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エルフ型次元超越ロボ猫~それはコスプレなのでは?~

 世界には不思議が溢れている。

 アマゾンの奥地だとか、深海何千メートルだとか、山の頂上に刺さってた杖とか身近なところだと女体の神秘だとか。

 それは県外での出張から地元に戻り、自宅へ帰る道すがらの事だった。


「え、いまなんて?」


 猫である。

 明るい紫色の毛並みの、なんだかまあるいシルエットが愛らしい猫である。

 道を歩いていたらコンクリート塀の側でごろりとしていたのを見かけたものだから、珍しい毛色に思わず足を止めてしまったのだ。

 丸まった身体は毛色とぽっちゃり気味の体躯と相まって茄子みたいだ。

 そんなねこちゃんが居たら、あなたどうします?

 そりゃもう視姦するでしょ。舐めるようにじっくりねっぷりとぐへへへへ。

 どれだけ時間が経ったかは定かじゃない。ふいに猫の瞼が持ち上がり、アジサイみたいな色彩の瞳がきゅーっと絞られて私を見抜いた。


「さっきからなんだ」

「あ、なんかすんません、つい」


 あまりにも自然に口を動かして渋い声で喋るもんだから、反射的に謝罪しその場を立ち去ろうと腰をあげかけた。


「いやいやいや、あなたこそなんですか。何を喋っているんですか」


 おかしいでしょう。猫が喋るなんて。いや、喋る猫がおかしいのか? とにかくおかしいのだと声高に主張した。


「猫。猫か。確かに我はこの世界における猫という生き物に擬態している」

「擬態。つまり猫ではないと」

「いかにも。我はエルフ型次元超越ロボなすび。この世界には休暇で来ている」


 とここで冒頭の私のセリフである。

 このなまもの、己は猫は擬態したといった。

 その上で、なんだ、その、エルフ? なんとかロボだとのたまった。


「いかにも。我はエルフ型次元超越ロボなすび。この世界には休暇で来ている」

「あ、ご丁寧にありがとうございます」


 割と親切な性格らしい。


「いやいやいやいや、そうではなくて。あなた猫なんでしょう。いや、猫じゃないんでしょう。その上で、エルフ型なんとかロボと」

「エルフ型次元超越ロボ」

「そうそのエルフ型次元超越ロボですよ。おかしいでしょう。エルフって何ですかエルフって。というより聞き捨てなら無いのはロボですよ。あなたちっともロボじゃない。エルフとロボじゃ水と油だ」

