第483話 ボルデのお土産
「大人しく待っていて偉いぞ」
「へへ」
冒険者ギルドを出て、入口の横で待ってくれていたアイリスとカミールに声を掛ける。
「アイリスを見守っていてくれてありがとう」
「どういたしまして!」
まだ冒険者ギルド周辺の一部の住民達から悪意のある視線を感じるが、心なしか以前よりはましになった気がする。
時が全てを解決するとは言えないが……幽氷の悪鬼の襲来から時間が経ち、町の住民達も少しだけ落ち着きを取り戻し始めているのかもしれない。
「依頼の完了報告をされてたんですよね? もしかして新しい依頼を請けられました?」
「いや、ヴァネッサ達がボルデに帰還するまで新たに依頼は請けないつもりだ」
ヴァネッサとセレーナは森で俺と別れた後、ボルデに帰還してそのまま新たな依頼を受注したらしい。
ナタリアの部屋に籠っていたシエルもその依頼に付いて行ったらしく、今俺が依頼を請けてしまうとまた彼女達と入れ違いになってしまう可能性が高い。
「分かりました! ルークがリーゼに伝言を届けてるので、依頼の状況次第ですけど数日中には戻ってくると思います」
「そうか。それじゃあ、数日の間ボルデで大人しくしていようか」
「おとなしくする!」
「そんなに張り切らなくても大丈夫だぞ」
元気よく返事したアイリスを見て、カミールも苦笑する。
本当はアイリスの為にこの余暇を利用して色々と準備をしたい所だが、得に服に関しては女性物を揃えるのが俺には荷が重い……。
服と女性が必要な日用品の調達も含めてヴァネッサ達が帰ってきた後に相談しようと思うが、取り敢えず読み書きを教えるための本と、俺が獣人達に渡した着替えの補充だけでも済ませておきたい。
「デミトリさん達はこのまま街を散策される感じでしょうか?」
「その予定だ。少し買い物をして、昼過ぎには邸宅に戻るつもりだ」
「それじゃあ、僕は先にヴィラロボス辺境伯邸に帰りますね!」
万が一依頼を終えた他の冒険者と鉢合わせて、コボルドの素材が納品される現場にアイリスが居合わせたら大変なことになると思い、無理を言ってカミールに付いて来てもらったが……。
「わざわざ付き合って貰って悪かった」
「僕も丁度街に出てみたいと思ってたので気にしないでください!」
このままとんぼ返りさせてしまうのは流石に申し訳ないな。
俺は立場の割にかなり行動の自由が許されているが、カミールだけでなく多くの王家の影の人間はヴィラロボス辺境伯邸に缶詰の状態だ。
「もし予定があればそちらを優先して貰って構わないが、良かったら一緒に街を回らないか?」
「え!?」
「カミールだけでなく、王家の影の人間のほとんどはずっと邸宅で待機しているだろう? 差し入れを選ぶのに付き合って貰えると嬉しい」
「差し入れ??」
この世界ではそういった文化が無いのか……。
「街に出られてないから、皆の代わりにボルデの土産品を買おうと思っているんだ。今の所土産の候補が市場で薦められた酒位しかないんだが、好みの問題もあるだろう? 選ぶのを手伝って貰えると助かる」
「……」
口元を手で隠しながらカミールが考えこんでしまったが、やはり上長に報告せず急に予定を変更するのは駄目なのだろうか?
「無理強いはしたくない。難しければ断ってくれても構わないぞ?」
「いえ、デミトリさんの補助も僕の任務の範囲内なので大丈夫なはず、です? お土産を選ぶお手伝いって点だけ、少し引っ掛かりそうだと思って――」
そんな穿った捉え方をされないと思いたいが、確かに端から見ればさぼる口実のようにしか聞こえないかもしれないな。
「そうか、それじゃあカミール! 俺とアイリスの二人だけでは街中で襲われたら不安だから護衛して欲しい」
「街は安全ですし、僕はデミトリさんよりも弱いですよ!? ……分かってて言ってますよね!?」
「理由としてはそれで十分だろう?」
「そうですけど……分かりました!」
観念したように首を振っているが、承諾の返事をしてくれたカミールとアイリスを連れて商業区に向かって歩き出す。
まずはアイリスの本と俺の服を買ってから、差し入れの品を市場で吟味して軽く昼食を取ってから邸宅に戻るのが良さそうだ。
頭の中で昨日アイリスと一緒に通り過ぎた市場の位置と商業区を思い浮かべながら、最適な経路を考えているとふいにアイリスの声が聞こえて来た。
「かみーるはよわいの?」
「アイリス……俺も手合わせした事はないが、カミールは王家の影に所属している上に魔法も複数同時に扱える。相当強い部類に入ると思うぞ」
「じゃあすごくつよいの??」
「ちょ、ちょっと!? 大袈裟に言わないでください、僕は普通位です!?」
「ふつう……?」
慌てて訂正を始めたカミールを見つめながらアイリスが困惑の表情を浮かべる。確かに、普通位と言われても何を基準にしているのか分かり辛いな。
「そもそもソロの冒険者で金級に到達してるデミトリさんと僕を比べたらだめですよ」
「等級が強さの指標の全てとは限らないだろう」
「デミトリさん……推奨討伐等級が白銀級のパーティーに指定されてるワイバーンを、調査依頼のついでにソロで狩ってしまってる時点で、『俺は金級だけど過小評価されてる』って言ってる様にしか聞こえませんよ?」
「な!? そんなつもりは――」
「無いのは分かってます。だけど、過度な謙遜は嫌味に捉えられるかもしれません。もう少しご自身の実力を正確に把握した方が絶対に良いです!」
……リカルドにも似たような事を言われたな。




