〈アノマリー〉の攻撃を躱すので必死だったんです。カナエを守れなくて……本当に申し訳ありませんでした」


 魔法省職員の男性に、ユノは〈(きょ)()(ほう)(こく)〉を行った。


 その〈虚偽報告〉では、ユノがカナエと一緒に行動をしていたことになっているとともに、カナエが〈アノマリー〉の攻撃によって(じゅん)()してしまったことになっている。


 カナエが死亡した事実を除けば、全てが虚偽だと言って良い。


 実際には、あの日、ユノは〈アノマリー〉と(そう)(ぐう)しなかった。

 おそらく、遅れてやってきたマムによって(しゅん)(さつ)されたのだろう。


 そして、ユノの事後報告の中における最大の嘘は、間違いなく、カナエの死の原因だろう。


 カナエは〈アノマリー〉に殺されたのではない。マムに殺されたのだ。


 あれは〈戦闘〉ではなかった——〈殺人〉だった。


 ユノが嘘を吐いたのは、決してマムを(かば)うためではない。


 マムの力を借りなければ地球を守れないからと()()ったわけでも、決してない。


 ユノは、真実を話したところで、魔法省の人間は誰も自分を信じてくれないだろうと思ったのである。


 マムの〈犯行〉には、一切の証拠はない。


 ユノ以外誰も見ていなかったし、〈指紋の付いた包丁〉などの証拠品が残っているわけでもない。


 国がカナエの死体をどのように処理するのかについては、ユノには分からない。


 ()(ほう)(かい)(ぼう)ではなく、魔法少女の身体の構造を調べ上げるための解剖が行われるのかもしれない。


 ただ、その解剖によって、カナエの死が〈アノマリー〉によって(もたら)されたのか、それとも、魔法少女の攻撃によって齎されたのかを特定できるのかは、ユノには分からない。


 仮に後者の可能性が疑われたとしても、〈流れ弾〉によるものと結論付けられるのが(せき)(やま)だろう。


 魔法少女が魔法少女を殺すだなんて、そんな(とつ)()なこと、一体誰が信じてくれるというのか。


 ユノはまだ何も結果を残していないヒヨッコである。


 マムとユノとで主張が対立した場合に、魔法省の人間が肩を持つのは、確実にマムの方だ。


 ユノがマムのことを良く思っていないことはもう勘づかれているだろうから、ユノがマムを(おとしい)れようとして嘘を吐いているのだ、と判断されるに決まっている。


 ユノが真実を語るのには、まだ早い。


 ユノが真実を語れるのは、ユノがマムを超える実績を上げてからである。



「カナエは私にとって大切な仲間でした。今の私は、大切な仲間を守れなかったことの()()()なさでいっぱいです……」


 魔法省の職員の前で、ユノは拳を握り、歯を食いしばる。


 我ながら役者だなと思う。


 もっとも、ユノ以上に役者なのはマムである。


 マムは、当然ながら、自らがカナエを殺したことを黙っている。


 それどころか、カナエが死んだことがあまりにもショックで、しばらく魔法省に訪れることさえできないだろうとまで言っているのである。


 真っ赤な嘘である。


 あの女は人を殺しておきながら、完全にしらばっくれようとしているのだ。


 テレビやSNSで見ている時から、()(さん)(くさ)い奴だなとユノはずっと思っていたが、どうやらその直感は当たっているどころか、〈魔法少女マム〉はユノの想像を上回る〈ペテン師〉だったようだ。


「カナエがいなくなってしまってすごく不安ですが、新しい魔法少女が見つかるまでの間は、マムと二人で力を合わせて〈アノマリー〉と戦っていく(しょ)(ぞん)です」


 実際には、そんな(こころ)(づも)りは(もう)(とう)ない。


 マムは味方ではなく〈敵〉である。


 (あら)たな魔法少女の()(じゅう)も、要らない。


 ユノは一人で〈アノマリー〉と戦い、一人で地球を守るのだ。



 オーディブルを実装してからQOLが爆上がりしました。

 今回は宣伝ではありません。

 心からそう思っています。


 主に聴いているのは、神話系か過去の名作系です。

 原典では到底読めないような難しい話も、簡潔にコンパクトにまとめられたものがあり、仕事や作業をしながらの〈ながら聴き〉ができて超便利です。


 また、5歳の子どもも熱心に聴いてくれるので、食事中や寝る前などのテレビを見せたくない時間に、オーディブルを聴かせています。

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― 新着の感想 ―
ん? 零(ゼロ)? アニメ喰霊みたいな?(ォィ でもって……これは衝撃。 いろいろと見えていないというかカッティングされたからこそそんなシーンにしか見えませんね。 果たして本当に殺したのか。 そ…
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