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第62話 冒険者登録

「ジゼラ様、デミトリ様、この後はどちらへ向かわれますか?」

「冒険者ギルドに行って、早速デミトリ君の冒険者登録をしようと思う」

「左様でございますか。それでは馬車の手配をするので少々お待ちくださいませ」


 中庭からここまで案内してくれたロベルトが、颯爽と屋敷の中へと消えていく。ギルドマスターと二人残された屋敷の玄関前で、情報を整理する。


 ――冒険者登録するのは……確定事項か。


 ヴィーダ王家が絡んでいるのであれば、異を唱えても意味はないだろう。距離を置こうと考えていた冒険者ギルドにがっつりと関わる羽目になってしまい、どうしたものかと一人考え込む。


 ――別に、冒険者登録をしても冒険者活動をしなくてはいけないわけではない。当分メリシアを離れられそうにないが、明日オブレド伯爵に身の振り方について相談するのも手かもしれない。


 今後の予定について一人悶々と考えていると、一台の豪華な馬車が屋敷の前に停車する。いつの間にか横に立っていたロベルトが、お辞儀をしながら声を掛けてきた。


「主人からの言伝です。『昼過ぎにと言っていたが、可能であれば正午に来てもらえると助かる』との事です。デミトリ様の訪問を、使用人一同歓お待ちしております」

「分かりました。明日の正午にお伺いします」


 ロベルトと軽く明日について言葉を交わしてから、馬車の屋形に乗り込んだ。先に中に入っていたギルドマスターと向かい合わせの席につく。


 なにやらにやけた表情でこちらを見ているギルドマスターを無視して、馬車の窓に視線を移す。走り出した馬車が公園に到達すると、公園の外周をぐるりと回り南門方面の大通り沿いを進んでいく。


「一人でモルテロ盗賊団を討つなんて、中々の腕前だな」


 壁に肘を掛けながら、頭を手に乗せて寛ぐギルドマスターが話しかけてくる。


「……運が良かっただけです」

「運が良かっただけか! 懸賞金目当てで血眼になってモルテロ盗賊団を探していた、メリシアの冒険者達が聞いたら血相を変えるだろうな」


 ――呪力の件もあるしあまり詮索をして欲しくはないんだが……


 返答せず、何やら上機嫌のギルドマスターから改めて視線を窓の外に戻す。耐え難い沈黙の続いた馬車の旅は、冒険者ギルド前に到着したことによりようやく終わりを迎えた。


「ありがとうございました」


 馬車を降り御者に挨拶をすると、御者が微笑みながら頷くのと同時に馬車が走り出していく。


「付いてきてくれ」


 ギルドマスターの後を追い踏み入れた冒険者ギルドの内装は、概ね想像通りだった。建物の奥に備え付けてある受付の手前には椅子とテーブルが並び、壁沿いには酒場のカウンターのような設備の裏で料理人たちが忙しなく行き来している。


 受付まで歩くと、受付嬢の一人にギルドマスターが何やら耳打ちした。


「私の執務室に行こう」


 有無を言わさぬギルドマスターの後に続き受付横の階段を上ったあと、重厚な鉄の扉の前に辿り着いた。軽々と扉を開いたギルドマスターが、部屋の奥の執務机につく。


「適当に座ってくれ」


 執務机の手前に乱雑に配置された椅子の内、執務机に一番近い物を選び座る。しばらくすると、ギルドマスターが先程声を掛けていた受付嬢がぱんぱんに張り詰めた袋を運びながら入室してきた。


「ふむ、問題なさそうだな。ありがとう、下がっていいぞ」


 袋の中身と袋と一緒に手渡された鉄製の板を吟味してからギルドマスターが退出の許可を出すと、受付嬢が一礼してから部屋を去っていく。


「これが君の冒険者証だ。改めて、冒険者ギルドへようこそデミトリ君」

「……てっきり、これから登録する物だと思っていたんですが」


 あまりの手際の良さに驚きつつ、素直に喜べない。冒険者証を受け取らずに質問だけ返した俺を見ながら、ギルドマスターは冒険者証を持ったまま先程受付嬢が持ってきた袋に手を伸ばす。


「本来であれば簡単な手続きや研修が必要だが、今回は特別だ。そしてこれが今回の報酬だ、受け取ってくれ」


 ギルドマスターが執務机の上に置いた袋を、冒険者証と共にこちらに押し寄せる。


「報酬……?」

「モルテロ盗賊団に懸賞金が掛かっていたのは知っているだろう? 冒険者ギルドの協力を得るために、ビエルはギルドにも討伐の依頼を出していた」

「懸賞金が掛かっているのであれば、依頼をする必要はないのでは……」

「ギルドを介さずに盗賊団を倒して報酬を受け取った場合、それは冒険者ギルドでの実績にならないからな。冒険者の協力を得たい場合は、二度手間になるがギルドでも依頼を出すのが通例だ」

「そういうことですか……であれば、冒険者になる前にやったことですし報酬はオブレド伯爵様から受け取ろうと思います……」


 袋をギルドマスターの方へと押し戻そうとしたが、反対側からギルドマスターが力強く袋を押し戻す。


「デミトリ君。君は自覚がなかったかもしれないが王家に依頼された時点で冒険者登録は済んでいた」

「そうだとしても、ギルドを介さずにオブレド伯爵様から報酬を受け取ることも可能ですよね?」

「……腹を割って話そう。まずはその口調を直してくれ、セイジとはもっと砕けた話し方をしていただろう?」

「……!?」


 ――何で知っているんだ!?

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