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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
三章 惨聞の雷精
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出立準備

(パーシヴァル)

 食事を終えてリナさんを待つため宿の自室に戻ってきた時に、ドーザから聞いたことの中に気になることがあったのでパーシヴァルを呼んでみる。

『なにかしら?』

(魔人について何か知ってるか? 話を聞くと俺と似たような存在のように感じたんだが……)

『確かに似ているところもあるわね。けれど決定的に違うところがあるわ』

 思いつくことがあったので尋ねてみる。

(精霊に力を貰ってるか、神に貰ってるかの違い……か?)

『そもそも貰ってるというのが違うの。私はタスクに加護として力を貸しているけれど。神はそうじゃないわ』

(そうじゃないって……あの刻印がある奴は強くなるんだろ? だったらあの刻印を通して力を貰っているんじゃ?)

 自分の考えをパーシヴァルに伝えるが、意識の中の彼女のイメージが否定を告げてくる。

『あの刻印は力を貰うためのものではなく。その身を捧げるためのものなの』

(その身を捧げる?)

 言っている意味がよく分からなくて聞き返す。

『あの刻印を刻むという事はそういう事なの。あれによって超人的な力を使うときは体を生贄にしているの。そして自らを神に作られた存在も変化させている』

(じゃあやっぱり魔獣と似たような存在なのか?)

『魔獣ほど凶悪な存在ではないと思いますよ。ただその身を捧げたからといってその者の人格が消えたりするわけでないの。だから知性を持っている分厄介といえば厄介ですけど』

(そうか……)

 いずれ戦わなければいけないであろう敵の話に気分が重くなる。

『ただ今のタスクだと魔人を相手するには苦戦は免れないと思います。それに強力な魔人に遭遇した場合にあなたはおそらく簡単に殺されますよ』

(ドーザにも似たようなことを言われたよ。

 やっぱり強い敵と戦っていくためにも、これからは精霊探しに重点を置いた方が良さそうだな)

『雷精……トリスタンの居場所は分かったのでしょう?』

(まだ確定じゃないけどな。ハズレでも何かしらの手がかりがあればいいと思ってるよ。お前が他の精霊の居場所を知っていればもっと楽なんだけどな……てっきり俺のことを救世主だと分かったから知っているものだと思ったのに)

 俺はしょうがない事と思いながらもパーシヴァルに愚痴る。

『申し訳ない。この世界に救世主が現れたことは感覚的に分かりました。そしてあなたが救世主だという事も。ですが私たち精霊はお互いに信頼してはいますが不干渉ですからね。それに仮に知っていても探し出すのがあなたの試練ですから』

(ああわかってるよ。言ってみただけだ)

「タスクさん。いますか?」

 ちょうど話し合いが終わったぐらいのタイミングで、俺が同じ部屋で寝るのを断ったため、隣の部屋に泊まっているレインさんがドア越しに声をかけてくる。

「いますよ。どうしました?」

「リナが来たみたいです。買い物の準備をしてから下まで下りてきてもらえますか?」

「わかりました。すぐ行きます」

 俺はすぐに出掛けるための準備を始めた。


「お待たせしました」

 準備を済ませて階下に下りると、食堂で席に座りながらリナさんとレインさんは、楽しそうにハルコさんが用意してくれたと思われるお茶を飲んでいた。

 もっともお茶を用意したであろうハルコさんの姿は見当たらなかったが。

「全然待ってないわ。レインと話しながらお茶を楽しんでいたから」

「リナと魔法について色々と話してました」

 2人は十年来の親友のように仲良さそうに俺にそう言ってくる。

「リナの魔法の使い方はとても参考になります。炎と水という相反する属性ですけど。だからこそ見えてくるものがあるんですよ!」

 レインさんは両手を軽く握り締めながら声を上げる。

「レイン。落ち着きなさい。ウォーロックが困っているわ」

「え? あ! タスクさん。ごめんなさい」

 こちらに向かって頭を下げるレインさん。

「いやいや! 別に困っていませんから。大丈夫ですよ」

 慌てて頭を下げているレインさんを止める。

「ふふ。それじゃあウォーロック行きましょうか?」

 俺達の様子を見て微笑んだ後、リナさんはそう言いながら立ち上がる。

「そうですね。レインさん行きましょう」

「はい」

「ハルコさん! ちょっと出てきます!」

 見当たらないが宿屋内には居るだろうと思い、大きな声でそう告げる。

 俺の声に、「あいよ」とハルコさんの声がどこからか返ってきたので、そのまま三人で外へ出た。


「そういえば思っていたより来るのが早かったですけど。用事は終わったんですか?」

 食料を買いに行く道中、気になったのでリナさんに尋ねる。

「ええ。すぐに終わる用事だっただけよ。イルゼさんとエッダさんに謝罪に行って来ただけだから」

「謝罪ですか?」

「ええ。エッダさんがショックからだいぶ立ち直ったみたいだったから謝ってきたの。

 二人とも私のせいで怖い思いをさせてしまったから」

 申し訳なさそうにそう話すリナさん。

「でもそれは結果的にであって――」

「そうだとしてもよ。それにあなたも同じ状況なら私と同じように思ったんじゃない?」

 こちらを試すような視線を向けてくるリナさん。

「それは……そうかもしれませんけど……」

 自分に置き換えて考えると、おそらく自責の念に駆られるだろうと容易に想像がついたので、唸るようにそう答える。

「あの! 食料は何を買いましょうか?」

 その空気に気を使ってか、レインさんが少し大きな声で訊ねてくると、いつの間にか旅するための食料を売っている店の前に来ていた。

「あ~そうですね……パンは旦那さんに明日の朝貰えるようにお願いしてますから。チーズと肉類を買っておきましょうか」

「わかりました。リナ! 量はどれくらい買えばいいかな?」

 レインさんは俺の言葉に頷くとそのままリナさんに尋ねる。

「余裕を持って1週間分ぐらい買っておきましょう。洞窟のときのように何があるかわかりませんから」

「そうですね。すいません!」

 店の人に注文をして代金を払うと、リナさんは買った品物を収納の指輪に仕舞っていく。

「余ったときはどうするんですか?」

「問題ないわ。この中に入っているものは何故かは知らないけど腐ったりしないのよ」

 俺の問いに指輪を見て少し首を傾げながら答えるリナさん。

「そうなんですか……どういう理屈なんでしょうね?」

 収納の指輪の事を考えながら店を後にした。

 俺達は次にいつものおじさんの店で再びテントを買うと、明日の朝、春風亭に集合という事を確認してその日は別れた。

 ちなみに店のおじさんは、またテントを買う俺のことをずっと訝しそうに見ていた……。

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