第481話 一件落着?
「ほら、ちゃんと戻って来ただろう?」
「……! おそかったよ?」
「ぐっ……すまない。会食の後少し話す必要があって長引いてしまった」
音も無くアイリスに背後を取られ、背骨を折られそうな勢いでしがみ付かれたので慌てて身体強化を掛ける。
「二人共、アイリスの傍に居てくれてありがとう。助かった」
「礼には及ばない。少しは仲良くなれたと思うし、アイリスにとってもいい経験になったはずだ」
「……」
アイリスの反応を待っていると、俺の背から顔を覗かせながらカミールの方を見て何やら不穏な事を呟き始めた。
「にるがおしえてくれたあそびで、かみーるがアイリスにいじわるした……」
「ちょ!? デミトリさんも変に反応しないでください、そんな事するはずないじゃないですか⁉」
「俺は別に――」
「それで反応していないと言うのは無理があるぞ? それ程強力な魔力の揺らぎに当てられたら並の人間は卒倒する」
「大袈裟だろう」
確かに一瞬だけ魔力が揺らいだが、カミールがそんな事をするはずがないとすぐに収めたはずだ。
「一応カミールの名誉のために言うが、至って普通に遊んでいた……初心者相手に容赦が無さ過ぎた面は否定できないが」
「だって、手札が揃ったら仕方がないじゃないですか……!」
「懸札で遊んでいたのか」
そりの端に設置された簡易的なテーブルの上に、俺が戻る前まで遊んでいた形跡が残る懸札の束が置かれていた。カミールの席に置かれた手札は……俺もこの世界の遊戯に詳しくないので何とも言えないが、絵柄と数字が揃いに揃っているので相当強い役に違いない。
対称的に、苛立ちから握り潰してしまったのかは分からないが、ぐちゃぐちゃになってしまったアイリスの手札は一切揃っていない。
「練習すればカミールにも勝てるようになるぞ?」
「ほんとう?」
「ああ、本当だ」
「れんしゅうする!!」
俺一人だったら、アイリスと懸札で遊ぶという発想は出てこなかった……改めてニルとカミールに感謝しなければいけないな。
勝ち負けに拘っているのか、純粋に懸札で遊ぶのが楽しいと思ったのかはまだ定かではないが……アイリスが色々と経験して彼女の世界が広がるのは、懸札で遊ぶという些細な出来事でも彼女の糧になるだろう。
「会食はつつがなく終わったのか?」
「ああ。エリック殿下から伝言を預かっているんだが、ヴァネッサとセレーナに連絡したいから後でニルに部屋まで来て欲しいと言っていた」
「話してくれたのか……恩に着る。我々も見守るつもりだったが、これ以上拗れてしまったら色々と支障がでそうだった」
心底安堵した様子のニルが短く息を吐いた後、カミールの方へと向き直る。
「時間は指定されていない物の、今日はもう遅い。あまりお待たせしてしまうのは良くないから私はこのままエリック殿下の客室へ向かう。後はカミールに任せてもいいか?」
「はい!」
「頼んだぞ。それでは失礼する。またな、アイリス」
「うん! またね」
俺達の会話を静かに聞いていたアイリスが、去り際にニルに声を掛けられて声が弾む。
ああいった細かい気遣いは俺が特に苦手とする所だ。今度、気を付けた方が良い事について相談してみるのも手かもしれないな……。
「それでは、アイリスさんをお部屋に案内しますね!」
「おへや……??」
「ヴァネッサさんとセレーナさんが、ナタリア様のお部屋に泊まり始めたのでそりに丁度空き室が出来ました。そちらをアイリスさんに使って頂こうと思います」
「……?」
今更だがアムール王国まで呼び出されてそのまま帯同してくれているが、ニルは大分長期間奥方であるアロアとお子さんと過ごせていないな……俺のボルデでの滞在が延びた事によって、王家の影も王都への帰還が遅れるのであれば申し訳ない。
「ヴィラロボス辺境伯も、本当はデミトリさん達の事も館に招きたいと考えているはずですが……色々と入れ違いになってしまっているので、取り敢えずの処置になりますが――」
「でみとりといっしょのへやじゃないの?」
「ぐっ!?」
考え事をしている途中、急にアイリスの腕に力が入り肺から酸素が無理やり押し出される。
「いっしょじゃないとやだよ?」
「っ……すまない、何の話をしていたんだ?」
「あの、アイリスさんをそりの空き部屋に案内しようと――」
「色々と、事情があってアイリスは一人だと寝付けないんだ。しばらくは俺の部屋で泊まらせて欲しい」
「えっと、デミトリさんがそう言うなら……」
全然大丈夫だとは思っていなさそうにこちらを伺うカミールを不思議に思いながら、身体強化の強度を上げて息を整えてから話を続ける。
「なにか心配な事でもあるのか?」
「あの……ヴァネッサさんは大丈夫なんですか?」
「……??」
なぜここでヴァネッサが出て来るんだ??
「俺がアイリスを保護した経緯はヴァネッサに説明済みだから、問題ないぞ?」
「そ、そうでしたか! だったら、大丈夫ですね?」




