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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
一章 出会いは水と共に
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魔法の価値

「女王。ここは俺に任せて退がって下さい」

 魔獣を睨みながら背後にいる女王に話す。

「水精様は力を貸してくれたのですか?」

「術式構成・水」

 そう唱えると俺の右の掌から水があふれ出てくる。

「この通りです」

「あ……水精様……ありがとうございます」

 女王は涙を浮かべながら感謝の言葉を言う。

「だからもう大丈夫ですから。ここは俺に任せてください」

「はい。頼みます。ウォーロック」

 女王は重い足取りだったがレインさんの所まで退がっていく。

(とはいったものの……)

「グウウウウウウウ」

 俺は魔獣を睨みながら次の行動移る。

「術式構成・水・貫通」

 俺の右手から溢れた水が渦を巻き始める。

水撃強襲アクアアサルト!」

 バンッ!

「ガアアアアアアアア!」

 水撃を喰らった魔獣を苦しそうに悲鳴を上げる。

「ガアアアアアアアア!」

 しかし悲鳴のために開けた口からそのまま黒い火弾を放ってくる。

「水撃強襲!」

 俺から放たれた水撃は火弾をかき消してそのまま魔獣に当たる。

「ガ! ガアアアアアア」

 再び悲鳴を上げる魔獣。

(雷撃の時とは違い、ダメージは与えられてるみたいだが……)

「グアアアアアアアア!」

 再び魔獣が火弾を放ってきたので迎撃せずに回避する。

(決定打に欠けるな……)

 そうして魔獣と少し距離を取る。

(かといって俺の現在の術式構成だと最も威力が出るのは貫通だろうから水撃が効かない以上打つ手が無いということになるが……)

『打つ手はあります』

 頭の中に声を感じる。

(パーシヴァルか?)

『はい。加護によって離れていても会話が可能になりました』

(そうなのか? トリスタンはできないみたいだが?)

『トリスタン? ああ雷精のことですか。彼がタスクに与えたのは不完全な加護なようですので出来なかったのでしょう』

(ああ。そんな事も言っていたな。それで打つ手とはなんだ?)

『はい、術式の三重構成です』

「構成を三つ使えと? 出来るのか?」

『魔力が増えた今のタスクなら可能なはずです。ただし今のタスクの内在魔力を持ってしても撃てて1発ですので外せばそこで終わりです』

(終わりって……簡単に言ってくれるね)

『外す予定でもあるのですか?』

(まさか! あるわけ無いだろう。だが……心苦しいがレインさんに手伝ってもらう必要がありそうだな)

 俺は一旦レインさん達の所まで退がった。


「レインさ――」「タスクさん!」

 言葉の途中でレインさんに抱きつかれる。

「タスクさん。ありがとう。お母さんを助けてくれて」

 俺はレインさんの頭をポンポンと叩いた後引き離す。

「レインさん。頼みがあるんだ」

「頼みですか?」

「アイツを倒すためにレインさんの力が必要だ」

「……何をすればいいのですか?」

 レインさんは真剣な顔つきで訊ねてくる。

「俺の魔法で奴の心臓が狙えるようにアイツの動きを一瞬で良いから封じて欲しいんです。やれますか?」

「やれます! やってみせます!」

「……分かりました。お願いしますレインさん」

「はい」

 そうして俺たち2人は迫ってくる魔獣に向き合った。


「術式構成・水・狙撃・貫通」

 体から一気に魔力が吸い出され左手に集まっていく。

(確かにこれは1発しか撃てないな……)

 左手に水の弓が生み出されるのを見ながらそんな事を考える。

「……すごい」

 レインさんが感嘆の声を上げるのを聞きながら、水の弓の弦の部分を右手で引き絞っていくとそれに応じて水の矢が生成されていく。

「レインさん。頼みます」

 俺は魔獣に狙いを定めながらレインさんに合図を送る。

「はい! 水よ……奔れ!」

 レインさんから放たれた水はレーザーのように魔獣に向かって直進する。

「ガア!ガアアアアアアアア」

 絶えず放たれ続ける水の勢いに魔獣の動きが鈍くなるがまだ心臓が見えない。

「ぐうううう」

 レインさんも苦しそうな声を上げている。

(くっそ! あの図体でなんで心臓はあんなに小さいんだ……狙いにくいにも程がある)

