表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
三章 惨聞の雷精
61/74

想定外の実力者

雷撃強襲サンダーアサルト!」

 部屋の扉を突き破って、雷鳴と閃光を伴った魔法は中の盗賊達にパニックを引き起こす。

 ――うあああああああ

 ――なんで部屋の中に雷が!

 ――落ち着け! お前ら!

 1人だけ冷静な人間がいるようだが、構わず部屋の中に突っ込むと、ライト君の傍にいた盗賊に対してダートナイフを投擲する。

「があああああ! いてええええ」

 一撃で仕留めるつもりだったが、極度の緊張感からか額に当てるつもりだったナイフが、盗賊の右目に突き刺さってしまった。

「ちっ!」

 予定とは違うが、どうせ距離を詰めることには変わらないので、ナイフを鞘から逆手で引き抜くと、突進の勢いのまま右目を押さえている盗賊の首に突き立てる。

「敵だ! 1人やられたぞ!」

 盗賊の1人が、ナイフを突き刺した俺を目撃して声を上げる。

「リナさん! レインさん!」

 俺が後ろ振り返りながら呼びかけると、彼女達は既に魔法を放つ体勢に入っていた。

「炎よ……爆ぜろ!」

「水よ……守れ!」

 リナさんの放った魔法は、盗賊集団の中心で爆発を起こす。

 それと同時にレインさんの放っていた魔法は、俺とライト君を爆発の熱からから守るように水のカーテンを形成する。

 俺はその隙に、ライト君を縛っているロープをナイフで切断すると、彼を抱えて一旦レインさん達のところに戻る。

 ここまでの流れを30秒足らずで行えた。

 とりあえず救出までの流れはほぼ完璧と言っていい。


「思ったより数が減らせませんでしたね」

「ええ、爆発でもう少し減らせると思ったけれど……」

 俺の呟きにリナさんが苦い顔で答える。

 救出までは完璧だったが、ここからは予想と違った。

 霧の森の時の様に、リナさんの強力な魔法で牽制する手も考えてはいたが、人質の周りに盗賊が1人しかいないチャンスを逃したくなかったのですぐに突入した。

 そうしたのもリナさんの強力な魔法じゃなくても、もっと数が減らせると思っていたからだ。

(だけど仕留められたのは2人だけ……)

 燃えている盗賊の死体を見ながら顔を顰める。

 仕留められなかった理由は分かっていた。

 声をかけられ冷静になった盗賊が回避行動をとったからだ。

 そう苦々しく思っていると、冷静になるように盗賊に促した男が俺達に向けて話しかけてきた。


「お前ら、冒険者か?」

 鋭い眼光で話しかけてくる盗賊の男。

 頭には黒いバンダナをつけて、上半身は裸、下半身は革製のズボンを穿いていて、周りの盗賊とは一線を画している。

 纏ってる雰囲気もドーザや魔獣を除くと、今までで一番危険なものを感じた。

「ああ、この子を取り返しに来た」

 俺がそう言うと、黒バンダナの男はニヤリと笑い言葉を発する。

「驚いたな。こんな辺境に子供を取り返しにくるような、実力と気概を持った冒険者がいるとは思わなかった。

 おまけに魔術師の連れまで一緒だとはな」

 奇襲されたにも関わらず、冷静な口調で話す黒バンダナ。

 彼に影響されるように、周りの盗賊たちも冷静さを取り戻しているようだった。

(まずいな……)

 霧の森の時のように混乱させて撃破するのが理想的だったが、こいつ1人のせいで完全にその目論見は潰された。

「それによく見れば女は上玉と来てる。しかも片方はエルフだ。

 まだエルフとやったことはないから、これは楽しめそうだ」

 俺の心境などお構いなしに、レインさんを見ながら下卑た発言をする黒バンダナ。

 他の盗賊たちもそう言われて彼女達の容姿に気付いたのか、嫌な笑みを浮かべている。

「…………」

 恐らく隣ではリナさんがゴミを見るような視線を向けているのだろう。怒りの感情が雰囲気から伝わってくる。

「おい! 冒険者! 女を置いていけば、ガキを返してやっても良いぞ!

