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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
三章 惨聞の雷精
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廃砦内部

「…………」

 人の気配に気を配りながら、砦の中をゆっくりと進んでいく。

 さすがに廃砦というだけあって、湿気が気が酷く、壁も所々崩れて剥がれ落ち、天井がなくなって2階部分が丸見えになっているところもあったりして、内部はとても不気味だった。

 そしてこの砦もツヴァイトと似たような様式の石造りでできていた。

 ツヴァイトの人達が作ったのだろうか。

 この辺境に砦が必要とも思えないが、昔は違ったのか。

(…………)

 様子が気になったので後ろを振り返ると、付いてきている女性2人も、砦の雰囲気に顔を硬直させていた。

(早いところ、ライト君を見つけて帰りたいところだが……)

 そう考えながら奥へと進んでいると、光が漏れている部屋を発見する。

 廃墟だから扉の立て付けが悪いのか、きちんと閉まらないようだ。

 後ろの2人を手で制して待機してもらい、俺1人で部屋の入り口に忍び寄ると中から会話が聞こえてくる。


「酒と女はまだかな~」

 盗賊の1人が調子よく言っているのが聞こえる。

「もう今日はこねぇだろ。早くて明日だ」

「ちっ、俺は今飲みたいし、抱きたいってのによ」

「抱きたいって、あの街だぞ? 若い奴なんて居やしねぇぞ?

 ババア寄越してきたらどうするつもりだ?」

「問題ない。俺はババアもいける口だ」

「なんだそりゃ? ギャッハッハ」

 部屋の中からは下種な会話をしている2人の声と気配しか感じられない。2人なら俺1人で制圧できそうだ。

「それにしてもあのガキ、なんであんな山に居たんだ?

 あんな朝早くに、それも1人で」

 愚痴っていた方の盗賊が、ライト君のことを話し始めたので、より注意して耳を傾ける。

「さぁな。行かなくちゃだめなんだ~つって喚いてたけど、意味がわからん。

 あんな山に何があるって言うんだよ」

「そうだよな。

 俺達だって、あのガキが山を登っていくところを見かけなかったら、あんな何もない山に絶対近寄らなかったしな」


(ライト君を攫ったのは偶発的なものか……)

 こいつらの話が本当なら、ライト君は自分の意志で山を登っていたという事になる。

 そしておそらく街の大人たちもその事を知っていたか、もしくは大人たちが行かせたというわけか。

 何故かセスさんが、1人で居たはずのライト君の攫われた場所を知っていたことからそんな気はしていたが。

(だがそうなるとライト君を山に向かわせた理由は――)

 俺が考えたくない結論を出そうとしていると、部屋の中に動きが起こる。


「おい、そろそろ見張りの交代じゃないか?」

 笑い方に特徴のある方の盗賊がもう1人にそう言うと、言われた方はめんどくさそうに欠伸をしたあと言葉を返す。

「しょうがねぇ。行ってくるか」

 その言葉に俺は覚悟を決めて、腰にあるナイフを鞘から引き抜いた。


「ふぅ……」

 壁に張り付いて深呼吸をしながら、扉から目を離さずに盗賊が出てくるのを待ち構える。

 自分の心音が周りにも聞こえているんじゃないか、というぐらいうるさく感じる。

 そして、視線の先の扉がギィっと音を立てて開き始めた。

「ったく、めんどくせ――」

 扉が開いた瞬間、出てきた盗賊の喉にナイフを突き立てると、ナイフを刺したそいつを盾にしたまま、部屋の中に踏み込む。

「なんだ!」

 いきなり背中を向けたまま近づいてくる仲間に、驚いて声を上げるもう1人の盗賊。

 だが俺はそんなことお構いなしに、盾にしている盗賊を突き飛ばしてそいつにぶつけると、そのまま詠唱を開始する。

「術式構成・貫通」

 そして突き飛ばした奴と重なっている盗賊目がけて右の拳を腕を振り切ると、拳に骨や肉を破壊する感覚が伝わってくる。

「はぁ……はぁ……」

 呼吸を荒くしながら、盗賊2人を貫いている拳を引き抜く。

 その腕は血で真っ赤に染まっていて、まるで映画で見た殺人鬼のようだった。

(慣れたくはないんだけどな……)