 そんな俺の忌々しそうな様子をレインさんが横目でチラッと見たのが分かった。

「水よ……奔れ! そして……穿て!」

「ガアアアア!ガアアアアアアアア」

「ぐうううううううう」

 苦しみながら放ったレインさんの水のレーザーはドリルのように回転しながら魔獣の胸に穴を穿ちだす。

(魔獣の炎が弱まって……見えた!)

 黒い炎の中に見えた魔獣の心臓である小さな赤い炎を討つために俺は魔法の名を叫んだ。

水撃の射手アクアシャープシューター!」

 バシュン!

「ガアアアアアアア!」

 放たれた水撃の矢に危険を感じたのか魔獣がレインさん達の水の槍を喰らったときと同じように自らの体の炎の火力上げる。

「無駄だ!」

 ザンッ!

 水撃の矢は体の炎などお構いなしに突き進んでそのまま心臓の火種を貫いた。

「ギャアエエエエエエエエ」

 苦しそうな悲鳴を上げながら魔獣の体の炎が徐々に小さくなっていった。


(なんとか倒せた……でももう魔力切れでまともに体が動かないな……)

 そう考えている俺の視界に魔獣が最後の力で炎弾をこちらに放とうとしているのが見えた。

(まずい……今それを撃たれたら……)

「ガアアアアアア!」

 炎弾を放ったと同時に魔獣が消滅するがその炎弾はしっかりと俺目掛けて放たれていた。

「タスクさん!」

(え……だめだ……レインさん……それはだめだ)

 レインさんが俺を庇うように炎弾の射線に飛び出す。

「水よ……守れ」

 ドオオオオオン!

 水の壁を張ったが直撃した炎弾の威力にレインさんは吹き飛ばされていく。

「レイン……さん?」

 ドサッ

 吹き飛ばされて地面に叩きつけられるレインさんの姿が見える。

「レイン! しっかりしなさいレイン!」

 女王がレインさんに駆け寄り必死に呼びかけている姿を見て、俺も動かし辛い体を引き摺りなんとか彼女の元へとたどり着く。

「レインさん?」

 見るとレインさんが毒の炎の影響だろうか、顔や体が紫に変色していた。

「レイン! 目をあけてレイン!」

「こんな結末はだめだ……こんなの認められるか……」

 女王とレインさんの姿を見ながら呟く。

「術式こうせ――があああああああああ」

 体を今まで経験した事が無い激痛が襲う。

『限界を超えて魔法を使おうとするとそうなります。それでも無理して使えば下手すれば死――』

「うるさい! 人一人救えなくて何が魔術師だ……何がウォーロックだ……奇跡ぐらい起こしてこその魔法だろうがああああああああ」

 パーシヴァルの忠告を無視して俺は体の痛みに耐えながら願いを形にする。

「術……式……構成……水……浄化」

 重ねた両手から水があふれ出てくる。

霊水パナケア

 そうして生み出した溢れる水をそのままレインさんの口元へ持っていく。

「レインさん……飲んで」

 しかしレインさんの口に水を入れても飲む気配がない。

「絶対に……死なせませんよ」

 俺は霊水を口に含むとそのままレインさんに口付けた。

「んく……んく……んく……ふはぁ」

 口移しで水を飲んだレインさんが大きく息をする。

「これは……巫女の伝承にある浄化の力……実在していたの……」

 女王が元の顔色に戻っていくレインさんを見ながらそう呟く。

「ん……タ……スク……さん」

レインさんがまだ意識ははっきりしていないはずなのに俺の名を呼んだ。

「ありがとう。ウォーロックあなたは……ウォーロック?」

「よかった……レインさん」

 レインさんを救えたことに満足しながら俺の意識は暗黒へ落ちていった。

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