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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
三章 惨聞の雷精
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タスクの弱さ

「ったく、油断も隙もねぇな……」

 投げ飛ばした俺に向かってそう言いながら、黒バンダナは拳と首をボキボキ鳴らす。

 武器を持ってないことからおかしいと思っていたが、どうやらこの男は格闘家みたいだ。

 どうにか不意打ちで仕留めたかったが、ライト君を助けてホッとしていたため、黒バンダナの隙に二重構成の魔法は、咄嗟に発動出来なかった。

 実戦経験の浅さと甘さが、ここにきて千載一遇のチャンスを逃すことに繋がってしまった。

「はああああああ!」

 俺の後方ではリナさんが盗賊相手に大立ち回りを演じているのだろう。彼女の叫び声と盗賊の悲鳴と剣戟の音と何かが燃える匂いが同時に訪れる。

「お前ら何者だ? 何故こんな凄腕が俺達のような辺境の盗賊を相手にする? 大した報酬も貰えないだろうに」

 忌々しそうな顔をしながら、黒バンダナは訊ねてくる。

「何故かと言われれば、偶然としか言いようがない」

「偶然だと?」

 黒バンダナは俺の言葉に目を見開く。

「ああ、もしお前達が子供攫っていなかったら、攫うのが来週だったとしたら、俺達はお前と対峙する事はなかったと思う」

「ちっ! 偶然に盗賊団を潰されちゃ堪んないだが……な!」

 言葉を言い切らないうちに足を踏み出して、こちらに突っ込んでくる黒バンダナ。

(速い!)

「しっ!」

 予想以上のスピードで迫る黒バンダナに、術式偵察を発動しつつ牽制のダートナイフを反射的に放つ。

「…………」

「な!」

 だが俺の投げたナイフは、黒バンダナの人差し指と中指に挟まれる形で止められる。

 黒バンダナはナイフを投げ捨てて、驚いている俺に肉迫すると右の脇腹に拳を叩きつける。

「ぐ……くそっ!」

 殴られた痛さに耐えながら目の前の相手に拳を振るうが、相手が素早く後退したため空を切る。

「ひゅー、危ない、危ない。

 お前、そんな見た目なのに力だけはありそうだったからな。

 最初に投げ飛ばした時から嫌な予感がしたんだよ」

(不意打ちのとき攻防で、貫通の威力を察したのか……)

