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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
三章 惨聞の雷精
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廃砦へ

「ここがその廃砦ですか……確かにこの街から、そんなに離れていませんね」

 夜になり酒場に赴いて、セスさんや街の人達と地図を見ながら、廃砦の場所などを食事をしながら訊いている。

 夜更けにはまだ時間があるが、腹ごしらえも兼ねて酒場で話を聞くことしようと女性2人に提案したところ了解をもらったので、こういう運びになった。

 出された食事は芋とソーセージのような肉を使った料理がほとんどで、どこかイメージの中のドイツ料理を髣髴とさせた。

 想像だけでドイツ料理は食べたことはないが、この料理はとてもおいしかった。

 レインさんもご満悦みたいだ。


 酒場の外は今も激しい雨が降り続けて、雷鳴も響いている。この調子だと今夜中に止むことはないだろう。

 人質のことを考えると気づかれずに潜入する必要があるため、多少の物音をかき消してくれる激しい雨や雷というのは好都合かもしれない。

「ちょっと質問が……」

 俺は食べる手を止めて手を挙げると、セスさんも含めた街の人達を見ながら尋ねる。

「ライト君が攫われたというのは、何処の山なんですか?」

 ライト君というのは、救出する少年の名前だ。

 彼が攫われた朝に1人で居たという山のことが、ずっと引っかかっていた。

「……この街に並んで削り取られたような崖があっただろう? あの山だよ」

 酒場のマスターがそう答える。だがそう答えたマスターも、それを聞いているセスさんも、他の人も、途端に重苦しい表情になった。

(この雰囲気……山に何かありそうだな……)

 暗雲がかかっていた山を思い浮かべながらそう考えるが、これ以上突っ込むと問題を引き起こしそうなので自重する。

 今はまだその時じゃない。ライト君を救出してからだ。

「あぁ、あの崖の山ですか。石材を切り出してるからあんな風なんですか?」

 黙っているのもあれなので、当たり障りのない事を尋ねてみる。

「え? あ……あぁ、そうだ。長年切り出し続けてあの崖の形になったんだよ」

 俺の質問が予想と違ったのか、一瞬きょとんとした顔をしたあとに、慌てて答えるマスター。

「そうなんですね。ありがとうございます」

 そう答えると、俺はまた食事を続けた。その様子を見て皆が、どこかホッとした様子だった。

(嫌な感じだ……)

 その様子に内心そう考えながら、地図上の砦の位置を頭に叩き込んでいた。

(もうここで聞くことはないな。あと数時間後にはまた命のやり取りだ……)

 そのまま俺達は夜更け付近まで酒場で過ごした。


「それじゃ、行ってきます。朝までには救出して戻ってきますよ」

 激しい雨の中、外套を被って見送る街の人たちにそう告げる。

 女性2人も外套を被り、雨に打たれている。

「よろしく頼む」

 そう告げるセスさんの顔は、やはり孫を心配している様子は薄く、だが救出を心から望んでいるような、そんな顔だった。

 俺達は頷くと視界が悪い雨の中、砦に向けて足を踏み出した。


 俺を中央に3人で並んで街道と獣道の中間のような道を歩く。視界を確保するため常時偵察を発動しないといけないが、この雨じゃどうしようもない。

 盗賊に気づかれてはいけないため、道中は明かりを付けれないのもどうしようもない理由のひとつだ。

「この雨は予想してなかったわ……」

 リナさんがめんどくさそうな顔でそう呟く。

「リナは雨が嫌いなの?」

 それとは対称的に、雨の中でも平気そうな顔で訊ねるレインさん。

「そうじゃないの、レイン。

 好きとか嫌いとかじゃなくて、この雨じゃ私の魔法は阻害されて威力が落ちるのよ。

 あなたも魔法使いなら分かるでしょう?」

 まだ街を出てすぐだから会話する余裕はあるので、2人は仲良さそうに話す。

「私は水魔法だから、あんまりそういう事ないよ。炎で覆われた魔獣とかは別だけど……」

 魔法が環境で阻害されるというのは初めて知った。奇跡を起こしてはいるが、世界の法則を完全に捻じ曲げているわけでもないのだろう。

 返事をしたレインさんは、魔獣のことを思い出しているのだろう、苦々しい顔をしている。

 俺もそれを思い出して顔を顰めた。

「魔獣と戦ったっていうのは、にわかには信じられないわね。嘘ではないのだろうけど」

 リナさんは俺達の会話を聞いてそう言ったあと、さらに言葉を続ける。

「その証拠に戦闘慣れしてないわりに、妙に肝が据わってるものね」

 これはおそらく俺のことを言っているのだろう。実際に人との命の取り合いには慣れていなかったから。

 先日までそうだった俺が、盗賊団を潰しに向かっているってのも不思議なもんだ。

 そんな道中の会話は俺の目が、遠くに廃砦の姿を捉えるまで続いた。


「止まってください」

 手で2人を制しながらそう言葉にする。

 2人は俺の様子で悟ったのだろう。顔を真剣なものにして俺の指示を待っている。

「砦が見えました。草むらに入って近づきましょう」

 俺の言葉に2人が頷いたので、道をそれて草むらの中に侵入する。

 そうしてゆっくりと大きな音を立てないようにしながら、砦に近づいていった。


「見張りは1人ですね。仲間が10人位帰らないんだから、もっと警戒してると思ったんですけどね……」

 砦の直前で進行を止めて様子を窺う。

 見張りの盗賊は暇そうな雰囲気で、肩に片手斧を担ぎながらボーっとしているようだった。

「盗賊なんてそんなものよ。もっと組織立って動いてるような連中ならともかく、こんな辺境で活動している奴等なんて、所詮ごろつきの延長よ」

 リナさんがそう言って説明する。確かにその説明には納得できるものがあった。

 他人のことを考えるような奴が盗賊になりはしないだろうと。

「で、どうやって見張りを排除するの?」

 リナさんがそう口にしたので、俺は右手の指を銃の形にしながら答える。

「考えはありますよ」


「術式構成・水・偵察」

 術式を唱えると、銃の形をした指先に小さい水の球が生成されていく。

 威力的には雷のほうがいいのだが、どうしても放電の音を出してしまうため、水を選択した。

 そのまま視線の先にはっきりと映る盗賊に、指先を向けて狙いを定める

 そして、見張りの盗賊が大きく口を開けて欠伸をした瞬間、俺は魔法を放つ。

水撃奇襲アクアレイド!」

 音もなく放たれた水撃は盗賊の口に入ると、そのまま後頭部に貫通して命を奪い、盗賊はその場でゆっくり膝から崩れ落ちた。

 この水撃奇襲は普通に当たった場合、貫通できるような威力持っていない。だが口に入ったことで貫く事に成功したようだ。

 貫かなくても命は奪えていただろうから、それを狙って撃ったわけではなかったが。

「さぁ、いきましょう」

 そう声をかけると、俺がまだ見せたことがなかった魔法にリナさんは驚いていたが、レインさんはこれよりも強力な魔法を見たことがあるせいかいつも通りだった。

 こうして俺達は、砦への潜入に成功した。

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