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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
三章 惨聞の雷精
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盗賊の気配

「霧の森か……ここを通らなきゃツヴァイトに行けないとはいえ、通りたくはないな」

 特に何事もなく野営を行った翌朝、街道と霧の森への分かれ道で、マルコさんは心底嫌そうな顔をしながら弱気な言葉を口にする。

「何かあったら――おそらくあるでしょうけど、ちゃんと守りますから安心してください」

 俺がそう言うと、何かあるという言葉に落ち込みながらも、その後に続いた言葉で明るい顔を取り戻すマルコさん。

「二人とも準備はいいですか?」

 荷車に乗っている女性二人に後ろを振り返って確認すると、「問題ないわ」、「大丈夫です」と心強い返事が来たので

 脚竜の手綱を握っているマルコさんに向き直る。

「いきましょう。マルコさん」

 そう促すと、「分かった」と小さい声で返事をしたマルコさんは、手綱を引いて竜車を霧の森に向けて出発させた。


 森の中は一応道は存在しているものの、背の高い木が日の光を遮り暗く、さらに聞いていた通り周囲は霧に包まれてなんとか少し先が見える程度だった。

 そのためリナさんに荷車から出てきてもらい、ランプの魔導具で周囲を照らしてもらっていた。

 おそらくこの森は明かりがないと進めないため、それを目印に盗賊が襲ってくるのだろう。理に適っているが厄介な話だ。

 竜車はその中を何とか見える道沿いに、ゆっくりと進んでいる。

 俺は術式偵察を発動させて周囲を警戒しているが、今のところ何かが襲ってくるような気配はなかった。

(本当なら急ぎたいけど、この霧じゃゆっくり進むしかないな……)

 隣ではマルコさんが真剣な顔で手綱を操作している。おそらく緊張からだろうか、顔には汗が浮かんでいる。

「なぁ……タスク君」

 眉をへの字に曲げた情けない顔でこちらを向いて、マルコさんが呟く。

「本当に盗賊は襲ってくると思うかい?

 私はなんとなくだけどこのまま何事もなく通れるような気がしてきたよ」

 おそらく考えていることと真逆のことを言っているのだろう。周囲の視界が確保できないこの状況じゃ恐怖に苛まれても仕方ない。

 それでも強がりとはいえ、恐怖に負けないようにこういう言葉を吐けるというのは、彼の心の強さの証のような気がする。

「今のところ怪しい気配ないようで――」

 遠くに数人の人影が動くのが見えたので、言葉を途中で止めてそちらのほうを注視する。

「ど、どうしたんだい?」

 いきなり言葉を止めた俺のことが気になり、慌てたように話しかけてくるマルコさん。リナさんは何かを察したように周囲を警戒している。

「このまま変わらずゆっくり竜車を進めてください」

 マルコさんにそう告げて、荷車のレインさんに状況を知らせるために話しかける。

「レインさん、盗賊が来たかもしれません、戦う準備をしておいて下さい、人数的に俺だけじゃ対応が難しいので」

 荷車から了解の返事を受け取ると、右手をベルトに付けたダートナイフに掛けたまま、霧の中の様子を伺う。

 すると先程まで数人だった人影は、倍以上の数に増えていた。しかも全員、手に剣や斧のようなものを持って。

(盗賊で間違いないな。しかし10人はいるな……囲まれるとまずい)

 囲まれた場合俺達はともかく、マルコさんを守りきれる自信がなかったため決心する。

「マルコさん、竜車をゆっくり止めてもらえますか?」

「止める? だ、大丈夫なのかい? 盗賊が来てるんだろう?」

 マルコさんが恐怖と驚きに満ちた顔をしながら訊ねてくるが、「絶対守って見せますから、お願いします」と真剣な顔で肩を掴んで頼むと、彼はゆっくりと頷く。

 そして竜車はゆっくりと停車していった。


「どういう状況になってるの?」

 リナさんが竜車から降りながら訊ねてくる。

「盗賊の数は約10人。もう近くまで来てます。囲まれると厄介なのでこっちから仕掛けようと思います」

 森を見ると、盗賊たちは竜車が止まったことに一旦動きを止めたようだったが、再びゆっくりと近づいてきていた。

 まだ距離はあるがこの霧で逃げることが難しい以上、戦闘は避けられないだろう。

 ドーザの予想はやはり間違っていなかった。

「マルコさんは荷車に隠れておいて下さい。レインさんはそこを守ってもらえますか? 余裕があるようなら援護をお願いします」

「わかりました。タスクさんとリナはどうするんですか?」

 レインさんが頷いた後、心配そうな顔をしながら俺の顔を見つめてくる。その後ろでマルコさんは荷車に急いで乗り込んでいた。

「とりあえずこの霧の中じゃどうしようもないですからね……戦うためには明かりが必要ですよね?」

 そう言ってリナさんに視線を送ってみると、彼女は少しだけ目を見開いた後、俺がやりたいことを理解したのか小さく頷くと口を開く。

「やりたい事はわかったけど、どこを狙えばいいの? 適当に撃って明かりを確保する?」

 右手を開いて、それを虚空に向かってゆらゆらとさせながら、リナさんが訊ねてくる。

「いえ、俺が指示しますよ。今の俺の目は魔法で強化されてます。だからこの霧の中でも良く見えています」

 マルコさんに聞こえないように小さな声で話すと、リナさんも同じように小さな声で言葉を返してくる。

「魔法でそんなこともできるの? 男にそういう能力を持ってる人間がいるというのは聞いたことがあるけど。

 あなたの魔法はそれと似たようなこと可能なの?」

「ええ。だから俺の指示する場所に炎の魔法をお願いします」

 リナさんは俺の言葉を聞いて何かを考えているようだったが、すぐにそれを止めこれから戦う人間の鋭い目つきに変わる。

「それじゃあ、仕掛けましょう」

 俺たち三人はそれぞれ目を合わせて頷くと、盗賊を撃退するために行動を開始した。

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