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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
二章 焔の剣士と魔術師ギルド
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百足駆除

(何とか間に合った……)

 水撃を放った後、リナさんが生きていることを確認してほっとする。

(こいつが落ちてなかったら道に迷って間に合わなかった。ありがとう)

 ここに来る途中で拾った炎の晶石が入っているポケット見ながら感謝する。

「ジュアアア!」

(でかい……このムカデがこいつらの首領格か?)

 俺の体よりも大きな体で鳴く二足歩行のムカデを見ながらそう判断する。

(まずはリナさんをあの場所から移動させる必要があるな。蹴散らすか……しかし発火するかもしれない雷は使えないな)

 ムカデの群れの中に突っ込みながら詠唱を開始する。

「術式構成・水・貫通」

 右手から水柱が立ち昇る。

水撃強襲アクアアサルト!」

 群れの中心にいる、でかい奴を狙って水撃を放つとそのままリナさんのほうに駆け寄る。

「シュア――」

 放たれた水撃は大ムカデまでの射線上にいた雑魚共を粉々に粉砕しながら向かっていく。

「ジュアアア!」

「なんだと?」

 でかいムカデは体を丸めて防御の姿勢を取り背中の甲の部分を見せると、その甲の部分に当たった水撃は弾かれて明後日の方へ飛んでいき壁にぶち当たり穴を穿つ。

「弾いたのか……」

「あいつの弱点は炎よ……体から分泌されている油に着火してよく燃えるの」

「油……それで水撃を弾いたのか。貫通が形無し――それよりも大丈夫ですか! 怪我は!」

 洞窟の壁にもたれかかっているリナさんを心配して尋ねる。

「大丈夫。背中を打っただけよ。そんなことよりもあなた! さっきの魔法は?!」

 リナさんは目を見開いて訊いてくる。

「これはですね――」

 質問に答えようとしたときに目の前が一瞬暗くなったために片膝をついてしまう。

「あなた!どうし――これって血……」

 俺の頭部から血が滴っているのを見てリナさんは絶句する。

「あなた! そんな体でここまで来たの!? どうして……」

「決まってるじゃないですか……俺は今あなたの護衛だから……あなたが危ないときには駆けつけないとだめでしょう?」

 今にも失ってしまいそうな意識を繋ぎとめながら彼女にそう告げる。

「あ……」

 俺の言葉にリナさんは涙を浮かべている。

(怖かっただろうな……殺されるところだったんだから)

「ジュアアア!」

 防御体勢を解いた大ムカデがこちらを威嚇してくる。

「リナさんは逃げてください……ここは俺がなんとかします」

 俺自身死ぬつもりはないがどりあえずリナさんの安全を確保したいためそう提案する。

「だめよ! あなたを置いていくわけにはいかないの」

 そう言って強い信念を秘めた綺麗な瞳で俺を見つめる。

「右手を出して」

「え?」

「早く!」

 言われるがままに右手を出すと、リナさんは収納の指輪から淡く光る晶石を出して、その晶石を間に挟む形で彼女の左手と俺の右手を合わせる。

「これは治癒の晶石よ。こうやって使えばお互いの傷が癒せるわ」

 リナさんはそう言って額と額をくっつける。

「相手を癒すイメージをして。相手を思いやるの。あなたが本当にウォーロックならやってみせて。お願い!」

 祈るような彼女の言葉に俺は頷くと意識を集中させる。

(俺はこの人を救いたい。死なせたくないんだ。だからこの晶石の元になった精霊よ。俺たちを助けてくれ)

 魔力を込めてそう願うと晶石は強く光り輝きだす。

「あ……お母様の言ったとおりでした……本当に助けに来てくれました」

「え?」

 リナさんの言葉に疑問を持つが、次の瞬間俺達は暖かい光に包まれる。

「腕が治っていく……」

 光に包まれてあれだけ痛くて動かなかった折れた腕がいつも通り動くようになっていた。

「よし。これならいける。リナさん動けますか?」

「ごめんなさい……足を毒でやられてしまって」

「失礼します」

 俺は毒を治療するためにこのムカデの群れの中から移動する必要があるのでリナさんを両手で抱きかかえる。

「きゃっ! え? え?」

「行きます!」

 俺はリナさんを抱きかかえたまま跳躍してムカデ達を回避しながら、やって来た通路まで移動して彼女を床に下ろすと詠唱を始める。

「術式構成・水・浄化」

 前に使ったときと同じように魔力を両手に集めて術式の名を呼ぶ。

霊水パナケア」 

 霊水を彼女の足にかけて毒を浄化する。

「すごい……あなたほんとにウォーロックなの?」

「一応そうですね。最近そういうことになったばかりですけどね」

 そうはにかみながら話すと彼女は困惑した表情をする。

「それで。どうしますか? このまま脱出できそ――」「あ! 剣が・・・」

「剣?」

 そう言われてリナさんが腰に携えていた剣がなくなっている事に気付く。

「お母様の形見なの……」

 その言葉を聞いて発動に慣れてきた術式を短縮で起動する。

「狙撃」

 その状態でムカデの群れの中に視線を向けると綺麗な装飾の剣が落ちているのを見つける。

「取ってきます、走って逃げる準備だけしておいて下さい」

「え? それってどういう――」

 リナさんの言葉を全て聞かずにムカデの群れに突っ込む。

(無傷で通るのは無理だろうな! 多少の傷はしょうがない!)

「シュアアア!」

「邪魔をするな! ・・・貫通」

「シュア!?」

 そのまま拳で払いのけると二足ムカデは粉々になりながら飛び散っていく。

「くっ! 離せ!」

 別の方向から来た二足ムカデに左腕を噛まれるがそのまま殴り飛ばす。

「毒か」

 腕が徐々に痺れていくのを感じる。

「術式構成・浄化」

 体内の毒を消すとそのまま剣へと走るが目前で大ムカデが立ちはだかる。

「ジュアアアア!」

「この使い方は魔獣相手だと炎のせいで試せなかったからな。術式構成・貫通・水」

 そしてそのまま大ムカデを殴りつける。

 ドンッ!

「ジュア!?」

「水撃強襲!」

 構成を変えたことで発動形態が変わった水撃が拳の先から放たれ、大ムカデの皮膚を貫きながら壁に叩きつける。

「ジュ……ア」

「まだ生きてるのか? すごい生命力だな」

「ジュアアアア!」

 鳴き声がしたのでそちらを見ると同じような大きさの二足歩行ムカデが洞窟の奥から現れていた。

「キリがないな……だけどもう目的は果たした」

 落ちている剣を拾うとリナさんに向かって叫ぶ。

「リナさん! 走れええええええええええ!」

 その叫びにリナさんが走り出すと俺もその場所から逃げるように走る。

「……やっぱりか」

 すんすんと周囲の臭いを嗅いで走りながら通路まで逃げると、そこで立ち止まって二足歩行のムカデで溢れかえる空間を振り返る。

「分かってる……使えって言うんだろ?」

 ポケットから暖かさを感じ中にある晶石を取り出す。

「いくぞ! 狙撃」

 炎の晶石に魔力を込めて、さっき大ムカデが水撃を弾いた時に出来た穴をめがけて、思い切り投げる。

「いけえええええええ!」

 俺は晶石を投げると即座に反転して全力でその場所から離れた。


 タスクから投げられた晶石は吸い込まれるように穿たれた穴に入り、そこで炎を発生させるとガスに着火し轟音と爆発を伴いその空間にいる二足歩行のムカデ、デュオケントゥムの群れを一瞬にして焼き尽くした。

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