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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
三章 惨聞の雷精
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情報収集

 翌日、一晩中降り続いた雨も上がり雲間から太陽が覗く中、俺、レインさん、リナさんの3人は酒場に向かって歩いていた。

 この場にいないマルコさんは、冒険者の護衛を雇いにギルドに向かった。

 彼の話によれば、ほとんど機能はしてないとはいえ、金さえ払えば護衛を請け負う低ランクの冒険者はいるらしい。

「たぶん、ここですね」

 レインさんが指差した建物を見ると、看板に酒樽のマークが書いてあるのでここが酒場なんだろう。

 俺達はそのまま扉を開けて酒場の中に入る。

(……此処も、か)

 酒場というのは本来騒がしかったり、明るい雰囲気だったりすると思うのだが、朝から此処で酒を飲んでいる人達の表情は、これまで見てきたこの街の人たちと同様に暗いものだった。

 そして皆何かに怯えるように、何かを忘れようとするかのように、酒をあおっている。

「座りましょうか」

 リナさんに促され俺達は席に座る。場所は酒場のマスターに話を聞くために、カウンターを陣取った。

「いらっしゃい」

 マスターが渋い声でそう告げる。だが彼もまた暗い表情をしている。

「客じゃないんだけどいいですか?」

 そう言って銀貨を1枚カウンターの上に置く。ここに来る前にマルコさんに情報を引き出したい時は金が有効だと、アドバイスを聞いていたので実行してみる。

 この手段が利く相手は多く、さらに利く相手には効果絶大らしい。

 ただ利かない人間には逆効果だから気をつけるように、とも言われた。

「何が聞きたいんだ?」

 マスターは一瞬目を見開いたが、カウンターにある銀貨を手繰り寄せると、そのまま胸ポケットに仕舞う。

「この辺の情報を聞きたいんですよ。なにせはじめて来たもので」

 宿屋の主人が雷精の話をしたがらなかったのを踏まえて、とりあえずは雷精の名前は出さないように情報を探ろうと決めていた。

「情報ね……といってもこの辺には何もないぞ。あるのは石切り場ぐらいだしな」

 そう言いながらマスターは俺達の前に水を置いてくれた。

「ありがとうございます。そういえば這竜の伝説があるって聞いたんですけど?」

 水の礼を言った後、アスト村でガイから聞いていた情報を尋ねてみる。

「這竜? なんだあんた達も研究者か何かか?」

「研究者ですか?」

 何故そう思われたのかわからないので聞き返すと、マスターがそう思った経緯を説明してくれた。

 なんでも数ヶ月前に西の大陸の研究者という女性がこの街にやってきて這竜について色々調べていったらしい。

 その女性研究者は数日この街に滞在した後、「やっぱり這竜が実在したのは間違いない!」と意気揚々と帰って行ったらしい。

「西の大陸は魔術研究が盛んだから、それの関係者じゃないかしら。西の大陸には魔術学校もあるぐらいだから」

 マスターの説明が終わると、リナさんがそれに補足してくれる。

「学校があるんですか?」

 おおよそ学校とは縁のない世界だと思っていたので、驚きながら尋ねるがレインさんの、「学校って何ですか?」という一言にリナさんはこちらの質問に答えるよりも、レインさんに学校とは何かを教えるほうに注力したようだ。

 この人は晶石の時もそうだったが、わりと説明したがりなのかもしれない。口に出したら睨まれそうだが。


「ということで、俺達は研究者じゃないですよ」

 リナさんの学校とは何かの講義がひとしきり続いたあと、俺はマスターにそう話す。

 マスターも講義を一緒に聞く羽目になったため少し苦笑いを浮かべているが、気分を害している風ではなかった。

 一方、講義を直接受けたレインさんは、目を輝かせていた。おそらく行ってみたいと思っているのだろう。

「研究者じゃないってことはあんた達、いったい何者なんだい?

 両手に花の組み合わせに片方はエルフときてる、俺としてはそこが気になるよ」

 俺達の事を見回しながら訊いてくる酒場のマスター。怪しんでいるという感じではなく、純粋に気になっているようだった。

「ただの冒険者ですよ。彼女は違いますけど」

 リナさんのほうを示しながらマスターにそう説明する。

「そうなのかい。でも他に連れの冒険者はいないのか?

 まさか三人で霧の森を抜けてきたわけじゃないだろ?」

 マスターは優しい目でこちらを見てくる。おそらく俺の風貌が原因で、俺達だけでは霧の森は抜けられないと思われているのだろう。

 自分の見てくれがもっと逞しかったらどうなっていたのかと一瞬だけ夢想するが、こればっかりは嘆いてもしょうがない。

「確かに連れはもう一人いましたけど、その人はツヴァイトまでの護衛対象だったので、冒険者の仲間は俺達だけですよ」

 俺の言葉に大きく目を見開くマスター。

「3人だけ? 霧の森では何もなかったのか? あの森は盗賊が居て危険なんだ」

 俺達を諭すような感じでそう言ってくるマスターの言葉を、訂正するために俺は口を開く。

「確かに盗賊には襲われましたけど、何とか撃退できましたよ」

 魔法を使えることと違い、自分がそれなりに戦える冒険者だということはバレてもいい。

 ここで魔法使いだといったところで、魔法も直接使っているところを見ない限りは、俺が魔法が使えるなんて事誰も信じないし、ただの与太話だと思うだろうが。

 あのマチルダさんですら、俺が本当に魔法を使えるかどうか確かめたぐらいだ。

 それにウォーロックという言葉を知っている人間に、今迄で5人も出会っていない。

 リナさんは例外にしても、ギルドマスターの二人に、エルフの女王、それなりに年齢を重ねている人達ばかりだ。

 となるとリナさんが知っていた理由のほうが気にはなるが……。

「撃退しただって! 君達だけでか? どれくらいの盗賊に襲われたんだ?」

 俺の思考を中断させるぐらい大きな声で尋ねてくるマスター。その目は先程よりも大きく見開かれていた。

「どれくらいって、人数ですか? 10人ぐらいだったと思いますよ」

 リナさんの炎でどれぐらい倒したのわからないから、正確な数は不明だった。

「10人だって? う、嘘はいけないよ。その数に襲われながら、あの森を抜けてくるなんて高ランクの冒険者でもない限り不可能だ」

 俺の言葉を嘘だといいながら、マスターのその目は何かを期待しているかのような雰囲気だった。

「こんな見てくれだからしょうがないですけど、俺は一応Cランクの冒険者なんですよ」

 そう言って懐からドーザにもらったギルドカードを出して、カウンターの上に置く。

 こういう時に身分を保証してくれるものがあるのはありがたい。向こうの世界でも身分証がないと不便だったしな。

 そういえば、そのために原チャリの免許を取ったっけ。

「…………」

 マスターを俺のギルドカードを手に取り絶句しているかと思ったら、いきなり頭を深く下げた。

「頼む! 助けてくれ! 

 君のような力のある人間の助けが必要なんだ!」

 いきなりそのような事を言われ驚いていると、酒場で飲んでいた人達もいつの間にか俺達の周りに集まってきていた。

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