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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
三章 惨聞の雷精
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ツヴァイトの噂

「これからどうしますか? みんなでどこか行きますか?」

 冒険者ギルドから出るとレインさんがお昼時だからだろうか、機嫌良さそうに訊ねてくる。

「そろそろお昼ですもんね。どこかで食べましょうか?」

「私は用事があるから遠慮させてもらうわ。ごめんなさい」

 少しだけ申し訳なさそうな顔をしたリナさんが謝罪する。

「いえそんな! 言ってみただけですから謝らないで下さい。リナさん」

 レインさんが慌ててリナさんの手を握ながら目を潤ませて話す。

「レインさん。あなた面白い人ね。それじゃあ今度は一緒に食べましょう。それと私のことはリナでいいわ」

「はい。ぜひ一緒に食べましょう。リナ。私のこともレインと呼んでください」

 レインさんが手を握った状態のまま笑顔で見つめあう目立つ女性二人に、通行人も何事かと思ってこちらを見てくる。

「二人とも目立ってますからその辺で……」

 俺がそう言うとレインさんは周囲の様子を確認した後、恥ずかしそうに手を離した。

「それはいいとして、あなた」

 人目など全く気にしていない堂々とした様子で話しかけてくるリナさん。

「あなたは春風亭に泊まっているのよね?」

「ええそうですけど……れがどうしたんですか?」

「用事が終わった後で伺おうと思っているから。その時に居てもらえると助かるのだけど」

 リナさんのお願いに俺が疑問を返すため口を開く。

「何か用なんですか? わざわざ来てもらわなくても、簡単な用事なら今聞いておきますけど?」

「そうじゃないわ。あなた明日のために買い物に行くでしょう?」

「え? そうですね。食料を買ったり消失したテントを買い直したりしないといけませんからね」

 苦笑いしながらそう返事をする。

「その食料やテントを収納しておいた方が良いでしょう? これに」

 そう言って右手にはめている指輪を見せてくるリナさん。

「あ! なるほど。でも3人分の食料を収納することになっちゃいますけど大丈夫なんですか?」

 指輪の容量が気になったので尋ねてみる。

「問題ないわ。私の収納の指輪は3人なら10日分ぐらいの食料を収納しても大丈夫なはずよ」

 指輪を触りながらリナさんはそう話す。

「わかりました。それじゃあ昼飯を食べたら春風亭で待ってますね。ありがとうございます」

「お礼はいいわ。そのほうが効率がいいからそうするだけだもの。それじゃあまた後で。レインも」

 リナさんはそう言って軽く手を振ると魔術師ギルドのほうに歩いて去っていった。

「タスクさん! 私リナと仲良くなれそうな気がします!」

 レインさんは目をキラキラさせながら話す。

「良かったですね。そうなってくれたら俺も嬉しいですよ」

 向こうの世界でバイトばかりしていたせいで、仲のいい友人などいた事が無い俺は、少し羨ましく感じながら嬉しそうにしているレインさんを見つめる。

「とりあえず早くご飯を食べに行きましょうか。リナさんを待たしてもいけないですからね。酒場でも大丈夫ですか?」

「はい。あそこのご飯はおいしいですから」

 俺達は昼飯を食べに昼間から開いている酒場に向かうことにした。


「いらっしゃい!」

 酒場に入るとマスターが大きな声を上げる。

「適当に座りましょう」

 疲労から寝て過ごしたここ数日は、もっぱら昼食はレインさんとここで摂っていたので、慣れた感じで店内の席を見回す。

「アニキ! レインさん! こっち空いてますよ」

 声の方を見るとガイが元気よく手を挙げていたので、そちらに向かいながら席に座ってる彼に声をかける。

「いいのか? 他の2人も来るんじゃないのか?」

 ここ数日3人を常に酒場で見かけていたから、マシューとティガの姿が見えないが、今日も一緒だろうと思い尋ねる。

「いや今日は俺一人なんですよ。二人とも今日は用事があるらしくて……」

「用事? 2人だけってことは依頼とかじゃないんだよな?」

 席に座りながら尋ねる。

「2人ともデートらしいです……」

「え? あ~それはなんと言ったらいいか……」

 気まずい雰囲気に俺もレインさんも苦笑いするしかない。

「そんなことはいいんですよ! アニキがちゃんとした格好をしてるってことは依頼ですか?」

 この酒場に来るときはローブを羽織らずラフな格好で来ていたせいだろう、ガイは俺の姿を見回してそう訊ねてくる。

「依頼はついでになったけどな。明日からしばらくこの村を離れるんだよ」

「……どこへ行くんですか?」

 しばらく離れるという言葉にガイは真面目な顔つきで訊いてくる。

「石の街ツヴァイトまでちょっとな」

「ツヴァイトですか? あそこもアスト村に引けをとらないぐらいの辺境ですよね?」

「さっきドーザにも似たようなことを言われたよ。辺境を渡る趣味があるんじゃないかってね」

「ははは。ギルドマスターにですか? それは言われてもしょうがないですよ」

 ガイは笑った後、そのしょうがない理由を話し始めた。

「あそこは霧の森に阻まれてあまり外部から人が来ませんからね、そのせいかどうか知りませんけど街の人も排他的ですからね」

 懐かしそうに語るガイを不思議に思い質問してみる。

「行ったことあるのか?」

「ありますよ。冒険者としてじゃなくて小さい頃に父に連れていってもらったんですけどね」

「父に?」

「ええ。俺の父は商人なんです。それの仕入れに付いていったときに立ち寄ったんですよ」

「なるほどね。他に何か知ってることはあるか?」

 何か有益な情報を持っていないかと思い尋ねる。

「他にですか? 特にはないと思いますよ。あるとしたら雷精の伝説や這竜の伝説が残ってるぐらいですね」

「はいりゅう?」

 聞きなれない言葉に聞き返す。

「ええ。その名の通り飛べない竜ですよ。なぜかツヴァイトにはその伝説が残ってるんですよね。あの辺りに竜の住処なんて無いのに」

「這竜か……」

 そう呟き隣を見るとレインさんがおなかが減ったという顔をしていたので、これはまずいと思い手を挙げる。

「すいません! 注文良いですか?」

 俺のその言葉にレインさんの顔は明るくなった。

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