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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
三章 惨聞の雷精
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雷精への畏怖

 宿代をマルコさんに払ってもらい部屋に入った後、ベッドに寝転がって一休みしている。

 マルコさんは二人部屋を2つ取ったらしく、当然だが男女で分かれた。

「雨か……」

 この部屋に窓はないが、激しい雨音がしているので外が雨なのは部屋にいながらもわかった。

 宿に入る前に黒い雨雲を見ていたので、こうなるような気はしていた。

 そういえば、こっちの世界に来て初めての雨な気がする。

 今は部屋に俺一人しかいない。マルコさんは厩舎へと竜車を移動させに外に出て行った。

(しかしこの街は何なんだろうか……)

 通行人だけではなく、宿屋の主人も何かに怯えるような暗い顔をしていた。別に俺たちに怯えてるわけではなさそうなので、普通に接客はしてくれたが。

 今すぐにでもトリスタンの情報を聞き込みに行きたいところだが、体はまだ疲れている。

 それに黙って外に出るわけにも行かないから、レインさん達に一言告げて行く必要がある。

 そうなると彼女達は付いて来るだろう、俺は良いとしても彼女達は疲れているだろうから無理はさせたくない。

 今日は行動しない方がいいだろうな。

 明日は雨が止んでくれるといいが。


「いや~急に降り出したよ」

 マルコさんがドアを開けて部屋に入ってくると、開口一番そう言いながら布で体を拭いている。

「そんなに降ってるんですか?」

「ああ、体に当たる雨粒が痛いぐらいには勢いよく降ってたよ」

 俺の問いにマルコさんは苦笑いしながら答える。

「そんなにです――うおっ!」

 急に大きな音で雷鳴が鳴り響いたので、肩を竦ませて驚いてしまう。

「ははっ、腕利きの冒険者でも雷で驚いたりするんだね」

 マルコさんは俺の姿を見て、愉快そうに笑っている。

「そりゃいきなり大きな音が鳴ったらびっくりしますよ」

 恥ずかしさから頭を掻きながら返事をするが、その様子を見てマルコさんは変わらず愉快そうな顔をしている。

 俺がその様子に苦笑いをすると。

「いや、ごめんごめん。こうしても見ると君がCランクの冒険者のようには見えなくてね。

 盗賊に襲われてもものとしない人間なのは、ここにたどり着いた私が一番知っているはずなのにね」

 そう申し訳なそうに話すマルコさん。

「優男だ、ってよく言われますから慣れてますよ。そのせいでトラブルに巻き込まれたりもしますけど……」

 こっちの世界に来てすぐに絡まれたことを思い出す。あれは格好のせいもあったが。

「タスクさん、いますか?」

 ノックの音と共にレインさん扉の向こうから呼びかけてくる。

「どうかしましたか?」

 扉を開けてレインさんを出迎える。

「リナが明日からどうするか話し合ったほうがいいんじゃないか、と言ってたのでタスクさんを呼びに来たんですが迷惑でしたか?」

「そうですね。今からそっちの部屋に行けばいいですか?」

 レインさんの言葉に納得してどこで話し合うのかを尋ねると、「はい」という声と笑顔が返ってきたので、マルコさんにその旨を伝えてレインさんたちの部屋に移動することにした。


「来たわね」

 部屋にはいると椅子に座っていたリナさんが待っていたという感じでそう話す。

 ただ椅子に座っているだけなのに気品に溢れていて、思わず見惚れれてしまった。

 イルゼさんも貴族然とした雰囲気を纏ってはいたが、この人は雰囲気というか存在そのものがそういうものな気がする。

「どうしたの?」

 じっと立ち止まっている俺を、不思議そうな顔をしながら見つめてくるリナさん。

「……あ、いえ、なんでもないです。それで明日のことですけど」

 見惚れてたなんて恥ずかしくて言えるわけがないので、ごまかしながら椅子に座る。

 何故かレインさんがすごい視線をぶつけてくるが、尋ねるのも怖いので気にしないでおく。

「ええ、さっき宿屋の主人にこの街について聞いて来たんだけど」

 ただ休憩していただけの俺と違い、しっかりこういう事をしているリナさんを頼りに思うと同時に、ただ疲れて休んでいただけで、そういう事に思い至らなかった自分が情けなくなる。

 そんな事を考えている俺の目を見ながら、リナさんは続きを話す。

「情報なら酒場で聞いてくれって言われたわ」

「酒場ですか? 冒険者ギルドとかじゃないんですか?」

 ギルドで聞いたほうが情報を得られそうだと思ったので訊いてみるが、リナさんは首を横に振る。

「私もそう思ったから訊いてみたんだけど、ツヴァイトの冒険者ギルドはほとんど機能してないみたいなの。

 たぶんこの街が辺境なのと排他的なのが原因ね。ギルドマスターすらいないみたいよ、この街には」

「……そうですか」

 Cランク冒険者という事を利用すれば、上手く情報を手に入れられるんじゃないかと思っていたので少し落ち込む。

「それとお節介かもしれないけれど雷精のことについても訊いてみたの。そしたら……」

 そこまで言うとリナさんは難しい顔をして黙ったので、レインさんのほうを見てみると、彼女も困った顔をしていた。

「……どうしたんですか?」

 何かまずいことでもあったのかと気になったので、リナさんが続きを話す前にこっちから訊いてみる。

「いえ、私もよくわからないんだけど。怒鳴られたのよ」

「怒鳴られた?」

「ええ、その名を口に出さないでくれって。たぶん雷精のことよ」

「嫌われているのか雷精は……」

 俺がそう呟くと、レインさんの待ったが入る。

「そうじゃないと思います。宿屋のご主人のあの反応は嫌っているというわけじゃなくて……」

「じゃなくて?」

「畏怖だと思います。何かを恐れているようでした」

「……畏怖」

 天井を見上げて少し考えてみる。

(暗い顔の街の住人に、雷精を恐れている宿屋の主人……どういうことなんだこの街は)

 考えても答えは出そうになかった。

(馬鹿の考えなんとやらだな……)

 俺は頭を切り替えると、明日は酒場で有益な情報が得られればいいと、強く願った。

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