「水と油とは相反するものの例えと受け取ればよいのか?」

「そうです」

「何をおかしなことを。この身がエルフでロボであるのは自然なことだ」


 エルフが自然でロボも自然。おしい。僕じゃなきゃ騙されちゃうね。

 ドサクサにまぎれてロボを野に咲く一輪の花であるかのように括ろうとしているようだが、ひよこの中にプテラノドンが混ざっているかのような違和感は消しきれて居ないぞ。


「そして今は猫の姿をしているのだから、そなたもこの身と接する際は猫と接するように振舞うことだ。でなければ周囲から奇異の目で見られることとなろう」

「え、あ、それはたしかに……まてまてまて、猫は喋らないですよ。おかしいですよ」

「そうなのか?」

「そうですよ」

「そなたは細かい奴だな」

「そういう妙におおらかな部分だけ動物っぽさだすのやめてもらえません?」

「参考にしよう。ふむ。時にそなた。我と共にちょいと異世界に行ってそなたの種をばら撒いてはみぬか?」

「は? 異世界? 種?」


 もうこのあたりで私の思考回路は一定以上麻痺していたのかもしれない。

 情報過多で流れてくる情報を咀嚼できず、ざるで水を掬うような状態。聞こえてきた単語を反芻するでもなくオウム返ししていた。


「まあ、体験してみぬ事にはわからぬよな。どれ、そなた今時間はあるか」

「え? 今日は出張先から直帰なので、特に予定はありませんが……」

「では問題なかろう。我に掴まるといい」

「掴まるってどこに」


 いやそもそも何故掴まる必要があるのかとも思ったのだが、口に出すより前に猫、猫でいいのか? まあいいや猫が言葉を重ねてきた。


「どこでもよい。遠慮があるのなら尻尾にでも掴まっておけ」

「えっ! むしろいいのかよゲヘヘヘヘ」

「そなた偶にキモいな」

「ひどい」

「掴んだな? そら行くぞ」

「え? はひぇ――……」



----



 うとうとしていて一瞬意識が落ちた時のような暗転。

 瞼のシャッターを切った次の瞬間、世界は変貌していた。


「う、お、おぉ……?」


 コックピットだ。

 なんかよくわからないパネルとか操縦桿とかごちゃごちゃあって、何がどうとかさっぱり分からないがたぶんアニメとかで出てくる操縦席を具現化したらこんな感じのサムシングエルス。

 暗くは無い。

 全天周透明、というより外の景色を映し出しており、上部からは光が、足元には緑の大地、水平方向には草原と、遠くに灰色の建造物の群れが見える。


 あれは街だろうか。日本の国道沿いに突然現れる地方都市を遠望してもああいう感じには見えないと思う。


『次元超越の感想はどうだ?』


 突然声が響く。この渋い声はさっきの猫だろうか。足元や背もたれの後ろを覗き込むが姿は見えない。


『そなたの位置から我は見えぬよ。そなたは我の中に在る』

「なにそれこわい。私食べられちゃったんですか?」

『そうではない。先も伝えたが我はエルフ型次元超越ロボ。それ故そなたに搭乗してもらったまでの事よ』

「搭乗。搭乗した。乗った。ああ、なるほど、私は今ロボの中なんですね?」

『そう言ったし、そなたの現状はそうなっている』


 ははーん。

 この際エルフがどうとかは横に置いといて、あの猫の本体は次元超越ロボな訳だな。

 それもまるで意味が分からないがエルフをノイズとして捉えれば一先ず状況に納得はできる。できるか? しよう。もうヤケクソだ。


「えっと、それじゃあここは異世界なんですか?」

『そうだ。我が奉仕する世界『コゥヘンバルム』である』

「コゥヘンバルム。じゃあ私が居た世界はなんと呼ばれているのですか?」

『特に名称はないな。管理番号は休養世界MNK7786と定義されているが、特称は定着していない。むしろ記録によればコゥヘンバルムよりMNK7786に次元超越した存在は我をおいて他に無いらしい』

「へー。じゃあ私は私の世界から初めてコゥヘンバルムを訪れた人なんですね」

『肯定する』

「それで、なんでしたっけ。なんかこっちへ跳ぶ前に種がどうとか言ってた気がするんですが、あれって一体何なんです?」

『言葉の通りだ。そなたの生殖器を用いて、この世界の女性と生殖行為を行って欲しいとの依頼だ』

「はあ。それはまたどうして」

『この世界は色々あって男が非常に少ないのだ。繁殖自体は人工的に行うことが可能であるため滅びはしないのだが、自然繁殖に対する信仰心が根強くあってな。その相手探しとして我のようなエルフ型次元超越ロボが開発され、別世界より男を招待しているのだ。理解出来ただろうか』

「なんだか雲を掴むような話だ」

『ふむ。つまり実感が湧かないということかね』

「おおむね。第一どうして私なんです? 私の世界には男性はいくらでもいるように思えるのですが」

『我の姿が見えただろう』

「は? そりゃ見えましたけど」

『我の姿は通常、休養世界MNK7786では認識されないのだ。姿を認識されないが故の休養世界』

「えっ、じゃあどうして猫の姿を?」

『現地生物に擬態するのは我の趣味だ』

「趣味」

『視認にはコゥヘンバルムで呼称するところの魔力が必要でな。そなたの世界には魔力を帯びた生物が確認されていなかったので休養世界として登録されていたのだ。そんな世界でそなたは魔力を持ち、我を認識した。実の所この世界で生殖するにあたって魔力の素養は必須でな、魔力持ちの存在自体も珍しくこの所空振り続きであった所にそなたが現れた』

