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第61話 モルテロ盗賊団

「君の事はオブレド伯爵家が責任をもって守るから安心してくれ!」


 ――良い人ではありそうなんだが……


「すみません、色々と情報が多すぎて上手く処理できておらず……」

「私もアイカーから連絡を貰った時びっくりしたよ、困惑するのも無理はない」

「ビエル、私の用は済んだから後は任せてもいいか?」

「待ってくれ!」


 オブレド伯爵が慌ててギルドマスターの手を取り椅子から立ち上がろうとしていたのを阻止する。


「デミトリ君に冒険者登録の手順の説明もあるし……盗賊団の件も話したい」

「冒険者登録はデミトリ君が冒険者ギルドに来てくれればそれで終わりだ。気になっているのは、盗賊団の件だろう」


 ぎくりとした顔をして固まってしまったオブレド伯爵に、ギルドマスターが詰め寄る。


「そもそも懸賞金が掛けられていてギルドにも依頼が張り出されている。これ以上冒険者ギルド側でできることはない」

「そんなことを言わないでくれ、やつらを討伐すると約束したんだ……」

「無責任に民の望むことだけを言い続けたら、口だけ領主になるぞ」

「すまない……」


 ――また二人の世界に入ってしまった……


「あの……」

「すまないデミトリ君、見苦しいところを見せてしまった」


 オブレド伯爵が儚げに微笑む。


「やはり、私に領主は荷が重かったのかもしれない」

「そんなことは、言ってないだろう」

「ジゼラ……」


 ギルドマスターがオブレド伯爵の顔に手をやさしく添える。


 ――なんでこんなに簡単に二人の世界に入れるんだ。


 使用人の方に振り向くと、壁際で影に徹している。目が合うと、静かに首を振り始めた。


「ビエル……」

「ジゼラ……」

「モルテロ盗賊団の死体を持ってます!!」


 二人が醸し出す雰囲気に耐えきれず、言葉を選ばずに叫んでしまった事を若干後悔する。先程まで見つめあっていたオブレド伯爵とギルドマスターが目を見開いてこちらを凝視している。


「デミトリ君。今、何て言った?」

「盗賊団は、九名いますよね?」

「襲われた被害者の目撃情報はまばらだが、大体その人数のはずだ」

「ヴァシアの森からメリシアに向かう途中に遭遇して、倒しました。証拠になる死体も持っています」

「何だって!?」


 ソファから立ち上がったオブレド伯爵に肩を掴まれながら、前後に揺らされる。


「本当か!? それに死体まで持っているのか!?」

「ビエル! 落ち着け!」


 ギルドマスターがオブレド伯爵を引き剥がしてくれたおかげで解放された。興奮した様子のオブレド伯爵に引き気味になりながら、アリッツの収納鞄を指差す。


「今、お見せする事も出来ますが――」

「中庭に行こう!!」





――――――――





「っ!?」

「これは……」


 ――死体の状態を考えていなかった……


 マルテロと思われるミイラ化した死体と、呪弾によって引き裂かれたばらばらの死体。複数人の首と胴体が繋がっていない死体を見ながらオブレド伯爵は息を呑み、ギルドマスターが顔を引きつらせている。


 居た堪れない空気だったが、確認しなければいけないことがあったので意を決してオブレド伯爵に話しかけた。


「オブレド伯爵様」

「あ、ああ?」

「最近、盗賊に襲われた馬車に親子連れの乗客が乗っていませんでしたか?」

「……討伐任務に出る直前に襲われた馬車の乗客名簿に、子連れの家族が居た……残念ながら少女は消息不明で、両親共に死亡が確認されたよ」

「モルテロ盗賊団と交戦したきっかけは、盗賊が少女にしたことについて話しているのが聞こえて、こいつらは少女の遺体を……」

「分かった、それ以上言わなくても良い。少女も、連れて帰って来てくれたんだね?」

「はい……」

「ありがとう、オブレド伯爵領を代表して君の勇気ある行動に感謝する」


 ――領民を思う気持ちは、本当なんだな。


 ジステインが後を任せた相手に対して、少し疑いすぎていたのかもしれない。呪力を扱い始めてから、どうしても思考が最悪の方向に突っ走ってしまう傾向にある。


 ――呪力の件は、出来れば説明するのを避けたいが……


「少し死体の状態が特殊だけど……手配書の姿描と一致している、モルテロで間違いない。他の盗賊達の装備も目撃情報と一致している。取り敢えず、領軍の方で死体を引き取らせてもらってもいいかな?」

「はい、大丈夫です」

「少女の遺体は、ご両親は存命じゃないけど親族に連絡がつかないか確認する。少しの間、預かっていてもらってもいいかな?」

「分かりました、それではこちらもお渡しします」


 ベルトに固定していたアリッツの収納鞄を外し、オブレド伯爵に手渡す。


「これは?」

「ジステイン様から聞いているかもしれませんが、ヴァシアの森で潜伏していた時に襲ってきた光神教聖騎士団の持ち物と……」

「分かった、皆まで言わなくていいよ」


 ギルドマスターが興味津々な様子でこちらを覗いているが、オブレド伯爵は受け取った収納鞄を持ってモルテロ盗賊団の死体を回収し始めた。中庭が綺麗になると、凛々しい表情でオブレド伯爵がギルドマスターに話しかける。


「ジゼラ、私はこれから盗賊団関連で諸々対応しないといけない。後は任せてもいい?」

「私の事を引き留めておいて現金な奴だな。仕方がない。任されたよ」

「恩に着るよ。デミトリ君、明日の昼過ぎにまた屋敷を訪ねてくれないかな?」

「分かりました」

「ありがとう。それではロベルトに二人を見送るよう伝えてくるから少し待っていてくれ! 明日また会おう!」


 屋敷の方へと駆けだしたオブレド伯爵の背中を目で追っていると、横から話しかけられた。


「冒険者ギルドでは活躍できそうだな、デミトリ君」


 なんだか良からぬことを考えていそうなギルドマスターにうんざりしながら、小さく息を吐く。


 ――ギルドマスターが絡まなければ、オブレド伯爵とも付き合いやすいかもしれない。

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― 新着の感想 ―
盗賊を討伐した対価、しっかり貰わないとね。
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