 そう考えるている最中も拳を喰らった右脇腹は、ズキンズキンと俺の鼓動に合わせて痛みを発していた。

 鼓動程度の震動で痛みを感じているという事は、肋骨が折れるかひびが入った証拠だろう。

 不意打ちで仕留められなかったために、この様だ。

「大丈夫! 怪我は?」

 他の盗賊を全滅させたのか、リナさんが燃え盛る剣を持ちながら、俺の横に並び立つ。

「問題ないです。他の盗賊は?」

「全員倒したわ。レインも手伝ってくれたから思ったよりも早く済んだの」

 不敵な笑みを浮かべながら話すリナさん。

 結果的に俺が黒バンダナを引きつけたため、スムーズな殲滅が出来たみたいだ。

 それに彼女も今までに結構な修羅場をくぐってきてるのだろう、言動にはまだ余裕が感じられる。

 その様子を見て、黒バンダナも忌々しそうな顔をしている。

「あとはこいつ1人よ。一気にやってしまいましょ――」

「待ってもらえますか。こいつは俺1人でやります」

 俺のその言葉に、リナさんはおろか黒バンダナの男も驚愕の表情をしている。

「もう目的は達しているわ。こいつと戦うのに危険を犯す必要は何処にも――」

「あります」

 リナさんの言葉の途中で彼女の意見を否定すると、そのまま言葉を続けた。


「こいつと戦って俺は自分の弱さを克服したいんです。

 もちろんこの状況で1対1で戦うなんて、甘いことを言っているのも分かっています。

 だけど今のままの俺じゃダメなんです。心の弱さを抱えたままじゃ、いつか大切なものを奪われしまう。

 だから全力で戦ってコイツを……倒します」

 俺はそう言って黒バンダナを睨みながら、マルコさんに言われたことを思い返す。

 マルコさんは力を示して人に舐められないようにしろと言った、奪われないためにと。

 だけどそれをすぐに行動に移してちゃんとできると思えるほど、俺は自分に自信がない。

 自信のなさは心の弱さだ、そこに甘さが生まれる。

 先程もライト君を救出できて目的を達したために、心のどこかで安心してしまった。

 そのせいでレインさんが作ってくれた隙を生かせなかった。

 結局のところ俺は、自分に自信がないから、その自分のために動くことに違和感を覚えてしまう。

 何かのため、誰かを守るためじゃないと全力が出せない。

 他人に依存しないと自分の価値を見出せない。

 でもそれじゃあダメだ、この世界で生きていくためには、誰かのために人を殺す覚悟だけじゃまだ足りない。

 だからこの強敵を、俺自身のために殺す。

 この経験を自分の糧にするために、これからも戦い続けるために。

 ウォーロックとして生きるために。


 リナさんは俺の我侭を聞いて呆れた顔をしているが、説得は諦めたようで、牽制のために黒バンダナのほうに向けていた剣を収めながら、後ろにさがっていく。

「好きにしなさい。でも死んだら殺すわよ」

「了解しました。

 ということで付き合ってもらうよ」

 リナさんの言葉に頷いたあと、黒バンダナに笑みを浮かべながら話しかけた。


「随分と講釈を垂れていたが、つまるところこの俺を利用しようってのか。舐められたもんだ」

 不機嫌な表情で黒バンダナは俺を睨みつけてくる。

「舐めてはいない。評価してるからこそ利用させてもらうんだよ。

 ところであんた、相当な実力があるみたいだが、どれくらい強いんだ?」

 相手の睨みを意に介さずに、質問を投げかける。

「あ? 何でそんな事を教えなきゃいけな……まぁいい教えてやろう。

 お前のように思い上がったBランクの冒険者なら、今までに何人も殺してきたな」

 俺をしり込みさせるためにそう言ったのだろう。殺してきたと言ったときの表情は、こちらを脅すような顔をしていた。

「そうか、でも俺は今Cランクなんだ」

 そんな脅しなど気にせず言葉を返す。

「Cランクだと?

 そのランクで俺とサシでやろうってのか? ふざけるのも大概にしろよ……」

 黒バンダナは歯を噛み締めながら、俺に怒りの視線を向ける。

「ふざけてもいないさ。ただ……」

 右手を前に突き出し、半身で構えながら言葉を続ける。

「あんたを倒せたら、少しは自信がつきそうだ」

「それを……ふざけてるって言うんだろうがあああああ!」

 相手が叫びながらこちらに走ってきて、俺と黒バンダナの戦いの2回戦が開始された。


「オラッ!」

 先の戦闘よりも速い動きで肉迫した黒バンダナは、右の拳で顔面を狙ってくる。

(避けられる……)

 初撃は回避に専念しようと決めていたため、上体を反らして拳を避けると、体を戻しながらこちらも右拳を放つ。

「馬鹿が!」

 俺の拳をまた絡め取って投げ飛ばそうとする黒バンダナだが、それを見ながら術式を唱える。

「術式構成・雷」

「な!」

 途端に俺の腕が放電し始め、俺の腕を掴んでいた黒バンダナは、バチンという音と共に電圧によって腕が弾かれて、両手を上に跳ね上げる。

「貫通」

 そのまま万歳の格好をしている相手の腹に狙いを定めて、貫通属性を持った蹴りを踏み込んで放つ。

「くそがああああ」

 黒バンダナは叫びながら身を捻ると、なんとか俺の蹴りを回避して、地面を転がっていく。

 そのまま転がって離れた位置で起き上がると、右脇腹を抑えながら苦悶の表情を浮かべる黒バンダナ。

 よく見ると、脇腹から血が流れている。どうやらこちらの蹴りが掠ったようで、掠った部分の肉が抉り取られているようだった。

 その証拠に奴を蹴った俺の右脚に血が滴っていた。

「お前、何をした? それにこの蹴りの威力……いったい何なんだお前は!」

 驚愕の表情で俺に問いかけてくる黒バンダナ。

 俺はその問いに答えるため、右手を上に向けて術式を唱える。

「術式構成・雷」

「な……なんだそれは……まるで」

 バチバチと放電を続ける俺の掌を見ながら、戦慄した顔で呟く。

「魔法みたいか? 正解だよ。俺は男性魔術師だからな」

「何を馬鹿なことを――」

「貫通」

 そう唱えて掌を相手のほうに向ける。

雷撃強襲サンダーアサルト!」

 発動している雷にそのまま貫通属性を追加して雷撃を放つ。

 黒バンダナがそれを驚愕の表情で見たものの、しっかりと回避行動をとったため、彼の真横の壁に穴を穿つ。

「自分が見たことなら信じられるだろう?

 一番最初にこの部屋の中に放ったのは俺の魔法だよ」

「男性魔術師……ね」

 黒バンダナは、壁に当たりまだバチバチと鳴っている雷撃を見ながら呟くと、視線を再び俺のほうに戻す。

 その瞳はまだ闘志を失っているそれではなかった。

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