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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
一章 出会いは水と共に
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魔獣

「立てますか?」

 俺はレインさんに手を差し伸べる。

「はい。大丈夫で……きゃっ」

 俺の手をとって立ち上がろうとしたレインさんがその途中でつんのめる。

「おっと。大丈夫ですか? 怪我とかしたんじゃ?」

 俺はレインさんを抱きとめて彼女を心配する。

「え……えっと。だ……大丈夫ですから!」

「あ……ちょっと……」

 彼女は俺を突き飛ばして離れようとする。

「え? あ! きゃあああ」

 そのまま突き飛ばした反動で後ろにドスンとひっくり返るレインさん。

「ちょ! レインさん大丈夫で……あ」

 俺はレインさんに駆け寄ろうとしたが立ち止まる。

「いたたた。あれ? タスクさんどうしたんですか?」

 レインさんはきょとんとした顔で俺を見る。

「なにが……」

 俺の視線の方向を察してそちらをレインさんが見ると、そこには彼女が倒れた拍子に俺に向かって大股開きになってスカートの中の純白の下着を見せ付けている状態だった。

「あ……あ……あ……きゃあああああああああああああ」

 レインさんは赤面しながら悲鳴を上げた。


 それを見ていた女王は娘の醜態よりも別のことが気になっていた。

「女王様。彼が使ったアレはいったい?」

 側近の男が女王に尋ねる。

「そんな……まさか……」

「女王様?」

「彼は【ウォーロック】なの?」

「女王様。ウォーロックとはいったい――」「女王様! 大変です!」

 側近の男が言葉の意味を尋ねようとした時エルフの男性が血相を変えて走ってくる。

「どうしたのです?」

「ま……ま……魔獣が現れました!」


「グウウウウウウウウウウウウウ」

 俺の耳に形容し難い不快な鳴き声のようなものが響く。

「なんだ……これ」

「この声は……まさか魔獣」

 隣に立つレインさんが顔を顰めながらそう口にする。

「魔獣?」

「はい、伝承によるとかつて失われた神がこの世界を破壊するために作ったとされる異形の生物だと伝わっています」

「失われた神……」

 俺はその名を聞くと不快な声が聞こえたほうを睨む。

「レインさん。俺ちょっと見てきます」

 俺はそう言って鳴き声が聞こえた方へ走り出す。

「待って! 私も行きます」

 レインさんも後ろから付いてくるようだった。


「グウウウウウウウウウウウウ」

「なんだこりゃ……」「ひどい……」

 声の聞こえるほうにたどり着いた俺とレインさんが見たものは、遠くのほうに暗い色をした炎が獣の形を取り、草木を燃やしながらゆっくりとこちらへ歩いてきている光景だった。

「あれが魔獣です。失われた神が生み出した世界の理から逸脱した獣。災厄の獣とも呼ばれているものです」

「女王……」

 先にこの場所に来ていたと思われる女王が俺に説明をしてくれた。

「女王様」

 女王の部下と思われる男の人が深刻な表情で駆け寄ってくる。

「あれがどういうものか分かったのですか?」

「はい。あれは毒性を持った炎の獣です」

「……そうですか」

「毒の炎?」

 横で聞いていた俺は意味の分からない言葉に思わず声を漏らす。

「ええ。通常ならそのような炎などありえません。ですがあれは魔獣なのです。あれを見てみなさい」

 そう言って女王は燃えている木々を指差す。

「腐ってる?」

 見ると木々が燃えながら黒く変色し腐り落ちていく。

「それでどうするんですか?」

 俺はこのままでは埒が明かないと思い尋ねる。

「……なんとか戦える者達で食い止めるしかありません」

 苦虫を噛み潰したような表情で語る女王。

「……勝算はあるんですよね?」

「…………」

 悲痛な表情で目を逸らす女王さん。

「とにかく戦える者を集めてください。そんなに数はいないでしょうが」

「……はい」

 そう言われた部下の男の人は走り去っていった。


 しばらくして戦えるエルフ達が20人ぐらい集まった頃には魔獣はすでにエルフの領域の目前まで迫ってきていた。

「これで全員ですか?」

「はい。少ないですがエルフは元々戦闘能力が高い人間は生まれにくいんです。私や母のように水魔法に秀でている者のほうが稀なんです」

 俺の問いにレインさんが申し訳なさそうに答える。

(女性は女王とレインさんしかいないのか……他の男達は皆弓を使うのか? だが炎のそのものであるアレに弓が効くのか……)