「だからつれてきてみたと」

『そんなところよ。案外、事前の世界線魔力検査などアテにならぬ物なのかも知れぬな。それでどうだ? 気が変わったのなら元の場所へ戻すが』

「いえ、せっかくなのでもう少し見学してみたいです」

『そうか。では街まで移動するとしよう。特に危険は無いが、椅子に深く腰掛けるがよい』


 私は飛行機には乗ったことがあるがヘリコプターには乗ったことが無い。

 たぶん日本で暮らしている人の大半がそうなんじゃないだろうか。

 この日私は、ヘリコプターに乗る前にロボに乗って空を飛んだ。きっとそんな日本人はほかにいるまい。すごいだろう。





『到着だ。コックピットを出たら地面に降ろす。足元に注意するがいい』


 ロボのフライトは2分足らずで終わり、街に到着した。

 遠望する限り少し変わった雰囲気の街だな、くらいの印象だったのだが、街中は思った以上に日本と代わり映えしなかった。

 戸建ての家と敷地を囲うブロック塀が区画を作り出すところなんかまさしく日本的で、一つ一つの区画の大きさが東京ドーム一個分でなければ私は日本の空を飛んでいるのかと錯覚していたかもしれない。

 そんなことよりもみなさん。

 皆さん。

 みなさん!

 たいへんですよ!

 私は今、男子がロボがらみで憧れるシチューエション第三位、コックピットからロボの手の平にのって地上に降りるを実行しております!!!!!!

 第一位指を鳴らして高らかにロボを召喚し搭乗する、二位複数編成の合体ロボで合体完了後中央コックピットヘ座席が移動した後合体ロボ名を叫び起動させるに次ぐ第三位の、あのシチュエーションです!(個人調べ)

 別にエレベーターやリフトと大差ないんですが、それを行うのがロボの手というだけでこんなにも興奮するんです。

 ダレがナニをするのか、それが大事なのです。


「おおーなすびぃ~! まさかお前が男をつれてきてくれるなんてぇ!」

『それが使命ですので』


 と、私が手の平の上で顔色を変えず興奮でヤバイ事になっている間に、敷地の家屋から家主と思われる人物が飛び出してきた。

 おっほ、けもみみだ。


 大変たわわな肉体をお持ちの桃色髪の女性の頭頂部にはヒコヒコ動く犬か猫かなんだかわからないが、とにかくシルエットとして三角形のふぁっさふぁっさした耳が、否、お耳様が鎮座している。


 素晴らしい。

 ロボにコックピットから手の平で降ろしてもらいながらリアル獣耳を拝めたのだ。おじさんもう何でも言う事聞いちゃうぞ。


 大地を踏みしめる。

 地面はどこであろうと地面らしい。

 すると背後がピカっと輝く。

 振り向くとロボらしき影はどこにもなく、萌黄色の髪をした線の細いザ・エルフとしか言いようの無い男性がこちらへ向かって歩いていた。

 しまった。ロボの全容を見ていない。


「博士、ただいま帰還しました」

「お、おおおぉ~でかしたぞなすびぃ~!」


 博士と呼ばれた女性が彼へ向かって突進し肩を掴んでガクガク揺さぶっている。

 なすびと呼ばれた男性は細面に若干嫌そうな表情を浮かべていた。

 というか。


「あなたエルフだったんですね」

「初めからそう言っているではないか。我はエルフ型次元超越ロボであると」

「お名前はなすびさんでよろしいんですね?」

「博士にそう名付けられた。あと敬称は不要だ」


 なすびなのになすび色じゃない。

 なすび色とは何色かと問われれば、若干思案したのち紫色と答える他無いが、どこからどうみても萌黄色のエルフになすびと名付ける才覚は中々尖ったものを感じる。

 子供のそういう感覚は頭から否定せず大事にしてあげて欲しい。

 名付け親は目の前のアダルトな女性なので今回はそっと目をそらしておこう。


「はじめまして。サイタマ・ケースケです」


 私が名乗ると博士と呼ばれた女性は挙動不審になった後、顔の前で拳を握ってじーんと染み渡るような感慨に耽った。


「お、お、お、おおおおお男だぁ……本物の男だぁ……」

「男性ならなすびがいるではないですか」

「けーすけよ。そなたは飼っている愛玩動物の性別を自らの種族と同列に考えるのか?」


 唐突にドライだ。

 だがちょっと考えてもみよう。例えば核家族にペットが一匹いたとして。


――家にはお母さんで女の子が一人、お父さんとタケシで男の子が二人だな! ん? タマもいるから三人だ? ハハハ一本とられたな!


