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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
三章 惨聞の雷精
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竜車に乗って

「いや~助かったよ」

 俺の横で御者をやっている商人が嬉しそうに声を上げる。女性二人には荷車の方に乗り込んでもらっている。

 特に理由はないが……まぁなんとなくだ。

「ところで……こいつ何ですか?」

 俺は荷車を引いて走っているトカゲ。

 トカゲと言っても二足歩行で馬ぐらいの大きさがあり、恐竜でこんな奴を見たことがあるようなフォルム。

 そんななりなのに幌ですっぽり覆われた荷車を一生懸命引っ張っていて、そんな姿が愛らしく見えるそれを指差しながら尋ねた。

「あんた、脚竜を見るのは初めてかい? 珍しいね」

「きゃくりゅうですか?」

 俺の問いに驚いている商人に、聞いたことがない単語を聞き返す。

「ああ、本来はドラゴンだったんだけどね。長い時間をかけて荷物を牽引するために使うための品種改良を重ねた結果、脚が発達して2足歩行になったのがこいつなのさ」

 そんな会話をしていると、こっちの言葉が分かるわけではないだろうが脚竜は、「グルルル」と鳴き声を上げる。

「なるほど。ところで商人さんは――」

「そういえば、自己紹介をしてなかったな。マルコだ。よろしく頼む」

「タスクです」

 自己紹介に付け加えて、エルフがレイン、剣の人がリナと荷車に乗っている2人のことも紹介しておく。

「よろしくおねがいします。マルコさんは本当なら何処の街に行くつもりだったんですか?」

 ついでに情報を仕入れるチャンスだと思い、マルコさんに尋ねてみる。

 あわよくば精霊の情報も手に入るかもと思っていた。商人ならいろんな情報を知ってそうだから。

「俺は自分の店がある街に帰るつもりだったんだよ。この街道をずーっと真っ直ぐ進むと見えてくるんだよ。

 リットって街なんだけど知ってるかい?」

 初めて聞く街の名前に首を横に振って答える。

「この辺じゃ唯一貴族様が治めてる街なんだよ。そのせいで税金はきついんだけどね……

 そのせいでアスト村まで商品を卸しに行かないとやっていけないぐらいには」

「……税金ですか?」

 こっちの世界で初めて聞く言葉に内心驚きながら尋ねる。

「ああ。冒険者の君には縁遠い話だとは思うけどね。しかも君はアスト村の人間なんだろ?

 あそこは辺境だけあって、税金も軽いからね。税金で困ることなんてないだろうね」

 俺のことを少しだけ羨ましいそうに見てくるマルコさんの表情は、悲しそうにも見えた。


「レイン。さっきの魔法をいったいどうやったの?」

 幌で包まれた荷車に揺られながら、私がさっき見たとてつもない威力を持っていた魔法のことが聞きたくて尋ねる。

 ウォーロック達と商人も何か話しているようだが会話の内容までは聞こえてこない。

 私の問いにレインは少し困ったような顔をしながら、首につけているペンダントを外して見せてくる。

「さっきもペンダントって言ってたけど、コレがいったいどうしたの?」

 特に変わった様子も見受けられないペンダントを見せられて、困惑しながら尋ねる。

「あのね、リナ。これタスクさんに買って貰ったものなんだけど」

「何? 惚気?」

 魔法の話をすると思っていたのに、いきなりそんな話を始めたレインに、思わず棘のある感じで言葉を放ってしまう。

 私の言葉にレインは、「違う!」と顔を赤らめながら首を横に振ると、ペンダントの説明を始めた。

「このペンダントはタスクさんに買って貰って、その後に水精様の加護を受けた魔導具になっちゃったの」

「え? 水精の加護を受けたペンダント? それをなっちゃったって……どうやったの?」

 私はレインの言う事に半信半疑のまま、その経緯を尋ねてみるが、色の良い返事は聞けなかった。

 そのためがっくりと肩を落としてしまう。

「だって……しょうがないじゃない。

 水精様が、『魔導具にしておいたから』っていきなり言うんだもの……」

 拗ねたような感じで喋るレインを可愛いなと思いながら、彼女が喋った内容に引っかかりを覚える。

「ちょっと待って! 水精様が言ったってどういう事? 

 まさかレインもウォーロックと同じように精霊の言葉が聞こえるの?」

 レインは首を傾げながら、「言ってませんでしたっけ?」ときょとんとした顔をしている。

 その表情に頭を抱えて溜め息を吐きながら、レインのことを少しだけ睨みながら口を開く。

「言ってないわよ……私も言ってないことがあるからあんまり言えないけれど。

 ……まぁいいわ、それでそのペンダントが魔導具なのは分かった。ところでレイン」

「なんですか?」

 変わらずきょとんした表情で尖った耳をピクピク動かしているレインを見て、おそらく分かっていないのだろうなと思いつつも、教えておかないといけないのでペンダントについて注意をしておく。

「分かってる? あなたのそのペンダントだけどね、精霊の加護を受けてるとなると国宝級の価値があるわよ?

 人前であんまり使わないようにしたほうがいいわよ」

「でも、これは私にしか使えないって水精様が――」

「そうだとしてもよ。あの魔法の威力を見れば、そのペンダントを欲しがる輩だって大勢現れると思うわ。

 たとえあなたにしか使えないとしてもね。それに彼に貰ったものを奪われたくはないでしょう?」

 私のその言葉にはっと目を見開き、頷きながら気合を入れているレイン。

 この子は本当に見てて飽きない。そしてこんなに親しく接してくれて嬉しくも思う。

 だけど私は自分の事情をほとんど話せない。

 この子やウォーロックを私の問題に巻き込むわけにはいかないから。

 にもかかわらず彼女達と行動を共にしている時点で矛盾している。本当にダメだ私は。

「リナ? どうしたの?」

 考えが表情に出ていたのだろう、レインが心配そうな顔でこちらを見ている。

「なんでもないわ。精霊の声が聞けて羨ましいと思っていただけよ」

 ごまかすために言った言葉だけど嘘ではない。私も精霊の声を聞いてみたいと思う。

 レインが私の言葉に、「リナも聞こえるようになるよ! 絶対!」と笑顔で言ってくると同時に、乗っている荷車の動きが止まった。


 霧の森の手前に来たようだったので、今日はここで野営することになりそうだ。

 竜車――この乗り物はそういうらしい――で移動したため、まだ日が高いけれどこのまま森に入ると夜になってしまい危険なため、今日はもう野営したほうが良いだろうとマルコさんと話し合った結果こうなった。

「どうしたの?」

 リナさんが顔を荷車から出して訊ねてきたので、今考えていたことをそのまま伝えると、「そう、わかったわ」と返事してレインさんを連れ立って荷車から出てくる。

 俺は遠くに見えている霧の森を見ながら、何も起きなければいいなと思いつつも、ドーザの予想が外れる気もしないなと同時に思った。

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