 お前は無事に帰れて、報酬ももらえる。すべて丸く収まるだろう? どうだ?」

 黒バンダナはさも、「いい提案だろう?」という表情でそう言うが、その申し入れを拒否しようと口を開こうとした時に、隣から静かに剣を引き抜く音が聞こえた。

 リナさんはおそらく怒っている。こういう手合いが彼女のもっとも嫌う類の男なのだろう。

 もちろん俺もこんな虫唾が走るような男を倒すのに、慈悲の気持ちが生まれないぐらいには嫌いだが。

「交渉決裂か……」

 黒バンダナは残念そうに言うが、その表情は最初からこうなることが分かっていたように笑っていた。


「お前ら! 武器を取れ!」

 黒バンダナの指示で盗賊達は、思い思いに剣や斧を手に取り構える。

 盗賊の数は10人強、こいつらは物の数ではない。俺が魔法を使えることを知らない以上、それで意表を突いて倒すことは容易だろう。

 だが魔法は黒バンダナと相対するまで取っておきたい気持ちもある。

 そうなるともう一つのほうの手で意表を突けば、俺の魔法は温存できるが、そのためには彼女に人殺しをさせなきゃならない。

 なるべくなら彼女にそんな事はさせたくないのだが。

(独りよがりの我侭だけど……)

 そう思いながら振り返って、レインさんと彼女の首に光っているペンダントを見る。

「タスクさん。私はタスクさんと一緒に居れるなら大丈夫です」

「え?」

 レインさんが俺の考えを読んだかのようなことを言って、ペンダントを手に握り締める。

「レインさん……すいません」

 わかってはいたが、自分の考えが彼女の気持ちや覚悟を馬鹿にしていたことを恥じて謝ると、レインさんはこの場に相応しくないような優しい顔で首を横に振る。

「リナさん。レインさんが魔法を撃ったら散開して各個撃破しましょう。

 黒バンダナは後回しで。あいつにもし苦戦するとその隙に数で押し込まれてしまいますから」

「いいわ」

 俺の言葉にリナさんが頷くと同時に、後方でレインさんがペンダントを触媒に魔法の詠唱を始めた。


「水よ……」

「お前ら! やっちまえ!」

 レインさんの魔法詠唱を合図に、盗賊たちが武器を振りかざしこちらに突っ込んでくる。

 おそらく魔法を喰らっても、数の暴力で何とかなると思っているのだろう。

「撃て!」

「お前ら女は殺すなよ。手足を落とすぐらいならいいが、殺しちまうと楽しめない――」

 黒バンダナの言葉は、巨大な水弾が射線上に居る盗賊達を蹂躙しながら自分のほうに飛んできているのを見て中断される。

「なに!」

 黒バンダナは自分の前に居た盗賊を突き飛ばして、その反動を利用して水弾を回避する。

「え――」

 突き飛ばされた盗賊は水弾に、上半身を消し飛ばされてその生涯を終えた。

 そして巨大な水弾は壁に当たり、大穴を空けて外へ飛んでいく。

 水弾に巻き込んだ盗賊の体の一部も、そのまま外に押し出したようだ。

「この威力……大魔法。

 しかも詠唱を短縮して撃っただと……Aランク以上の魔術師なのか……」

 黒バンダナはレインさんを見ながら驚愕の表情をしている。

「術式構成・貫通」

 俺はその隙を狙って、黒バンダナ目掛けて貫通の拳を放つ。

「ちっ!」

 黒バンダナは舌打ちをして回避行動をとるかと思いきや、俺の腕を絡め取るとそのまま投げ飛ばした。

「なっ! ――がはっ」

 俺は錐揉み回転して飛ばされたあと、床に背中から叩きつけられる。

「ぐ……投げられた……まるで何かの武術みたいだな」

 俺は起き上がりながら、護身術の定番である武道を連想してそう呟く。

 視線の先の黒バンダナはもう先程までの雰囲気とは違い、完全に俺達を殺すべき相手と認識したようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