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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
三章 惨聞の雷精
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盗賊殲滅

「…………」

 リナさんは竜車の影に隠れながら、両手で巨大な火球を生成していく。

 今思うことではないかもしれないが、炎で照らされたその表情と赤い髪は、炎と同調するように見えてとても綺麗だった。

(さすがに警戒するよな……)

 リナさんから視線を外し盗賊たちの様子を見ると、竜車の周辺がリナさんが作る炎で突然明るくなったのを怪しんだのだろう。盗賊たちは立ち止まってこちらの様子を伺っていた。

 立ち止まってくれた方がリナさんに位置を示しやすくて有難い、とこちらが思っているとも知らずに。

 そうしているとリナさんがこちらに視線を送って頷いたので、俺は彼女に攻撃する場所を示すため術式偵察は発動したまま詠唱を開始する。

 魔力の扱いに慣れてきたせいか、術式偵察を使い慣れたせいかは分からないが、同時に発動することもできるようになっていた。

 もちろんその分魔力の消費は激しいが、三重構成ほどではない。

「術式構成・雷・貫通」

 右手から勢いよく放電する雷の魔法。

 それを見てリナさんが目を見開いているのは、おそらくドーザ達と一緒に見たときの雷より遥かに強力な魔力を発しているからだろう。

雷撃強襲サンダーアサルト!」

 盗賊たちが多く固まっている地点めがけて雷撃を放つ。場所を示す目的なのでしっかり狙う必要は無い。

 雷撃はその雷速をもって盗賊達の眼前に着弾し、それに驚いた盗賊達の悲鳴と共に、稲光を発生させる。

「炎よ……燃やし尽くせ!」

 リナさんが雷撃で稲光が発生している地点めがけて、巨大な火球を両手で撃ち出す。

 盗賊たちは雷撃に気をとられていて、近づいてくる火球には着弾直前まで気付かなかった。


「いきます!」

 火球が着弾して盗賊たちを包み込みながら燃え上がったのを見て、パニックになっている盗賊達に向かって走り出す。

 走っている最中に気付いたが、本来なら明るくするのが目的だったのに、リナさんの火球から生み出された熱は、霧を水蒸気に変えてしまっていた。

 おかげで明るさと視界が両方確保できているのだから問題ないのだが。

「…………」

 俺は無言のまま接近しダートナイフを投げる。

 ナイフが喉に当たった盗賊は、血を流し苦しみながら倒れていく。

 その様子を見てこちらの接近に気付いた盗賊たちが怒りの眼光を向けてくる。

 近い距離に3人、遠くに3人、確認できる残りの人数はそれだけだった。

「少し気付くのが遅かったな」

 そのまま左右の手で近くの盗賊に向けてナイフを投げると、3人居るうちの2人の顔面に突き刺さり、その命を奪う。

 慣れたくはないと思いつつも、護衛のときに初めて人を殺したことで、俺の心はまだ平穏を保っていた。嫌悪感は未だに消えはしないが。

「な、なんなんだよ……お前ら」

 一人残った盗賊が、こちらを怯えた表情で見ながら震えた声で喋る。

「ただのCランク冒険者だよ。悪いな」

「し、Cランク? 何でこんなところにCランクの冒険者がいるんだよ……」

 俺たちが話している後ろでは、悲鳴と火柱が上がっているような音がしている。おそらくリナさんが盗賊たちを掃討しているのだろう。

 その光景もあるせいか目の前の男は絶望した表情をしているが、強く持っている斧を握り締めているので諦めるつもりはないのだろう。

「くそおおおおおおお!」

 盗賊は斧を振りかぶってこちらに突っ込んでくる。表情には鬼気迫るものがあり、もしも実戦を経験していなかったら呑まれてしまいかねない迫力があった。

 それに呑まれないために、気合を入れて全力で打倒しようと術式を詠唱する。

「術式構成・貫通・雷」

 直線的な動きで斧を振り下ろしてくる盗賊の一撃を半身で避けると、いつかのヘルハウンドと同じようにがら空きの男の脇腹にそっと拳を当てる。

「雷撃強襲!」

 その状態からワンインチパンチの要領で拳を打ち込むと、そこから発生した雷撃は男を貫いて稲光を発生させた。

 悲鳴を上げることもなく倒れていく盗賊。死を感じる暇もなかっただろう。出来ればそうであって欲しい。

「……もういないか?」

 エッダさんのときのように伏兵にしてやられるわけにはいかないので、術式偵察で周囲を見渡すが知ってる人間の姿以外は見受けられなかった。


「……ふぅ」

 溜め息を吐きながら、警戒はしつつも戦闘態勢を解くとどっと疲れが襲ってくる。肉体的な疲れではなく、命を奪うことの精神的圧迫からくるものだとは思うが。

 その感覚を受け止めながらじっとしていると、背後から声が掛かる。

「ちょっと! 大丈夫?」

 リナさんは心配そうに声をかけると、俺の正面に回る。

「顔色が悪いわよ? どこか怪我でもしたんじゃ?」

「いえ、大丈夫です。怪我はないですから」

 ちゃんと笑えているかどうかはわからないが、精一杯笑顔を作ってみる。

 そういえば、初めて人を殺したときも彼女に笑顔を作ったような気がする。あの時は今ほどしっかりと殺人の実感が湧いてはいなかったが。

「あなたこの間もそうだったけど、顔が引きつってるわよ。つらいのを我慢しているようにしか見えないわ」

 彼女も俺と同じ事を思い出したのか、優しい顔をしてそう話す。

「落ち着いたら竜車のほうに来なさい。それまで私が警戒しておくわ」

 そう言って俺の肩をポンと叩くと、レインさんが待つ竜車のほうに去っていった。

「気を使わせてしまったな……」

 リナさんに感謝しつつ、転がっている盗賊の死体を見る。

 最初に人を殺してからずっと考えていた。

 許されることではない。

 例え世界が違っても人を殺して許されていいはずがない。

 だけどおそらくこの世界じゃ、これからも命を奪わなければいけない状況は沢山あるだろう。

 だから許されない代わりに、この罪に見合うだけの何かを成そう。

「具体的にはまだ分からないし、見合うものなんてあるのかどうかもわからないけどな……」

 再び霧が立ち込めてきだした森の中で、天を見上げながらそう呟いた。

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