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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
二章 焔の剣士と魔術師ギルド
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乱暴な救出

「いってぇ……」

 走って逃げる途中で爆発の余波に吹き飛ばされたが痛み以外に体の異常は感じられなかった。

「大丈夫? 無事なの?」

 リナさんが洞窟内にもやのように巻き起こっている土煙の中から現れる。

「ええ。なんとか」

 立ち上がりながら自分の体を見回して異常がないかもう一度確認する。

「これであいつらに悩まさせられずに済みそうですね」

 俺は岩盤で塞がっている自分が逃げて来た道を見ながら呟く。

「ええ。そうね」

「しかしすごいですね? 治癒の魔法っていうのは。骨折が簡単に治ってしまうなんて」

「あれぐらいなら魔術師ギルドにいるような治癒魔術師なら誰でも出来ます。高位の魔術師なら腕を切り落とされても治せるわ」

「そうなんですか?」

 治癒魔法というものをマリーさんが擦り傷を治した事以外に知らないので驚きながら尋ねる。

「もちろん元の腕がなくなっていたら無理だけど。治癒魔法は病気や毒以外なら簡単に治せるわ」

 そこまで言うとリナさんがこちらを睨んで詰め寄ってくる。

「え? な……なんですか?」

 俺は後ずさりながら尋ねる。

「あなた。本当にウォーロックなのよね? 変わった魔法を使っていたし。それにさっき私の毒を治していたわ。薬以外で治す方法なんてないのに」

 俺にとって意外な事実をリナさんは口にする。

「魔法じゃ毒は治せないんですか?」

「ええ。どんなに治癒魔術師が研究してもその方法は見つからなかったの」

(そりゃ俺の霊水パナケアは治癒魔法じゃないからな……)

「それよりもウォーロック! あなたなぜまた現れたの? 1000年前と同じようにこの国を助けるために現れたの?」

「え? 1000年前ってどういうことです?」

 俺のその言葉を聞いてリナさんは落胆したような顔をする。

「そう……あなたは1000年前のウォーロックではないのね……」

(エルフの女王が言っていた伝説のことなんだろうな……過去にも俺と同じような存在がいた? パーシヴァル)

『無事だったようですねタスク。安心しました。それでどうしました?』

(過去に俺の同じような存在いたらしいが知っているか?)

『伝説のウォーロックのことですね? ええ。聞いたことはありますよ。会ったことはありませんが』

(会っていない? じゃあウォーロックは精霊魔術師じゃないのか?)

『それは分かりません。私が会っていないだけで他の精霊が加護を与えたのかもしれませんし。考えにくいことではありますが……』

(だろうな。お前達がこの世界の人間に干渉できないから俺が呼ばれたわけだからな。じゃあもしかして伝説のウォーロックも俺と同じ違う世界から――)

「ちょっと! あなた聞いてます?」

 思考の結論をリナさんに遮られる。

「だからあなたは何のために現れたのか聞いているの!」

「え~と。それは説明すると長いので……あ!」

「どうしたの?」

「これですよ。大事なものなんでしょう?」

「あ……」

 俺は左手に持っていたままだった綺麗な装飾の剣を渡す。

「ありがとう……ありがとう……」

 リナさんは剣を受け取ると緊張が解けたのか、剣を抱きかかえたまましゃがみ、しばらくそこで泣いていた。


「とりあえずここから脱出する手段を探しましょう。とりあえずここから最初の岩盤で塞がった所に戻ったほうが良いと思うんですよ。あそこが一番入り口に近いですし」

「……ええ」

 リナさんは立ち上がって腰に剣を携えると俺に付いて歩いてくる。

(これでいいんだよな? パーシヴァル)

『ええ。今レインちゃんたちが鬼気迫る勢いでそちらに向かっているはずです』

(無事だとは伝えてくれたんだよな?)

『もちろんですよ。ちゃんとレインちゃんに伝えました。二人とも無事ですが。暗い洞窟の中に閉じ込められて二人に何が起こってもおかしくないと』

(ん? 何故だろう……間違ってないのに間違っている気がする)

『ふふふ。大丈夫ですよ……それよりもタスク』

 声色を真剣なものにしてパーシヴァルが話を続ける。

『今回の件気付いているのでしょう?』

(ああ。それをこれから聞いてみるさ。気乗りしないけどな……命を狙われる理由なんて尋ねたくないよ)

 パーシヴァルと話し合いながら歩いていると最初の岩盤で塞がった所に戻ってくる。

「あ! これは」

 俺は足元で目に付いたものを拾う。

「光のランプだ」

 試しに光ってくれと意識してみるとそれに応えるようにランプは光り輝きだした。

「私がここで取り落としたランプね。あなたはウォーロックだから魔導具が使えても不思議じゃないけれど。でも……なぜそんなに綺麗に輝いてるの」

 リナさんの言うとおりランプは彼女が使っていたときと違い強く暖かい光を放ちながら、角度によっては七色に見えたりしている。

「さぁ。なんででしょうね……ところでリナさん。聞きたいことがあるんですが」

「なにかしら?」

 俺が真剣な表情でリナさんに向き直ると彼女も真剣な表情で返事をする。

「……命を狙われる理由に心当たりは?」

「あるわ」

「それを教えてもらうわけには――」

「だめよ。助けてもらってこんな事言う資格は無いのかもしれないけれど。私はまだあなたをよく知らない。たとえあなたがウォーロックだとしても簡単に話すわけにはいかないの。ごめんなさい」

「……復讐とか誰かに恨まれてるとかそういうことじゃないんですよね?」

「ええ。私が誰かに恨まれるようなことをして狙われているわけではないわ。精霊に誓ってそれだけは言える」

「分かりました。ありがとうございます。それだけ聞ければ十分――」「タスク! いるか~!」

 岩盤の向こうから俺を呼ぶ声が聞こえる。

「この声は! ドーザか!」

「おう! いるみたいだな! ちょっとあぶねえから岩盤から離れてろ!」

 その声に俺とリナさんは岩盤から距離を取る。

「はああああああ! 破!」

 ドン!

「きゃっ!」「な!」

 壊された岩盤の破片から守るようにリナさんを胸に引き寄せる。

「よし!」

 岩盤の向こうには正拳突きのような構えのドーザが立っていた。

(無茶苦茶じゃねぇか! さらに落盤が起きたらどうするつもり……ドーザならなんとかしそうだな……)

 ドーザの姿に安心しながらも心の中で愚痴る。

「よう! タスク。無事だったか? ……あ~邪魔したか?」

「は? 何を言っ――」「タスクさん! 大丈夫です……か」

 ドーザの後ろから出てきたレインさんが俺の様子を見て止まる。

「タスクさん……人が心配してたのに何をしてるんですか……」

「は? 何をって……」

 今の自分の状態を見るとリナさんを抱きしめているように見えなかった。

「タスクさん!」

「誤解です!」

「はっはっはっ!」

「…………」

 俺達が騒ぐ中リナさんだけは一人真剣な顔で何かを考えていた。

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