出会いは水と共に
「きゃああああああああああああ」
エルフの少女が叫ぶと同時に俺の周囲の日光が遮られる。
「なにが……」
そう思って上を見上げると球体状の巨大な水の塊が俺の真上に浮かんでいた。
「これは……魔法――」「いやあああああああ」
エルフの少女は叫びながら両手を思い切り振り下ろした。
(あ! これは無理だわ……っていうかエルフって耳が尖ってるんだな……)
振ってくる水の塊の速度を見ながら俺は冷静に回避は無理だと判断し諦めの境地で別の思考を開始した。
ザッパーン!
水の塊が直撃すると同時に俺の意識は暗転した。
水浴びをしていたら突然現れた、人族の男の子に私は動揺して思い切り魔法を撃ってしまった。
「もしかして……死んでたり……」
そう思って確認すると呼吸はしているようだったのでどうやら気絶しているだけのようだった。
(でも。どうしてこんなところに人間が? どうやってあの森を抜けてきたんだろう……)
ヘルハウンドの庭になっている森の中を一人で抜けてこられるような力を持っているとはとても思えない風貌の男の子を見て私は首を傾げた。
(この人冒険者なのかな? ナイフとか持ってるみたいだし。でも変なローブも着てる……)
男性がローブを着ているのも珍しいけど、デザインも珍しいのでついつい凝視してしまう。
(人族の男の子をこんなに近くで見たの初めてだ……)
「レインいるのですか?」
後方から私の名前を呼ぶ声が聞こえたので振り返る。
「レイン。魔法の気配がしましたけど何かあった――」
「女王様。はい。人族の男が侵入しましたので魔法で気絶させたところです」
ホントは恥ずかしくて咄嗟に魔法を撃っただけだけど結果的にはそうなったのだから良いだろうという事で女王様に報告する。
「レイン……あなたね……」
女王様は私を渋い顔で見つめてくる。
(あれ? 女王様なんでそんな眼で見てくるんだろう? 私なにかまずいことしたかな……)
「いいことレイン……」
「はい。女王様」
「あなた……服ぐらい着なさい」
「え?」
首を傾けて自分の体を見てみると一糸纏わぬ姿の見慣れた私の体がそこにあった。
「きゃあああああああ」
私は赤面しながらその場に体を隠すように蹲った。
「ん……ここは……」
目覚めると俺は質素な部屋の中で寝かされていた。
(何があったんだっけか?)
起き上がりながら部屋を見回しても人がいる様子もない。
「ナイフとカバンがなくなってるな」
ベルトに収まっていたナイフはなくなり、腰掛けのカバンもどこにも見当たらなかった。
(旦那さんのお弁当……まだ食べてなかったのに……)
空腹のためこんな時にカバンに入っていたそれを思い出し、余計に腹が減る。
「……起きましたか」
入り口らしきところからカーテンのような暖簾のようなものをくぐって、ワンピースのような薄手の服を着たエルフの少女が入ってくる。
(この子は……)
そう考えながらエルフの少女を見る。
(思い出した! さっきこの子の裸を見たんだった……)
その光景を思い出し、俺は顔が赤くなっていくのを感じながら下を向いた。
「どうかしましたか?」
エルフの少女は固い表情で訊ねてくる。
「いえ……あの……すいません」
「え? あのなにが……あ」
赤面している俺の顔にエルフの少女が気が付く。
「~~~~~~~」
そして何かに思い当たり声に鳴らない声を上げている。
「…………」
俺も黙って赤面したままでしばらく時間を過ごした。
「忘れましょう。お互い何も見なかったいいですね?」
「お互いっていうか俺のほうしか見ていな――はいわかりましたお互い何も見てません」
また魔法を撃たれかねない怖い視線感じたので素直に従っておく。
「ではこれを。あなたの荷物ですよね」
そう言ってエルフの少女はカバンとナイフを俺の前に置いた。
「カバンの中を改めさせてもらいましたけど問題ありましたか?」
カバンを開けている俺にそう訊いてくる。
「いえそれは問題ないですけど……あれ?」
「……どうしました」
「あの……この中にお弁当が入ってませんでしたか?」
カバンの中を見ても見当たらないため尋ねる。
「い……いえ。知りませんけど……」
明らかに眼を泳がせて視線を逸らすエルフの少女。
「……食べました?」
「……ごめんなさい。おいしかったです」
「……そうですか」
再び気まずい沈黙を迎える。
「それでですね。あ……私はレインといいます」
何かを言おうとした途中で思い出したように自己紹介をするレインと名乗った彼女。
「タスクです。よろしくおねがいします」
「……いえ。私達はよろしくするつもりはありません」
「え?」
俺の言葉で何かのスイッチが入ったのか先程までの穏やかな感じと違い真剣な表情で俺の言葉を否定するレインに思わず声を上げる。
「……理由を聞いても?」
「はい。私達エルフは人族と関わりを持つつもりはありません。早々にこの森を立ち去ってください」
「なぜ人との関わりを避けるのですか?」
「私達エルフと人族は価値観を共にしていません。そのような者達が関わり合っても両者の間に諍いが生まれやがては戦いに発展するでしょう。私達はそれを望みません」
「ですが俺はここでやることがあるんです。今この森から立ち去るわけにはいきません」
断固とした態度でレインを見据える。
「やることってそれは――」「人族のあなたがこの森にいったい何のようなのですか?」
レインの言葉さえぎって妙齢の綺麗なエルフの女性が部屋の中に入ってくる。
「女王様……どうしてこちらに?」
レインが驚いた顔をしながら訊ねている。
「エルフの…女王……」
俺は全てを見通すような瞳で見てくる女王を見ながらゆっくりと口を開いた。
「水精の居場所を教えてください」




