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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
三章 惨聞の雷精
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マルコの助言

 夜は忙しくなりそうなので休憩するために一旦宿に戻ると、建物の前でマルコさんが冒険者と思われる3人となにやら話し合っていた。

「タスク君」

 マルコさんが手を挙げて俺に呼びかけてくる。一緒にいる冒険者は俺のほうを見て訝しげな表情をしたあと、後ろにいる女性を2人を見て目を輝かせると、二人に声をかけるために動き出す素振りを見せる。

「やめておきなさい」

 俺がそれを見て動こうとする前に、マルコさんが冒険者達を手で制していた。

「こう見えてタスク君はCランクの冒険者だ。君達が軽率な行動をして彼を怒らせると、君達なんか一瞬で殺されてしまうよ? 現に霧の森で盗賊に襲われても意にも介さなかったからね」

 マルコさんの言葉を聞いて、冒険者達は驚きの表情で俺を見つめてくるが、その視線にはまだ疑いの色が残っている。

 それを察ししたマルコさんは、申し訳ないという顔で頼み事をしてくる。

「タスク君。悪いがギルドカードを彼らに見せてやってくれないか?

 それをみれば彼らも納得すると思うから」

「別にそれぐらい構いませんよ」

 懐からギルドカードを取り出すと、それを彼らが見えるように掲げてみせる。

 それを見た冒険者達は、先程よりもさらに驚いた表情を浮かべたあと、段々と青ざめていき俺に向かって必死に頭を下げてきた。

「やめてください。別に何もしませんから。それよりもマルコさん、彼らを護衛に雇ったんですか?」

 恐怖に包まれている冒険者達をなだめたあと、その光景を何故か真剣な表情で見ていたマルコさんに尋ねる。

「ああ、そうだよ。Dランクが1人にEランクが2人。

 霧の森を抜けるには少し心許ないがこれ以上はここで探しても無理そうだったからね……」

 苦笑いをしながらそう話すマルコさん。冒険者達も霧の森を抜けることの大変さを分かっているのか、心許ないと言われた事に不快な表情をしている人はいなかった。

「出立はいつですか?」

「明日の早朝に立とうと思っているよ。朝も早ければ盗賊に襲われる可能性も下がりそうだからね」

 俺の質問にマルコさんが肩を竦めながら答える。襲われる事を考えているのだろう。

「明日の朝なら、大丈夫だと思いますよ」

 マルコさんを安心させるように笑顔でそう告げる。

「何故そう思うんだい?」

 当然マルコさんは俺の言葉の根拠を訊ねてくる。俺は表情を笑顔から真剣なものに変えると彼の問いに答える。

「今夜、その盗賊一味を潰しますから」


「それでその子を救出するために盗賊の根城に向かうと?」

 詳しい話が聞きたいと言ってきたマルコさんに応じて、宿屋の部屋で街の人から受けた依頼について説明すると、呆れた顔で訊ねてくる。

「ええ、今日の夜更けに廃砦に向かいます」

「正直、盗賊団を潰すなんて事は王国軍が動くような案件だと思うんだがね……

 冒険者の仕事としては割に合わないだろう? 少しお人好しすぎないかい?君がそうだったおかげで、この街に辿り着けた私が言うのはおかしいかもしれないけどね」

 苦笑いしながらも俺を心配する目つきで話すマルコさん。この人も十分お人好しな気がする。

 それにこの国に軍があることも意図せず聞けた。

「そうかもしれないですけど、この街に用がある以上仕方ないです。気になる事もありますし」

 俺の言葉に少し目を見開くマルコさん。

「この街の住人の様子がおかしい事かい?」

 その言葉に驚きながらも言葉を紡ぐ。

「気付いてたんですか?」

「まぁね。これでも商人だから、人の顔色を窺うことは職業柄必要なんだよ。

 だからこの街の住人がおかしい事も気づいてはいたさ。

 ただこちらを敵視しているわけではなさそうだったから黙殺したけどね」

 苦笑いしながらそう話すマルコさんは商売人の顔をしていて、いつもより頼もしく見えた。

「当然連れの2人も一緒に行くんだろうね」

 2人が泊まっている部屋の方の壁を親指で示しながらそう呟く。

「ええ、情けない話ですけど、あの2人が居てくれると心強いですから」

「そうか……タスク君。これは年長者の戯言と思って聞いてくれ」

 マルコさんはゆっくりと話し始めた。


「君がこれから彼女達と共に歩んでいこうと思うなら、さっきのように人に舐められないようにしなさい。

 君の実力ならそれぐらい簡単だろう?」

 俺を諭すような口調でマルコさんは話す。

「君は確かに強い。それは盗賊を撃退したことから疑いようがないと思う。

 だけど長年商売をしながら人を見てきた私の目が、同時に君はとても脆いと告げている」

「……脆いですか?」

 初めて言われた言葉に戸惑いながら聞き返す。

「ああ、そういう印象を受ける。

 もし連れの2人が傷つけられたり、それこそ命を奪われるようなことがあった場合、おそらく君は壊れてしまうんじゃないかい?」

 その言葉にレインさんが毒で死に掛けた光景とリナさんがムカデに囲まれていた光景が頭に浮かぶ。

 あの時は救えたが、もし救えていなかったら俺はどうしていただろうか、考えると少し手が震えた。

「冒険者や貴族で実力があるものは、それに驕り、粗暴な振る舞いをする者も多い。

 君もその実力者の一員だから、これからそういう者たち関わる機会も増えるだろう。

 共に行動するならそんな者たちに彼女達が目を付けられることは必定だ」

 マルコさんの言いたいことがなんとなく分かってきて、俺は黙ったまま頷く。

「お人好しな君は私からすれば好感を持てるけれど、残念ながら善人は損をしやすいように出来ているのがこの世の中だ。力がある者からすれば君は簒奪の対象にしか見えないだろう。

 そうならないために力を示すんだ。

 時には非道になることも必要だよ。守りたいものがあるならね」

 そう言うとマルコさんは何かが入った袋をテーブルの上に置く。

「何ですかこれ?」

 袋を開けて中を見てみると、その中には金貨がたくさん入っていた。

「お礼だよ。ここまで護衛してくれたからね」

「こんなにもらえませんよ……それに税金で苦しんでるって言ってたじゃないですか」

 金貨の入った袋をマルコさんのほうに戻しながら尋ねる。

「君達がいなかったら私は死んでいた。命があればまた金を稼ぐことはできるけれど、お金で命を買う事は出来ないからね。だからこの金は君が受け取ってくれ、君達が助けてくれなかったら失われていたお金だからね」

 そう言ってこちらに金貨の袋を押し戻すと、「……それに」と言って言葉を続ける。

「君には良くしておいたほうが、将来の儲け話に繋がりそうだと、私の商人としての勘が告げているんだよ。

 だからこれは打算なんだ。遠慮なく受け取ってくれ」

 笑顔で語るマルコさんに、これは断っても折れてくれそうにないと感じて、金貨を半分受け取るという妥協を提案する。

 最初は納得してくれなかったマルコさんも何とか折れてくれて、そのまま用事があると言って部屋を出て行った。

 なんとなくだが俺に考える時間をくれるために、部屋から出て行ったような気がする。


 俺は1人になった部屋でベッドに寝転がりながら思案する。

(守りたいものがあるなら、か……)

 マルコさんに言われたことを目を瞑って反芻する。

 外からは今日もまた激しい雨音が聞こえてきだした。

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