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第79話 ヴィーダの奴隷事情

「俺は、そんな事望んでいないんだが……」

「納得してもらうのは難しいかもしれないが、仮に君が彼らを許して謝礼の受け取りを拒否した場合どうなると思う?」


 ――嫌な質問だな……


「……救助について虚偽の報告をしたにも関わらず、謝礼支払いの義務を免除された前例が出来るな」

「そう言う事だ。特に今回の件は、カズマ達の態度を含めかなり悪質だと判断された。君が討伐したメドウ・トロルの、死体の所有権を主張しただけでも本来大問題だ。説得されて思い直したみたいだが、その後君に対して脅しと取れる発言をしただけでなく、治療をしてくれたパーティーに礼の一言もなかったんだろう?」


 ――報告書を見て思ったが、イムランの補足もありカズマ達の所業は完全に把握されているな……


「……そうだな」

「ギルドとしても今回の件は見過ごせない。聞こえは悪いかもしれないが、彼らには他の新人冒険者達が同じ轍を踏まないための反面教師になってもらう」


 カズマ達には悪感情しか抱いていないが、奴隷に堕ちて欲しいとまでは思っていなかった。


「カズマ達が君への謝礼を支払えなかった場合、そのまま支払いが完了するまで君の元で借金奴隷として働かせる事も可能だが……君が奴隷を求めていないのであれば、奴隷商会に彼らの債権を買い取ってもらう事になる」


 ――何で、俺がこんな事で悩まなければいけないんだ……


 先程の受付嬢の件と言い、巻き込まれた側がこれ程苦悩しなければいけないのか納得できない。


 ――奴隷なんて、欲しくないが……


「奴隷商会に債権を買われた場合、彼らはどんな扱いを受けるんだ?」

「若いし冒険者を()()()()()んだ、どこかで労働力として使われるだろう」


 ――やっていた……もう過去系か。特に言及していなかったが、冒険者証は剥奪されるんだろうな……


「質問が悪かった……ひどい扱いは受けないか?」

「もしかして犯罪奴隷の様な扱いを想像しているのか? 借金奴隷は行動の自由を制限されるが、不当に扱うことは法で禁じられている。従事させられるのもまっとうな仕事だけだ。所有者には奴隷の衣食住を担保する義務があるし、しっかりと働いて借金の返済を済ませれば必ず解放される」

「そうか……」


 ――良かった……カテリナ達との扱いの違いに違和感を覚えるが、あれはマサトの人間性が捻じ曲がっていただけなのか……?


「離せ!!!!」


 会議室の外から、怒号が聞こえてくる。マルクと一緒に喧噪の方を向くと、勢いよく会議室の扉が開いた。


「カズマ、やめて!」

「お願いです、落ち着いてください!」


 屈強なギルド職員に拘束されながら暴れるカズマと、彼の事を必死に宥めている彼のパーティーが突如として現れる。


「おまえ!! おまえのせいだな!? 変身!!!!」


 会議室の奥に座っている俺に気付くと、カズマが獰猛な目つきで唾を飛ばしながら絶叫した。ブレアド平原で見た眩い光を放った後、鎧を身に纏ったカズマが乱暴にギルド職員を突き飛ばす。


 壁に衝突したギルド職員は、壁に血の跡を残しながらそのまま床に倒れ込んだ。


「なんてことするの!? ダメよ、カズマ!!」

「職員さん!? お願いだから止めてください!」

「うるさい!!」


 両腕に縋り必死に止めようとする少女達を振り払い、こちらに向かってくるカズマを迎え撃つために立ち上がる。


 ――避けたらマルクが危ないな。


「殺してやる! 食らえ――」


 ――剣を取り出す余裕も無い。


「――ファイナル――」


 右腕を大きく後ろに引いたまま、不格好な体勢で走ってきたカズマが目の前まで迫っている。


 ――こいつのせいで、悩んでたのが馬鹿らしいな。


「フィニ――うぶぉあ!!?」


 会議室に入ってから呪力を込めに込めた魔力を、全て身体強化に注ぎカズマの腹目掛けて前蹴りを放った。足が腹に突き刺さった状態で折れ曲がり停止してたカズマが、痙攣しながら数歩後ろに下がったかと思うと、鎧が消えそのまま仰向けに倒れた。


 ――鎧が消えた後、怪しい光がこちらに飛んできたように見えたが……? 今はそれどころじゃないか……


「……ギルド職員と、カズマの仲間が負傷してる。治療できる人間を……マルクさん?」

「はっ!?」


 一連の出来事に放心状態だったマルクが正気を取り戻し、騒ぎを聞きつけて会議室を覗いていた人間に大声で指示を出し始めた。


「至急会議室に医療班を呼べ!!!」





――――――――





 幸いな事にギルド職員は一命をとりとめ、カズマの仲間たちも打ち所が悪く気を失っていただけで命に別状はなかった。会議室が滅茶苦茶になってしまったため、話し合いの続きをするためギルドマスターの執務室に案内された。


「デミトリ君、君は問題に巻き込まれやすい星の元に生まれたのかもしれないな」


 マルクから事情を説明されたギルドマスターが、愉快な表情でこちらを見ている。後の話はギルドマスターに引き継いだ扱いになるのか、マルクはギルドマスターの横で無言で立っている。


 ――なんでそんなにうれしそうなんだ……?


「……否定できないな」

「あまり気にするな。大成する冒険者は、皆波乱万丈な人生を送っている」

「……俺は大成できなくても良い……平穏無事な人生を送りたい」

「手に入らないもの程望んでしまうのは、人の業だな……」


 ――勝手に手に入らないと決めつけないで欲しいんだが……

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― 新着の感想 ―
これでカズマは犯罪奴隷が確定かな?反面教師にするなら殺人未遂で晒し首だな これからも楽しみにしています
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