 となるのが自然だ。たしかに基本的には同一視しないって事で賛成しよう。

 一つ問題があるとすれば会話可能な人型のペットというものが地球には存在しない所だろう。


「ロボ三原則にもそうある。一、博士大好き。二、博士のお手伝い大好き。三、他の女に油断しない」

「なすびさん。あなたって実は騙されやすかったりしませんか? あと一と二に比較して三だけやけに生々しくて女性の嫌な部分が垣間見えます」

「お、おはずかしい……こんな女は嫌ですか?」

「比較的嫌ですがそれを差し引いても貴女は素晴らしい女性です。お名前を伺ってもよろしいでしょうか」


 内面など慣れればよいのです。

 外面も慣れればよいのです。

 大切なのはフィーリング。つまり女性は素晴らしい。そういうことなのです。

 なお博士女史は大変優れた容姿をお持ちです。B102、W64、H98、だぼついた白衣を身に纏おうともこの私の目は誤魔化せません。

 会社の女性にはドンピシャすぎてキモイと評判な私のサーチアイも、黙っておけばただの役得なのです。

 でも、博士はちょっと運動したほうがいいかもしれませんね。アンダーが、その……。


 ちなみに仕事上販売物のサイズを判断するために磨かれたもので、趣味が高じて手に入れた能力ではないのであしからず。本当ですからね。


「はう! オードレーヌです。親しい人はレーヌと呼びます」

「博士に親しい人などいただろうか」

「初期化するぞクソロボ」

「ひどいぞ博士」


 なすびをドスの効いた声で威嚇するオードレーヌさんは裏表の無い性格の女性らしい。

 汚い部分を隠そうともしない、潔いと思います。


 私の良い所を一つ挙げるとするならば、明るく何事にも前向きな考えを崩さないところです。


「あ、あのっ、けーすけさん」

「はい。なんでしょうか」

「これは別に全然相性とか潜在意識とかそういうの調査するための質問じゃなくて、ただ私が知りたいだけの質問なんですけど!」

「あっはい」

「カ、カードが二枚あります。上と下、どちらをとりますかっ!?」


 え、なにこれ。

 オードレーヌさんはすごい鼻息で迫りながら血走った眼で訊ねてきた。

 

「じゃあし」

「下ですかっ! 下っ、下……っ!」


 喰い気味に来てトリップしはじめた。

 なにこれこわい。下だと何なの。


「けーすけよ。今の質問はコゥヘンバルムでは一般的な性交時の体位についての質問だ。カードの位置が体位を示唆しているという女子しかいない世界で生まれた悲しい妄想だから博士を哀れに思わないでくれ」

「男子も似たようなものだから別にいいですが……」


 人差し指と中指で作った輪があそこのサイズと比例するとか、親指の長径がアレの長径と比例するだとか、今の質問はそういう奴だろう。皆誰でも子供の頃に通る道なんだ。こっそりなすびに確認したところ、目の前の女性は22歳だそうだが。


