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第67話 メリシアでの生き方

 オブレド伯爵邸を訪れ昨日と同じ門番に声を掛けた後、迎えに来てくれたロベルトに応接室まで案内された。出された紅茶を飲みながら待っていると、オブレド伯爵が到着した。


「待たせたかな?」

「いえ、到着したばかりです」


 向かいのソファに腰を掛けながら、オブレド伯爵がシャツの首元のボタンを外しながら一息つく。


「早速だけど、まずはモルテロ盗賊団の件について話そう。君と別れた後、領軍で死体見分を行ってあの死体がモルテロ盗賊団の物だと確定した。今日、討伐任務の完了を民に知らせる。君の協力に、領主として感謝している」


 深々と頭を下げた後、神妙な表情でオブレド伯爵が顔を上げる。


「本来であれば私から説明をするべきだったけど、ジゼラの方で君に色々と共有してくれたと聞いたよ。冒険者として盗賊団討伐の報酬を受け取って貰えたと言う事は、ギルドの協力を得るために冒険者として活動する理由について納得して貰えたのかな?」

「……概ね理解しているつもりです」

「そうか。聞き辛い事もあるかもしれないけど私はいつでも相談に乗るし、頼まれればジステインに伝言することできる。出来る限り、抱え込まないで欲しい」

「分かりました」


 ――全面的に信頼していないのに気づいた上で、かなり気を遣ってくれているな……


「君の今後について話す前に、もう一件モルテロ盗賊団の件で話がある」

「少女の事でしょうか?」

「その通りだ。幸いなことに、彼女の叔父夫婦と連絡がついた」


 悲しみと喜びが綯い交ぜになった複雑な表情で、オブレド伯爵が続ける。


「吉報を届けることが出来なかったのが心苦しいけど、少女をご両親と一緒に埋葬できることに感謝していたよ。私からも礼を言わせて欲しい、彼女を連れて帰って来てくれてありがとう」

「良かったです……」


 せめて、両親と共に安らかに眠りにつけることを切に願う。


「彼女の遺体については、話し合いのあとに引き渡してもらえるだろうか?」

「分かりました」

「ありがとう。とは言っても、ジゼラが色々と話してくれたおかげで私の方から共有しなくてはならないことはそう多くない」


 そう言いながら、オブレド伯爵が懐から小包を取り出してこちらに渡して来る。


「これは……?」

「当分の生活費だよ、足りなくなったらいつでも声を掛けて欲しい。本当は君をこの屋敷で預かりたいけど、開戦派のやっかみが凄くてね」

「諜報員かもしれないという……」

「そう言う類の難癖だね。君の亡命を許可したのは最終的に王家の決定なのに、開戦派は意に反してないと言い訳できるぎりぎりの所で手を変え品変えなんとか我々の足を引っ張ろうとがんばっているよ」

「ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありません」

「気にしないでくれ! 自分で言うのもなんだがメリシアは良い街だ、領主として誇りを持ってそう言える。デミトリ君には難しい事を考えず、メリシアで冒険者として普通に生活してほしい」


 ――普通に生活、か……


「ただ、オブレド伯爵家が君の後見人だと言う事も覚えていて欲しい。何か問題があればいつでも頼って欲しいし何も問題がなくても、領主邸に来てくれればいつでも歓迎する」

「ありがとうございます……」


 ――一体、どれだけの期間メリシアに滞在することになるんだろうか……


「君がドルミル村に向かいたい事は、ジステインから聞いている」


 心を読まれたような気がしてぎくりとしながら、オブレド伯爵を見る。


「ガナディアで勇者召喚に成功した噂もあるし、開戦派も沸き立っている。正直事態が何時収束するのか分からない。でも、一つ君が自由に動き回れるようになる抜け道がある」

「抜け道、ですか?」

「そう。上位冒険者になれば、君の願いが叶うよ」





――――――――





 少女の遺体の受け渡しを終え、ロベルトから馬車の手配の申し出があったが丁重に断り領主邸を後にした。領主邸の門が見えないところまで歩き、大きく息を吐く。


 ――『上位冒険者になれば、君の願いが叶うよ』って、普通はそうはならないだろう……俺の考え方が間違っているのか?


 冒険者ギルドの立ち位置が、考えれば考えるほど分からない。


 『例えば、君が青銅級の冒険者ではなく最上位の白金級の冒険者だったらギルドは君と揉め事を起こした貴族と全面戦争することも辞さないだろう』


 上位冒険者になったら、貴族でも容易に手を出せなくなることについては昨晩ギルドマスターも似たようなことを言っていた。


 各国に支部を置き、政治的中立を保ちながら冒険者という他国間を無条件で移動できる戦力を保持する組織が成り立つ理屈が思い浮かばない。過去の記憶を頼りにしようとするが、なんとなく『冒険者ギルドはそういうもの』という曖昧な知識しか思い出せない。


 ――考えても無駄だな。


 分からないので、これまた割り切ることにした。最近、色々と思考を放棄しすぎではないかと心配になるが、考えすぎていては前に進めない。


 ――本当に上位冒険者になれば自由に動き回れるようになるなら……目指して損はないはずだ。


 どの道ギルドの庇護を受けるために冒険者として実績を積む予定だったのだ。オブレド伯爵から、当分の間は冒険者としてメリシアで過ごしてほしいと言われているのだしやることは変わらない。


 ――取り敢えず、ギルドに行くか。

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― 新着の感想 ―
上位冒険者となれば、単体で大貴族達同様に軽視できかねる脅威となり、敵に回すのが面倒になるので、余程の理不尽でないなら我意を押し通せる、と言う感じでしょうか。 そして世界でもトップクラスの冒険者達ともな…
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