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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
二章 焔の剣士と魔術師ギルド
32/74

同衾拒否

「ちょっとハルコさん!」

 レインさんの話を聞いてしばらく硬直した後、俺は宿に向かいハルコさんに抗議の声を上げる。

「おや? タスクおかえり。荷車は役に立ったかい?」

「え……ええ。役に立ちましたよありがとうございます。ギルドに置いてきたんで後で取りにいってきます」

「そうかい、ありがとうタスク」

「いえ普段からお世話になってるからこれくらい……ってそうじゃなくて!」

「いったい何だい? おや? レインちゃん無事タスクに会えたみたいだね。良かった良かった」

 ハルコさんは俺の後ろにレインさんに話しかける。

「はい。ありがとうございます」

 レインさんはそう言って頭を下げる。

「それよりもハルコさん。レインさんが俺と同じ部屋に泊まるってどういう事ですか?」

「なんだい? そんなことかい。レインちゃんがお金をあんまり持ってないみたいだったしそれにタスクと知り合いみたいだったからね。じゃあ同じ部屋に泊まれば問題は解決だろうと思ってね」

 ハルコさんが頷きながら話す。

「いやだめですハルコさん。解決って言うかむしろ問題が増えてます。さすがに男女が同じ部屋はまずいと思うんですが? それに俺の部屋ベッドがひとつしかありませんし」

「……同衾しないのかい?」

 びっくりするぐらいの真顔でハルコさんは訊いてくる。

「……しませんよ。俺を何だと思ってるんですか」

「タスクあんた……男色の――」「違います!」

 若干引いたような顔で話すハルコさんの言葉を即座に否定する。

「冗談はさておきだよ。レインちゃんがそれで良いって言うんだからまずはあんた達で話し合った後私に言いにきなよ」

 その言葉に振り返るとレインさんは笑顔でこちらを見ている。

「はぁ……とりあえず部屋で話しましょうか」

「はい」

 俺はレインさんと共に2階の部屋に向かった。


「それでどうしましょうか?」

 部屋に入るとレインさんにベッドへ腰掛けてもらって俺は床に座る。

「いえ私はこの部屋のままで大丈夫なんですけど」

「いやそれだと俺が大丈夫じゃないので――」『ふふふ』

「パーシヴァル?」「水精様」

 聞こえてきた笑い声に俺は疑問の声を上げる。

『タスクが困ってるのがおもしろくてね。思わず笑っちゃったわ』

「水精様。水精様のおかげで無事に春風亭まで辿り着きタスクさんに出会えました。ありがとうございます」

 レインさんが丁寧にそう話す。

「パーシヴァルのおかげって……」

『私が春風亭ってところにタスクが泊まってるってことを教えておいたのよ。あなた自分がどこに滞在してるかなんてレインちゃんに言ってなかったでしょ?』

「ああ? そうだったかな?」

『あなたがそんなことだから私が手助けしてあげたの感謝しなさいよ』

「……本音は?」

『おもしろいことになれば楽しめるかな~と思って』

「はぁ……こんなのが慈愛の象徴ね……」

『あ~あなたがレインちゃんに買ってあげたペンダントの事ね。そうそうそのペンダントだけど私が加護を与えておいたから役立ててちょうだい』

「は?」「え?」

 俺とレインさんは思わず間抜けな声を上げる。

『だからそのペンダント。いわゆる魔導具になってるから役立ててね』

「待てよ! そんなに簡単に加護を与えて良いのか?」

『大丈夫だと思うわよ。どのみちそれ私と心を通わせた人間しか使えないからね』

「俺とレインさんしか使えないって事か?」

『タスクにはすでに加護を与えてるからレインちゃんの専用装備って感じかしらね。水魔法の発動の触媒にでもしてちょうだい』

「だそうですよ? レインさ――」

 レインさんは放心状態で固まっていた。


「それじゃあレインさんがベッドで寝て俺が床に寝るという事でいいですね?」

 レインさんの意識が帰ってくるのを待って話し合ったが折れてくれそうになかったのでこういう形での妥協案を提案する。

「はい。でも良かったんですか? 私がベッドで」

「前にも言いましたけど女の人を床で寝かせて俺がベッドというわけにはいきませんよ」

『一緒に寝ればいいのに……』

「水精さんうるさいです」

 俺がパーシヴァルに釘を刺した時に部屋の外から声が聞こえる。

「おにいちゃんあけて~」

「ヒナちゃん?」

 立ち上がってドアを開けるとトレイにお茶を載せたヒナちゃんが立っていた。

「おか~さんがおにいちゃんの部屋にもっていけ~って」

「ありがとう。ヒナちゃん」

 トレイを受け取りながら礼を言う。

「あれ? お姉ちゃんの耳なんでとんがってるの?」

 レインさんの姿を見てそう尋ねるヒナちゃん。

「はじめましてヒナちゃん。私はレインっていいます。耳がとんがってるのは私がエルフだからなの」

「エルフ? レインおねえちゃんエルフって何?」

「え~と、私みたいに耳がとんがってる人たちをエルフって言うの」

「ふ~んそうなんだ」

 そう言いながらヒナちゃんは部屋の中を見回す。

「どうしたの? ヒナちゃん」

「二人しかいないの? もう一人声が聞こえたよ」

「「え?」」

 俺とレインさんは同時に声を出す。

『珍しいですね。私たちの声が聞こえるなんてよっぽど純粋で綺麗な心を持ってるんでしょうね』

 優しい声色でパーシヴァルが話す。

「あれ~?」

 ヒナちゃんはパーシヴァルの声が聞こえているのだろうが姿が見えないので不思議そうな顔をする。

「ヒナちゃん。この声は精霊さんの声なんだ。ヒナちゃんがいい子だから聞こえるんだよ」

「そうなの?」

「うん。だからヒナちゃんはずっといい子でいてね」

 そう言って俺はヒナちゃんの頭を撫でる。

「うん。わたしずっといい子でいるよ~」

 そのとき階下からヒナちゃんを呼ぶハルコさんの声が聞こえる。

「あ! おかあさんが呼んでる。じゃあねおにいちゃん。レインおねえちゃん。精霊さん」

 そう言ってヒナちゃんは階下に下りていった。

「しかし驚きましたね。精霊の声が聞こえるなんて……なんですか?」

 レインさんが俺をジト目で見てくるので何故かと訊いてみる。

「タスクさん。前に帰りを待ってくれてる人がいるって言ってましたよね?」

「ええ」

「それってヒナちゃんですか?」

「え? ええまぁそうですけど……」

「タスクさんってそっちの趣味だったんですね……私いったいどうしたら……」『タスクそれはダメよ。今すぐ改めなさい』

「だから! お前ら俺を何だと思ってるんだ!」

 そんなこんなでその日は何事も無く終わり、翌日の朝を迎えた。

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