「じゃ、じゃあけーすけさんっ! お茶、お茶しませんか? うち、今おいしいお茶があるんですよ! お茶好きですか!?」

「ええ、お茶は好きですよ。別世界のお茶がどんなものなのか興味もありますし」


 お茶だけ出して終わりにする心算がないてんぱった様相を呈しながら、オードレーヌさんは僕をちょっとすっぱいにおいがする家屋へ引きずっていくのだった。




----




 ははーんなるほどね。


 なんでコゥヘンバルムに連れて来る条件が魔力を持つ男性なのか不思議に思っていたのだけれど、謎は全て解けました。

 隣にはつやつやした顔ででシーツに包まってすやすやしている全裸のオードレーヌさん。

 ご機嫌に閉ざされた睫毛も桃色なんですね。とってもファンタジーで素敵です。

 真白な肌に桃色のふわふわヘアーも実に映えます。

 先ほどまでの蛮行が僅かな間だけ忘れられそうです。

 彼女のけもみみが犬か猫かその他か分からないとお伝えしましたが、いずれにせよ肉食系であることは間違いが無いようです。


 いやね、確かに私も『HEY! YOU! 異世界で種巻いてみない?』と訊かれて『お、農業かな? いくいく^^』とホイホイ付いてきましたけれども。

 この身一つでどうとでもなろうと楽観していた部分は多分にありましたが、まさかお話、お茶、セェェックスの神速三段落ちを女性に極められるとは、まあちょっと考えていませんでしたね。

 今日日「うちの部屋絨毯変えたんだけど見にこない?」みたいなナンパの文句でもここまで速攻じゃないでしょう。

 私はいつでもウエルカムなんで別にいいのですが、それも過去形になりそうです。ぐすん。


 兎の性行為は激しいといいますが、男性が枯渇している世界の女性も本能的に激しくなるようであると身を持って体験しました。

 行為そのものもかなり激しい野生的な物でしたが、マジもぅむりとなればすかさず飛んでくる回復魔法。これが行為の激しさを助長させていました。


 まさか初めて目にした魔法がファイアーとかサンダーでなく倒れた息子の死者蘇生になるとは思いもしませんでした。がんばれっがんばれっ。


 回復魔法というのは対象の魔力を消費して行われるらしく、なるほど、だから連れて来る男性は魔力が必要だったんですね。


 加減しろ、馬鹿っ!



 切実かつしょーも無い理由が発覚したところで改めて異世界、別世界探索と洒落込みたい所なのですが、この調子で往来を歩いたらたちまちに取って喰われる(意味深)のは明白。

 それにどれだけこちらで過ごしたのかわかりませんが、体感的にそろそろ出社の時間が迫っているように思うのです。

 そーっと、恐らく虎と同じ檻に入れられても私はここまでそーっとしないんですが、それはそれはそーっとベッドから脱出し、隣の部屋に続く扉を開けます。

 意外と取っ手が付いたガチャっとした扉です。未来的なプシューンじゃないです。

 隣接したリビングへ出ると、優雅にカップを傾ける元凶たる萌黄色のエルフ型次元超越ロボが居ました。


「居たなら助けてくださいよ」

「ロボ三原則で博士の意に沿わぬ事は出来んのだ」

「え、もしかして私ってここから帰れないとか?」

「そんなことはない。事はあくまで合意の上で成されなければただの誘拐ではないか。きちんと元居た場所まで送り届けるぞ」


 そういう問題なんだろうか。

 まあ望み通りの展開になったとしても望み通りになるとは限らない、貴重な体験だったと思いましょう。


「こちらの時間の単位が分からないので基準が分からないのですが、今って何時なのでしょう」

「時間の単位はそなたの世界とほぼ同じだ。一日を二十四分割しそこから更に六十分割と六十分割だ。コゥヘンバルムの方がMNK7786より一日の時間が若干短いが、ヒトの感覚として有意な差ではなかろう。そちらの時間で現刻は七時五十八分となっている」

「うわー割とギリギリだなあ。仕事に向かわなければいけないんで、すぐに送ってもらえますか?」

「承知した。庭へ出るぞ」


 すたすた歩き出すなすびの後に続き、扉を二つと廊下を一つ抜けると庭に出た。


「太陽が黄色いや」

「医者にかかることを推奨する。コゥヘンバルムは改造太陽K9998を周回する惑星だが、可視光線はそなたの世界の物とかわらぬ。よって黄色く見えるとするならばけーすけ自身の色網に異常がある可能性がある」