 それでも否応なしに慣れていっている自分がいることに気付いて嘆いていると、部屋の外から走ってくる足音が聞こえる。

 リナさんが剣を抜きながら走ってきたようだが、俺の姿を見て立ち止まる。

「殺ったの?」

「ええ、ただここは見ての通り、見張りの奴らが寝泊りする場所みたいなので、ライト君は別の場所みたいです」

 部屋の中は空き瓶などで散らかっていて、その中に仮眠用と思われる毛布が置かれていた。

「タスクさん! 大丈夫ですか? その腕、怪我した――」

「レインさん。しぃー」

 俺を心配する余りにレインさんの声のボリュームが大きかったので、左手の人差し指を彼女の口に当てて、声を止める。

「これは俺の血じゃないですから、大丈夫ですよ。術式構成・水」

 魔法で腕に付いた血を洗い流し、綺麗になった腕を見せると、レインさんはホッと胸を撫で下ろした。

「とにかくこんな事、さっさと終わらせて帰りましょう」

 俺は突き刺したままだったナイフを死体から引き抜くと、血を洗い流して鞘に仕舞う。

「そうね、でも救出する少年が居るとしたら……」

 リナさんは天井を見上げる。

「ええ、上の階でしょうね……」

 俺も天井を見上げながらそう呟いた。


 1階を探索したが予想通りライト君はおろかもう盗賊見当たらなかった。

 人の気配もなかったので、探索中に見つけた階段を登って2階に上がる。

 2階に上がってしばらく進むと、大勢が騒いでるような声が聞こえてきだした。

(こんな時間だから、見張り意外は寝ていると思っていたのは甘かったか)

 そう心の中で反省しながら、声が聞こえる部屋の方に足音を殺して近づいていく。

(……大勢居るな)

 部屋の中で盗賊たちは、どうやら酒盛りをしているようだった。

 声の数からして、10人位はいそうだ。俺1人での制圧は無理だな。

「おう、ガキ。お前のおかげで明日もまた酒盛りができそうだぜ。

 黙ってないで何とか言ってくれよ、なぁ? ハハハ」

(この部屋だ)

 ライト君がこの部屋にいると分かり、横に居るレインさん達のほうを見ると、2人にも声が聞こえていたようで頷いている。

 だが中にライト君がいるとわかった以上、先程のようには踏み込めなくなった。

 彼に危険が及ぶことは避けたい。

(中の様子を探れればいいんだが……中を覗く方法は……)

 術式の使い方を、ない頭をつかって必死に考える。

(覗く……いけるかもしれない)

 俺は右手の人差し指を伸ばした状態で、小さい声で術式を詠唱すると、思いついた形になるようにイメージする。

「術式構成・貫通」

 魔力を僅かに出力して、指先一本に集める。

 威力はいらない。貫通属性だけが付けばいい。

(いけるか……)

 そしてその指を錐で穴を開けるように回しながら、扉に挿していく。

 そこから指を引き抜くと見事に覗き穴が完成したので、穴に顔を近づけて中の様子を探る。


 部屋の中はかなり広めの大部屋で、大勢の盗賊が酒を飲んでいた。見える範囲だけでも10人はいる。

(いた! あれがライト君か)

 ライト君は縄で縛られて床に転がされていた。見たところ怪我はしていない。

 彼の前には、先程話しかけていた盗賊と思われる男が1人いるだけだった。

 こいつを排除すれば救出することはできそうだ。

 中の様子を確認すると、俺は女性2人に顔を近づけて小さい声で話しかける。

「まず俺が突っ込んでライト君を確保して、一旦ここまで戻ります。

 そのあとレインさんはライト君を守っていてください」

「はい。でも2人はどうするんですか?」

 レインさんは頷いたあと、質問してくる。

「俺とリナさんは盗賊を掃討することになると思います。手伝ってもらえますか?」

「やるなといわれてもやるから、安心しなさい」

 俺の問いにリナさんはそう言うと、大きく頷いた。

「じゃあ、いきます」

 俺は部屋の中に突入するため、術式の魔力を右手に集中させた。

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