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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
三章 惨聞の雷精
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ドーザの古傷

 コンコン

「おう! 開いてるぞ」

 その声にギルドマスターの部屋のドアを開ける。

「タスクか。なんだ? もう体調は良いのか?」

 ドーザは俺が護衛依頼から帰ってきた後、疲労から数日間起きて食べて眠るだけの生活をしていたのを知っていたのかそう訊ねてくる。

「ああ。良くなったから話を聞きに来たよ。すぐにレインさんも来ると思う」

「そうか。ちょうど良かった。事情を聴くのにお前も同席してくれ」

「は? 同席?」

 コンコン

 ノックの音にドーザが入って良いと告げるとワンピースを着たレインさん。これこそが魔女といった風貌のマチルダさん。そして今日は甲冑ではなくミニスカートにシャツという格好のリナさんが部屋の中に入ってくる。

「これで揃ったな。適当に座ってくれ」

 ドーザに促されて俺達はそれぞれ椅子に座る。

「まどろっこしいのは嫌いだから単刀直入に聞くぞ。 リナの嬢ちゃん。お前なんでロスト教団に狙われている?」

(これは俺も気になるところだな)

「…………」

 ドーザの問いにリナさんは沈黙する。

「だんまりか……まぁあいつらに狙われている理由なんて碌なものじゃないだろうから話したくないのも分かるけどな。それに無理矢理聞き出す権利もギルドには無いしな」

「そうなのか?」

 取調べのようなものが行われると思っていたので尋ねる。

「知ってるだろ? 基本的にギルドは冒険者にも魔術師にも不干渉だ。言ってしまえばバレなきゃ過去に犯罪に手を染めていても仕事さえしてくれればギルドとしては構わないからな。今回は事情が事情だから一応訊いてみただけだ」

 ドーザは面倒くさそうに頭を掻く。

「あたしからもいいかい?」

 マチルダさんが手を挙げてそう言うとドーザは無言で頷く。

「試練を受けたがってたリナには重要なことだろうから今教えとくけど。今回の件でアスト村の魔術師ギルドは危険がないと判断できるまで試練を行うことができなくなりそうでね」

「え?」

 だんまりを貫いていたリナさんが驚いて声を上げる。

「だから試験を受けたいなら他所のギルドに行って受けてもらうしかないよ」

「そんな……」

 何かに絶望したような顔をするリナさん。

「とりあえず聴取はこんなところでいいだろう。それじゃあ次はタスクだ。これについて聞きに来たんだろ?」

 そう言ってドーザは机の上に何かの紙を置く。

「これが例の刻印なのか?」

 紙に書いてある人の顔のような異形の模様を指差しながら尋ねる。

「ああ。それが奴らの崇めてる神なんだってよ。タスクこの刻印が体にある奴を見たら注意しろ。特に刻印がどす黒い色になってる奴は教団の幹部だから要注意だぞ」

 ドーザは俺を真剣な声色で告げる。

「ドーザが言うくらいだから相当やばい相手なのはなんとなく分かるが……そんなになのか?」

「魔人とでも言えばいいのかね。奴等の事は」

「魔人……」

「便宜的に魔人と呼んだが別にお前が戦ったという毒炎の魔獣と同じように妙な能力を持ってるわけじゃないからな」

「そうなのか?」

「まぁおよそ人間とは思えない身体能力をもっているからそれを妙な能力といえなくもないが」

「それだったらドーザも似たようなものなんじゃ?」

 俺の問いにマチルダさんがくすっと笑う。

「一緒にするな! 俺の場合は訓練や実戦で鍛えた能力だよ。奴らは訓練も何もなしにそれを為し得るから厄介なんだよ」

「何も訓練なしに……」

 自分と同じような存在が魔人と呼ばれている事に眉を顰める。

「どうした? 難しい顔して。エルフの嬢ちゃんも心配そうに見てるぞ」

 その言葉にレインさんのほうを見るとドーザが言うとおりの顔をしていた。

「いえ何でもないです。とにかくその魔人に気をつければんだな?」

 ごまかしながらドーザに尋ねる。

「本当に気をつけろよ? 奴らの強さは今のお前だと勝てるかどうか分からんぞ。若いから未熟だったとはいえ俺の右目を簡単にくり抜いていくような連中だからな」

 ドーザがそう言いながら右目の眼帯を触る。

「もしかして左足もその時に?」

 前に戦ったときにドーザが左足を庇っていた事と関係があるのかと思って尋ねる。

「ああ。こっちは手刀を突き入れられてな……だからお前はこうはならないようしろ。いいな?」

「肝に銘じておくよ」

 俺は頷きながらはっきりと答えた。

「これで俺から話すことはもう無いが……お前ら何かあるか?」

 そう言ってドーザは部屋を見回したので軽く手を挙げて尋ねる。

「ちょっと行き方を知りたいところがあるんだがいいかな?」

 俺の言葉に部屋にいる皆の注目が集まる。

「なんだ? もう村を離れるのか?」

「いや。まだそう言うわけじゃないよ。それにその場所はここからそう遠くは無いみたいだし」

「何処に行くつもりだ?」

「石の街ツヴァイト」

 そう言うとドーザとマチルダさんは怪訝な顔をする。

「タスク。お前辺境を渡り歩く趣味でもあるのか? あの街には石切り場以外なにもねぇぞ?」

「いやそんな趣味は無いけどさ」

「お前いったい何が目的なんだ? そろそろ話してくれてもいいんじゃないのか?」

「そうだね……二人には話しても大丈夫かな」

 俺は違う世界から来たことは伏せて、自分がウォーロックで精霊を探していることを話すことにした。


「伝説のウォーロックか……それなら一見優男なお前の強さにも納得がいくけどな」

「まさかほんとにウォーロックだとはねぇ。やっぱりあたしが感じた魔力の気配は気のせいじゃなかったんだね」

 夫婦は俺について思ったことをそれぞれ口にする。

「だから強くなるために精霊に会う必要があるんだ。その手がかりがツヴァイトにありそうなんだよ」

 そう話すとマチルダさんが俺をじっと見つめてくる。

「あんたの言葉を疑ってるわけじゃなくて魔術師としての興味からなんだけどね。見せてくれないかい? あんたの魔法」

「ええ。構いませんよ」

 マチルダさんの頼みに快く答えて右手に軽く魔力を集中させ詠唱を始める。

「術式構成・雷」

 バチバチと掌から発生する放電に目を見開いて驚く夫婦と、雷魔法を使っているのを始めて見たリナさんが椅子から立ち上がって驚いていた。

「この雷の魔法を強くするためにもツヴァイトに行って雷精の手がかりを探したいんですよ。行き方を教えてもらえますか?」

 術式を解除しながらドーザの目を見ながら丁寧に頼む。

「まぁお前が事情を話してくれようがくれまいが教えてやるつもりだったけどな」

 そう言いながら自分の後ろにある棚から地図を取り出してテーブルの上に広げる。

「だが気をつけろよ? 道中は少し面倒くさいからな」

 ドーザはそう言ってツヴァイトへの道程の説明を始めた。

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