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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
二章 焔の剣士と魔術師ギルド
35/74

レインの予感

「……」

 魔術師ギルドから出て来た少女は無言のまま鋭い視線で俺とレインさんを見つめる。

「この子が最後の一人だよ、無愛想だけど勘弁してやっておくれ」

 マチルダさんは苦笑いしながら俺たちにそう説明する。

「え~と……冒険者のタスクです」

「同じくレインです」

 俺たち赤い髪の少女に挨拶をする。

「……リナ」

「え? あ……リナさんですね。今日からよろしくおねがいします」

「……男には期待していない」

「え?」

 リナと名乗った少女は俺が聞き返した声を無視するように背を向けて離れていく。

「がんばんな! 一筋縄ではいかないだろうけどね」

 ぽんぽんと俺の肩を叩きながらマチルダさんは励ます。

「はい……やれるだけやってみます」

「その意気だよ。それで晶石鉱山洞窟だけどアスト村から片道で1日ぐらいだからそんなにかからないよ。この子達に付いていきながら護衛をすればいいだけだから楽だろ?」

(片道一日は結構かかってる気がするんだけどな……)

 マチルダさんの言葉に俺は難しい顔をしながら考える。

「タスクなんだい? その顔は」

「いえ……何でもないです」

「それじゃあ頼んだよ。タスク」

 バンッ

「いって」

 俺の背中をマチルダさんが思い切り叩く。

「じ……じゃあ出発しましょうか?」

「「はい」」「…………」

 ヘッダさんとイルゼさんは返事をしてくれたがリナさんは完全にこちらを無視している。

(大丈夫なのかね……これで)

 不安な気持ちを苦笑いで隠しながらレインさんのほうを見る。

「大丈夫ですよ。あともう少しでお昼です。お弁当でも食べながら話せば仲良くなれますよ!」

「……そうですね(たぶん……早くお弁当が食べたいだけなんだろうな~)」

 俺とレインさんは街道を進み始めた3人の少女に遅れないように歩き始めた。


 アスト村を出てしばらく歩いたが俺との3人の会話はほとんどなくただ無言で彼女達4人の後ろを歩くだけだった。

(あっちは楽しそうだな~。女の子同士が楽しく喋ってるのを見るだけでも眼福だから飽きはしないけれど)

 俺はレインさんと話す少女達を見ながらそんな事を考えていた。


「じゃあレインさんとタスクさんは恋人じゃないのですか?」

 イルゼさんが私に興味深そうに訊ねてくる。

「ええ。違いますね……」

「でも好きなんだ?」

 エッダさんがニコニコしながら訊いてくる。

「……分かりますか?」

「見てれば分かるよ~。レインちゃんがタスクさんを見る目は完全に恋する乙女だもん」

 初めて他人から指摘されて恥ずかしくなって俯く。

「でも珍しいね。エルフが人族を好きになるなんて。ねぇどうして好きになったの? こう言っちゃ悪いけどタスクさんって見た目は特別格好いいってわけじゃないよね?」

「失礼ですよエッダさん。ごめんなさいレインさん」

 イルゼさんが私に申し訳なさそうな顔をしながらエッダさんを注意する。

「いえ。私が言う事じゃないですけど気にしてないですから。それにきっとあの人も気にしないと思いますから」

「おお。理解しちゃってる感じだ?」

「だといいのですけど……ところで御二人にはそういう相手はいないのですか?」

「私には許婚がいますね」

「私にもいるよ! 言っちゃえば魔術師の修行だって花嫁修業の一環だからね。女たるもの夫を支えるだけでなく共に戦う力を持てってね」

「い……許婚ですか?」

 当たり前のようにそう告げる二人に私は驚いてしまう。

「たぶんレインさんの考えてるような政略的なものとは違いますよ。まぁ政略結婚といえばそうなのかもしれませんけど。相手の方は一つ年上の騎士見習いの方でとてもいい人なんですよ」

 そう言って何かを思い出したのか嬉しそうな顔をするイルゼさん、その姿を見てその人がほんとに好きなんだろうなという事が見て取れる。

(私も傍から見たらこんな感じなんでしょうか……)

 そう思い少し恥ずかしくなってしまう。

「私も似たような感じかな。こっちの相手は10歳年上だけど」

「じゅ……10歳上ですか?」

 エッダさんの衝撃の言葉に眼を丸くしてしまう。

「うんそうだよ。とっても素敵な人でかっこいいんだ。王都で騎士をしてるんだよ~」

 エッダさんも嬉しそうにそう語る。

「王都ですか……私はあまりエルフの領域から出たことがないのでいつか行ってみたいですね」

「そうなのですか? それならいつかタスクさんに連れて行ってもらえばいいじゃないですか」

「え?」

 イルゼさんにそう言われ思わず後ろを見てみると、いきなり後ろを向いた私に目を軽く見開きながら微笑むタスクさんの姿があった。

 ドクン

 その笑顔を見ただけで心が跳ね上がるような感覚を覚える。

「ふふふ」「あっは」

 そんな私の様子を見て2人は笑っている。

「……くだらないわ」

 今まで黙って歩いていたリナさんが辛辣な言葉を吐く。

「え? 何がですか、リナさん」

「男を好きになるなんてくだらないって言ったの」

「男性がお嫌いなんですか?」

 苦々しく語るリナさんに私は尋ねてみる。

「お父様以外の男に心を許すなんて事有り得ないわ……実力も無く魔法を使えないくせに偉そうに……」

 何かを思い出しているのだろうか苦虫を噛み潰したような顔をするリナさん。

「……リナさん。今魔法も使えないくせにって言いましたけど。もし魔法が使える男性が居たらどうするんですか?」

「あなたよくそんなレムナス王国に伝わる古い話を知ってるわね。ウォーロックの事でしょ? 小さいとき絵本で読んだわ。でも魔法が使える男なんてそんな奴いるわけがないじゃない」

「……そうですよね」

「でもそうね。もしもそんな男がいるなら私も心を許すかもしれないわね。有り得ないでしょうけど」

 私はこのとき何故かこの子と唯一無二の親友になれるようなそんな予感がして、このリナという少女の事をもっと知りたくなった。

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