「ただのヤリ疲れだよ」

「うちの博士がすまんな」


 神速の手の平返しだ。なすびも創造主に似て潔い性格らしい。


「けーすけよ。我が誘えばそなたは再び博士の下に訪れるだろうか」

「うーん、休みの日にして欲しいかな。体力には自信があるほうだけど、流石にアレの後に仕事はきついよ」

「男性的な感覚についてはそなたの意志を尊重しよう。何分この世界には情報が少ない。して、けーすけよ。そなたはコゥヘンバルムに再訪する意志はあるか?」

「いやー暫くはいいかな」

「うむ。データベースによればコゥヘンバルムを訪れた男性の八割はそのように思うらしいな。そして二度と来訪しないと聞く」

「分かってるなら加減して欲しいぞ」

「うむ。伝えておこう」

「あ、そうだ。なすび。ロボに変化したあなたの姿を見せてくれませんか?」

「何故だ? 転送にロボ化は必要ないが」


 ロボ化。聞きました? ロボ化ですって。

 フヒッ、あれロボ化っていうんだなぁ。


「それならどうしてこちらに来た時はロボの状態だったのですか?」

「あの時は待機中の我の本体を座標に指定していたからだ。街中の異世界人召喚は都市条例違反だからな。危ないだろう」


 危なかったのか。

 先に言ってくれればもう少し慎重に君の誘いについて考えたんだけどなぁ。


「では何故ロボ化なんて機能があるんです?」

「我はエルフ型次元超越ロボなのだから、ロボにならなければ、それはただのエルフ型次元超越装置だ」

「うん、そうですね。私が間違っていました」

「何故そのような属性を持たせたのかに関してならば博士の趣味だ」


 博士の好感度が上がった。


「他に無ければ転送するが、もうよいか?」

「はい。お願いします」

「うむ。ああ、そうだ。ちなみにだがけーすけよ。そなたは特に回復魔法を扱う素養が強いらしく、学習さえすれば元の世界に戻っても訓練次第で使えるように」

「詳しく」

「我の写し身はあの姿のままそなたの世界にある。都合の良い時分に声をかけるが良い。今日は時間がないのだろう?」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬ」


 魔法、魔法だ。魔法が使えるらしい。

 なんてことだ。男の子なら誰でも憧れる魔法だ。いや、女の子も憧れる魔法だ。

 それが!

 学習すれば!

 訓練次第で!

 使えるように!

 なるらしい。

 やるでしょ。どれだけの危険(肉食獣)が待ち受けていようとも、そりゃあやるでしょ。

 うおおお一気に明日への希望が湧いてきた。魔法だ魔法。一昔前に読んだ物語みたいに回復チートでハーレムウハウハするんだ。あ、やっぱ女の子はいいや。桃色に若干トラウマが。


「けーすけさん! もう行っちゃうんですかっ!」

「ヒエッ」


 い、いまはまだ時ではない。それだけだ。

 なすびさん、やっておしまいなさい。


「では行くぞ。この度の来訪及び要請への対応、誠に感謝する」

「あああああああぁぁ~けーすけさぁぁ~んっ! あと十五回だけぇ~!」


 初めての異世界は、慇懃なエルフ型ロボとふわぷよ肉食系獣耳女子のそんな声に見送られ、瞬き一つの間であっけなく終わったのだった。




 コンクリートの塀に囲まれた片側一車線もないような狭い道。なすびと出会ったその場所だ。

 自宅は歩いて二分の位置にある。スニーカー越しに感じるアスファルトのぶつぶつ、ほんのりガス臭い都会の空気。摩訶不思議な冒険から帰って来たのだという実感が湧く。

 ファンタジーはファンタジーでもSFの方だったなぁ。いやけもみみはファンタジーに入りますな。

 なんてぶつくさ言いつつ自宅へ歩み出した私の行く手を阻む影が一つ。


「ほぅ。そなた、面白いものが憑いておるのぉ?」


 ふっさふさの狐耳に、正月くらいしかお目にかからない巫女服。今度は狐って分かったぞ。

 ああ、どうやら帰ってきてもファンタジーらしい。




競馬に勝ったので投稿です(´・ω・`)来週も勝てるといいねハム太郎

思いついたとき更新なんで不定期更新です。

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[一言] ラララ単勝と抑えのワイド馬連も的中してしまい某同人イベいってたせいで勝ち逃げだよ! たまにはそんなこともあるよね! マイルCSは誰かのせいで横典激押しになったので1-2番人気はねぇだろどう…
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