「タスクさんあなたは……」

 レインさんが真剣な顔でこちらを見てくる。

「もちろん戦いますよ。ここで関わるななんて言わないで下さいよ?」

「ありがとう。タスクさん」

「私からも礼を言います。ウォーロック」

 女王が聞き慣れない言葉を口にする。

「何ですか? うぉーろっくって?」

「あなたのような男性魔術師のことを言うんですよ。つい先程までは魔獣と同じく伝説上の存在だったんですけどね」

「え? タスクさんのあれ魔法だったんですか?」

「ええ……まぁ。でもその話は後にしましょう。来ますよ」

「グウウウウウウウウウウウ」

 目前で吼える魔獣の声はより一層禍々しさを増していた。


「散開!」

 女王の命令で弓のエルフ達は魔獣を囲むように位置取る。

「放て!」

 そのままエルフ達は全員で一斉に弓を射掛ける。

「ガァアアアアアア」

 弓を喰らった吼えた魔獣は体から小さな炎を弓を射掛けていたエルフ達に向けて放つ。

「ぎゃあああああ」「うああああああ」

 炎を浴びてしまった2人のエルフは喰らった場所が黒く変色していく。

「ちっ! レインさん」「はい!」

 俺とレインさんは倒れた2人の元に走り出す。

「ガァアアアアアア!」

 魔獣は俺たち目掛けて口から大きな火の弾を放つ。

「レインさん! 2人を頼みます! 術式構成・雷・貫通」

「分かりました! 気をつけて」

 レインさんに怪我人二人を任せて俺は火の弾に向けて魔法を放つ。

雷撃強襲サンダーアサルト!」

 放たれた雷撃は火の弾をかき消し魔獣へと命中する。

「女王! エルフの人たちを退がらせて! 被害が拡大するだけです!」

「……わかりました。皆退がりなさい! あとは私達で何とかします」

「しかし……」

 部下の男の人が悔しそうな顔で反論しようとする。

「あなた達では無駄に犠牲が増えるだけです。だから退きなさい! それと退避したら領域の皆ともしものときのために戦う準備をしておきなさい」

「……分かりました」

 そう言って部下の男の人と弓のエルフ達は、レインさんが救出した怪我人二人を連れて集落のほうに退避する。

(雷撃は直撃したが……おそらくは)

 そう考えていると雷撃の威力によって生じた土煙の中から無傷の魔獣が出てくる。

(当然無傷か……雷撃は撃ててあと3発……そのうえ攻略の糸口がない……きついぞこれは)

 俺は一旦レインさん達のところへ退避する。

「女王。何か倒す手立てはないんですか?」

「一つだけ可能性があります。伝承だと魔獣は心臓が弱点だと伝わっています」

「心臓……あれか?」

 魔獣のほうを見てみると確かに胸の中に体の炎とは違う色の赤い小さな炎が見える。

「しかしあいつの体の炎は俺の雷撃でも貫けませんでしたよ。どうするんです?」

「炎には水です。私とレインの水魔法で魔獣の心臓を撃ちます。あなたにはそのための囮をやってもらわないといけませんが……」

 女王が沈痛な顔を浮かべる。

「やりますよ。あれに勝てるならそれくらい安いもんですよ」

「ありがとう。ウォーロック」「タスクさん……」

 2人は俺の言葉に決意を固めた表情をする。

「さぁ! やりましょうか!」

 そう口にした俺は注意を引くために決死の覚悟で魔獣に突撃した。

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