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赤月さん、添い寝のお願いをされる。

 

 大上君が私の部屋に居る、というだけで雰囲気が一気に明るくなるのは気のせいではありません。


 何と言いますか、一緒に居て気疲れしないようになっているのは私が大上君に慣れたのか、それとも大上君自身の成せる穏やかな空気のおかげでしょうか。


 緩やかに、穏やかに。

 けれども、時は過ぎていくものです。


 お茶を飲みながらテレビを見たり、ちょっぴりお話をしたりしていると、いつの間にか寝る時間がやって来ていました。

 時計の針が進んでいるのは目の錯覚などではありません。


「……」


 溜息を吐きそうになっているのを何とか我慢してから、私は湯飲みに入っているお茶を一気に飲み干しました。

 あと数時間後には大上君とお別れの時間がやってくるのだと認識しては、寂しさが込み上げてきてしまいます。


 そんなことを思っていると大上君が私の前に正座して、そして真面目な顔で言い切りました。


「赤月さん、お願いがあるんだ」


「お願い、ですか?」


 大上君はかなり真剣な様子ですが、一体どのようなお願いなのでしょうか。私はごくりと唾を飲み込みます。


「うん。……赤月さんと、一緒に寝たいです」


「っ……」


 大上君の突然の言葉に私は石のように固まってしまいます。

 せっかく静まっていた熱が、ふつりと沸き上がってきたような気がして、私は口を動かすことしか出来ませんでした。


 大上君はどういう意味を込めて、そのようなことを告げたのでしょうか。私はおずおずと下から覗き込むように大上君を見上げます。


「あ、もちろん、変なことはしないよ? ただ、隣で眠るだけで、赤月さんに……その、手を出すなんてことは絶対にしないって約束する」


「……」


 どうやら、やましいことは考えてはいないようで、純粋に私と一緒に寝たいと思っているようです。


 そういえば、初めて大上君の部屋に泊まった時にはいつの間にか隣で寝ていましたね。

 私が雷を怖がってしまったので、隣に居てくれたことは嬉しかったのですが、いつの間にか二人とも眠ってしまって、朝起きた時に一緒に寝ていてとても驚きました。


 あの時、感じた熱を何となく思い出してしまい、私は大上君から視線を逸らしました。


「ほ……本当に、変なことは……しない、ですよね?」


「しないよ。……抱き着くことはあるかもしれないけれど」


 大上君も少しだけ照れているのか、頬が赤くなっています。その頬を指先で軽くかきながら答えました。


「うっ……」


 ついつい大上君に抱きしめられる状況を想像しては、私はかっと頬が熱くなっていくのを感じていきます。


 別に、大上君に抱きしめられることが嫌だというわけではありません。ただ、そういうことに慣れていない私が気恥ずかしく思ってしまうだけです。


「赤月さんを感じて、眠りたいんだ。温度を……覚えておきたくて」


「……言い方に何だか含みがあるように感じるんですが」


「だって、明日からは赤月さんと離れた場所で眠るんだよ!? 一人だよ、一人! 辛すぎる日常が明日から始まるんだよ!? だからこそ、せめて今日くらいはと思って……」


 大上君はまるで叱られたことで、しょんぼりと耳が垂れた犬のような表情をします。そんな顔をされると甘やかしたくなるではありませんか。


 でも、お互いに離れて、寂しいと思う気持ちは一緒です。

 一緒ならば、大上君のお願いを叶えてもいいのではと思ってしまった私は視線を出来るだけ重ねないようにしつつ、答えました。


「……分かり、ました……」


 掠れそうになる声で答えたというのに、大上君の耳にははっきりと聞こえてしまったようで、彼はぱぁっと笑顔を浮かべます。


 本当に私は大上君に甘いですね。でも、大上君が喜ぶ顔を見るのが好きだなと最近、自覚しました。


 今にも抱き着かんばかりに動こうとしていた大上君ですが、さすがに自重したのがぐっと動きを止めていました。


「ありがとう、赤月さん! 今夜は同じベッドで宜しくね!」


「だから、変な含みがあるような言い方をしないで下さいっ……!」


 何となくですが、今夜は色んな意味で眠れなさそうです。

 そんな覚悟を決めるしかありませんでした。

 

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