結局同衾
「ん……あぁ……朝か」
目覚めた俺は心地よい香りがする中思いっきり伸びをする。
「んぅ……」
伸びをした手を下ろしたときに何か柔らかいものに当たり、その柔らかいものから声が聞こえた。
「は?」
声のした方を見ると俺の右手はなぜか隣で寝ているレインさんのお腹の所に当たっており、しかも寝巻きが捲り上がっていたためその程よく引き締まったお腹を直接触っていた。
「なんで……」
ふにっ
「やぁん……」
思わず手を動かしてしまうとレインさんは艶かしい声を上げた後ゆっくりと目を開ける。
「ふあぁ……おはようございます、タスクさん」
「お……おはようございます」
俺は急いでお腹から手をどかして返事をする。
「あの……レインさん」
「ふぁぁあ……はい?」
俺の横で大きな欠伸をしながら伸びをするレインさん。
「なんで俺と一緒の毛布に入ってるんですか?」
「……えへへ」
「いや笑ってごまかさないで下さいよ。こんなところハルコさんに見られたらまたからかわれ……」
コンコン
「タスク。起きてるかい?」
ドアの向こうからハルコさんの声が聞こえる。
(何でこのタイミングで……)
「はい。起きて――」
ガチャ
「なんだい。鍵をかけてないじゃないか? 無用心だね」
何故か鍵がかかってないドアを開けて入ってきたハルコさんと思い切り目が合う。
「あ」
「…………」
ハルコさんの視線が俺とレインさんの間を行ったり来たりする。
「……昨夜は楽しめたみたいだね」
バタン
「ちょっと! ハルコさん」
「分かってるってタスク。何も言わなくても」
「いやそうじゃなくて」
ドア越しにハルコさんの誤解を解こうとがんばってみる。
「そうそう! タスク。今ギルドの人が来て昼までにはギルドの前に来てくれってさ」
「え? はい。わかりました」
「じゃあ伝えたからね。ごゆっくり」
「はい……いや! ちょっとハルコさん」
ハルコさんは俺の声など聞こえないかのようにドアの前から立ち去っていく。
「あ~あ……でもなんでドアの鍵が掛かってなかったんだ?」
俺は状況を嘆く声を上げた後、気になったことを呟く。
「あ……」
後ろから声が聞こえたので振り向くとレインさんが悪戯がばれた子供のような顔をしていた。
「……理由をご存知で?」
「……はい。昨日の夜にお手洗いに行った時に鍵を開けたので……それで戻ってきた時に……」
「鍵を閉め忘れたと……」
はいと返事をしながら弱々しく頷くレインさん。
「それは分かりました。でも戸締りは気をつけてくださいよ? 何があるか分かりませんからね。それでなんで俺の隣で寝てた……」
ぐううううう
「……先に朝食にしましょうか」
恥ずかしそうに俯くレインさんにそう告げて、俺は顔を洗うために部屋の外に出た。
「タスク達は今日から依頼で遠出するんだったよね?」
朝食を食べ終わってお茶を飲んでいる時にハルコさんが訊いてくる。
「ええ。数日は帰ってこないと思いますよ」
「ほらこれ。持っていきな」
ハルコさんはお弁当の包みを2つテーブルに置く。
「またいいんですか? 食料も分けてもらったのに」
「ああ。旦那が張り切って作ったものだからね。帰ってきたら感想でも聞かせてあげてちょうだい」
「旦那さん。ありがとうございます」
「…………」
俺が厨房に姿が見えた旦那さんにお礼を言うと、旦那さんは無言で微笑み頷いて答える。
「レインさんも良かったですね」
レインさんはお弁当の包みを見ながら恍惚とした表情を浮かべている。
「はい……私。生まれてきて良かったです」
(そこまでの事なのか……)
「じゃあ少し早いですけどそろそろギルドに向かいます。待たせてしまうよりは待ったほうがいいので」
「そうかい。気をつけるんだよ? タスク。レインちゃんをちゃんと守ってやるんだよ」
「ええ。もちろんですよ。それじゃ行ってきます」
俺は足元に置いていたテントが入った袋と食料の入ったカバンを持って立ち上がる。
「おにいちゃん。レインおねえちゃん。いってらっしゃい」
「いってきます」
俺とレインさんはヒナちゃんに笑顔で手を振って宿を後にした。
ギルドの前にたどり着くとすでにドーザが立っていた。
「遅くなったかな?」
「あ? なんだもう来たのか? まだ貴族のお嬢さんたちは来ないと思うぞ」
「そうか……ところでドーザはここで何を?」
「体が鈍らないように運動でもしようと思ったんだが……」
そこまで言って俺を見つめるドーザ。
「……何だよ?」
「タスク。俺の運動に付き合え! 武器の使用と急所への攻撃は禁止でな」
「運動って実戦形式かよ……」
「当たり前だろうが! ごたごた言ってないでいいから付き合えよ」
「まぁ暇を持て余すよりは良いか……レインさん。荷物を見ててください」
俺はそう言って荷物を地面に置く。
「大丈夫なんですか? 魔法が使えることは知られたくないんですよね?」
「まぁあんまり異端扱いされたくないですしね……ドーザ相手なら話しても良いかなとは思いますけど」
俺達はドーザに聞こえないように話す。
「内緒話は終わったか? さぁ! やるぞ!」
「はいはい。やりますよ」
俺はわざとめんどくさそうに話すと、真剣な顔でドーザを見据えて半身で構えた。




