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第69話 ブレアド平原

「メドウ・トロル?」

「はい、何か知っていたら教えてくれると助かるんですが……」


 パティオ・ヴェルデの店主が、少し考えてから先日見せてくれた街の地図を取り出した。


「冒険者になるって言っていたね、もしかしてブレアド平原に行くのかい?」

「はい」

「あそこは冒険者に人気だからね」


 地図をカウンターの上に広げながら、店主が街の東門を指差す。


「ブレアド平原は街の東側に進んだ先にあるんだ。東門の前に冒険者向けの馬車乗り場があるから、そこで定期馬車に乗って向かう冒険者が多いかな?」

「定期馬車が出るぐらい人気なんですか?」

「かなり人気の狩場だよ! 魔獣が多くて、うちの食堂に卸してもらってるタスク・ボアのお肉なんかもブレアド平原産だね」


 カウンターに広げていた地図を仕舞いながら、店主が心配そうな表情でこちらを見る。


「ただ、美味しい狩場なのは魔物にとっても同じみたいだね。前うちに泊まっていた冒険者から聞いた話だけど、君が質問したメドウ・トロルみたいな強い魔物も出現するみたいなんだ。私も詳しくは知らないけど、体長三メートルはある化け物らしいよ」


 カイゼル髭を不安そうに弄りながら、店主が前のめりになる。


「冒険者になったばかりなんだし、無理をしちゃだめだからね?」





――――――――





 馬車に揺られながら、昨日の宿の店主との話を振り返る。あの後食堂で他の冒険者を見つけたが話しかける機会がなく、結局情報を得られないまま部屋に戻りそのまま一晩明けた。


 翌朝、色々と街でやりたい事もあったが未完了の依頼を受注したまま街の探索を続ける気にもなれず、東門で定期馬車に乗りブレアド平原に向かってしまった。


 ――先に商業区を訪れるべきだったかもな……メリシアで、ポーションを買える場所を見つけたい。


 行き当たりばったりな行動に後悔しつつ、戻ってからでもいいかとも考えている。依頼を達成するつもりもなく、今日はブレアド平原の下見をしたいだけだ。


 ――斥候をしていた時の経験から、接近してくる魔物や魔獣を警戒するのには慣れているが特定の魔物を見つけるにはどうすればいいんだろうな……


 考え事をしている途中で馬車が停車した。外を見ると草の生えていない空地に馬車が数台泊まっていて、冒険者達が天幕を立てている。


 ――なんだか、見られているような気がするな……


 馬車を降りた直後から視線を感じる。ヴィセンテの剣を腰に下げているが、防具も着てないしほぼ手ぶらの状態だ。無理もないかもしれない。


 ――聖騎士達も持っていたし、勝手にヴィーダでは収納鞄が普及していると思ってしまっていたが勘違いだったかもしれない。


 広場の冒険者達は、皆それなりの荷物を運んでいる。


「ここまでだ。毎日正午と夕方に迎えの馬車がここに来るから、乗りたかったら遅れるなよ」

「分かった」


 御者に別れを告げ、冒険者たちが屯している広場を迂回しながら平原に向けて歩き始めた所で背後から呼び止められた。


「おい」


 振り向くと背中に戦槌を携えた、熊のような見た目の大男が腕を組みながらこちらを険しい表情で睨んでいる。


「……なんだ?」

「お前、まさかそんな装備でブレアド平原に行く気じゃねぇだろうな?」

「そのつもりだが……」

「冒険者だよな? 何級だ」


 ――冒険者同士だし、普通に答えて問題ないよな?


「銅級だ」

「えっ!?」


 青天の霹靂を目撃したかのように硬直した男が、すぐに正気を取り戻し詰め寄ってくる。


「冒険者が等級を偽るのは、ギルドの規律違反だって分かって言ってんのか? 聞かなかったことにしてやるから、正直に答えろ」

「いや、本当に銅級なんだが……」


 首から下げている冒険者証を取り出して、男に見えるように差し出す。

 目を見開いた男が、ものすごい勢いで頭を下げてきた。


「申し訳ねぇ! てっきり調子に乗った新人だと思って――」

「いや、いいんだ。場違いな格好をしていた自覚はある」


 最低でも軽装革鎧を身に着けている周囲の冒険者達と比べて、明らかに浮いている。勘違いしても仕方がない。


「それに、調子に乗った新人と言うのはあながち間違いじゃない……少し、相談に乗って貰ってもいいか?」

「詫び代わりに、何でも聞いてくれ……」

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