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第54話 追放の真相

「デニス殿は、ギルド周辺で見かけたことがないが……街に来てまだ日が浅いのだろうか?」

「メリシアには到着したばかりで、今日初めて繁華街を訪れました」

「そうか……あの場に居合わせていたので、セイジが元々我々のパーティーに所属していたことは理解していると思う」

「追放されていたので、そうだろうなとは思いましたが……」


 追放という単語を聞いた瞬間、マルコスの顔が苦虫を噛み潰したように歪む。どんよりとした空気に耐えかねたのか、イラティがおもむろに立ち上がる。


「準備が出来たみたい……みんなのお食事持ってくる」

「ずる―― 一人じゃ大変でしょ! 手伝うよ」


 慌てて立ち上がったエミリオがイラティに付いていき、黙りこくってしまったマルコスと何かに静かに怒っている様子のジェニファーだけが残った。


「デニスさん」

「はい」


 ジェニファーから声を掛けられ、彼女の方に向く。ただ静かにそこに座っているだけなのに、かなりの圧を感じるのはなぜだろうか。


 ――魔力の揺らぎは感じないが……水面下で暴れている魔力が今にでも爆発しそうな雰囲気だな……


「冒険者についてどれぐらい知っているか聞いてもいいかしら」

「……正直、冒険者ギルドに所属して依頼をこなしている以上の事は分からないです」

「その認識で正しいけど、少し補足するわね」


 ジェニファーが首元からローブに手を突っ込み、首に下げていたであろう鉄製の小さな板を取り出す。


「これは冒険者証。ギルドカードなんて呼ばれてたりするけど冒険者として登録した人間は全員持ってるわ」


 ――ヴィセンテ達の遺体にはそんなものなかったが……マサトが取り上げていたのか?


 嫌な想像をしている自分をよそに、ジェニファーが話し続ける。


「依頼の受注や成功報酬の受け取りをする時に提示する必要があったり、身分証にもなるの。凄く大切なものだから、紛失した場合再発行は可能だけどかなりお金が掛かるわ」

「なるほど……?」

「ただ、ギルドに冒険者証剥奪された場合二度と冒険者として働けなくなるわ。再発行することも、冒険者として再登録することも当然無理」


 淡々と説明を続けていたジェニファーの声に怒気がこもる。


「犯罪に手を染めたり、ギルドの規律に違反するようなクズでもない限り冒険者証は剥奪されないの。それを踏まえてマルコスの話を聞いてあげて」

「ジェニファー……すまない。補足してくれてありがとう」


 憔悴しきった様子のマルコスが、どう話し出そうか葛藤している後方で両手に料理を持ったエミリオとイラティがそわそわしながらこちらの様子を伺っているのが見える。


 ――そんなに居合わせたくない話なのだろうか……


「セイジをトワイライトダスクから追放したのは……ジェニファーが説明した冒険者証剥奪に至る一つ目の理由が原因だ」


 重い口を開き、マルコスが説明を始めた。


「俺たちは元々四人パーティーで、メリシアを中心に活動している。ある日、セイジがギルドで他の冒険者たちと揉めている時に仲裁したのをきっかけに彼と知り合った」


 マルコスが固く握った拳から、ミシミシと嫌な音が聞こえてくる。


「経緯は割愛するが……俺たちは彼をポーターとして雇う事になった」

「ポーター……?」

「すまない、冒険者でなければ聞き慣れないかもしれないな。物資の運搬や斥候を含む旅の補助を担う専門職だ。長期の依頼をこなす上位冒険者なら、パーティーの命綱と言っても過言ではない重要な役割だ」


 待ちきれなかったのか、いつの間にかイラティとエミリオが隣で席についている。


「トワイライトダスクはまだ上位冒険者じゃない。ポーターを必要とするような依頼は受けていない上、十分な報酬も支払えないとセイジには伝えていた。それでも、ただ働き同然でいいから経験を積ませて欲しいと頼み込まれてしまってな……」


 ――経験を積むためには、いい方法なのか? ただ働きだと生活費はどうしていたんだ?


「最初は問題なかった。いや、問題なかったように見えただけだろう。時間が経つにつれ、全員確かな違和感を感じ始めた」

「財布が軽くなってました」

「下着が……なくなった」

「杖の装飾が弄られてたわね」


 ――嘘だろ……


 ジェニファー達の言ってることが本当なら、セイジは仲間から盗みを働いていたことになる。


「一つ一つの出来事は勘違いで済むかもしれないが……セイジを雇ってから短期間で頻発し過ぎていた。ポーターを信頼して荷物を預けられないとなると、命に関わる可能性がある。パーティーのリーダーとして放置するわけにもいかず、彼と話し合ったが知らぬ存ぜぬを貫き通した……」


 ――状況証拠的に、セイジが犯人なのはほぼ確実だが……


「依頼中に彼と話したのが間違いだった……」

「違う……私達がマルコスに打ち明けたのが依頼中だっただけ」

「僕も、みんなと話すまでは自分の勘違いだと思ってました」

「あれはマルコスのせいじゃないわよ!」


 全員が一斉にマルコスを慰め出すが、それを片手で制止ながらマルコスが話を続ける。


「セイジと話した後、依頼を中断してでもすぐに街に引き返すべきだった……あれは、俺の判断ミスだ」


 納得のいかない様子のトワイライトダスクの面々から視線を外し、マルコスがこちらに向き直す。


「街に戻り次第改めて話し合おうと約束し、野営地で食事を取った直後に異変が発生した。急にセイジ以外、体の自由が効かなくなった」

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