第478話 希少鉱石
「現状課題が山積みの状態です。正直な所、私達の代で全て解決できるかどうかすら定かではありません」
「……ある程度想像が付くが、そこまでなのか?」
「なんで僕よりも先にデミトリの方が察し付いてるの……」
少しの間考えながら手に持った酒を飲んだ後、エリック殿下がケイレブに問い掛ける。
「……そんなに財政状況が厳しいの?」
「領主として恥ずかしい限りです。今日明日にでも破綻するという程危機的な状況ではありませんが、何も変わらなければ我が領は緩やかに衰退していくのは必須でしょう」
元々ヴィラロボス辺境伯領は食料の産出に向いておらず、特筆すべき産業もないと聞いていた。ケイレブの声色は少しだけ不安を帯びていたが完全に諦めきっている印象は受けなかったので、彼の言う通り今すぐに財政が破綻する訳ではなさそうだが……。
「長年国境の警備に加えて幽氷の悪鬼を食い止めて来た功績もさることながら、アムール王国での一件を解決に導いたナタリアの功績を讃えて、ヴィラロボス辺境伯家は陞爵します」
そういえばそんな形で着地する様に対外的に報告するとアムール王国で聞いたのを思い出す。
「ヴィーダ王国としても国に報いた貴族家を見放すつもりはないので、引き続き支援は惜しむつもりはありませんが……セヴィラ侯爵家の加盟によって状況がかなり変わります」
「国境線の変化によってセヴィラ侯爵家が国境警備を担う都合上、そちらへの支援が手厚くなるのか?」
「いえ、当分の間は純粋にセヴィラ侯爵領への支援とヴィラロボス辺境伯領への支援で王家の負担が倍増する予定です」
それは……。
「……支援額の規模が分からないから何とも言えないが、幾ら王家と言えど相当な負担じゃないか?」
「ええ。とは言え新しくヴィーダ王国に加盟したセヴィラ侯爵家がゆくゆくはセヴィラ辺境伯家となる以上、円滑に王国の一員と成れるように補助する必要があります」
「国境警備を今後セヴィラ侯爵家が担うなら、少しずつヴィラロボス辺境伯領軍の軍縮を進めれば負担が減らないかな?」
「エリック殿下、それはもう少し未来の話になります」
納得いかない様子で首を傾げたエリック殿下にリカルドが優しく説明する。
「ヴィーダ王国に加盟して間もないセヴィラ侯爵家に全幅の信頼を寄せて、ヴィラロボス辺境伯領の軍縮を命じたら貴族家からの反発は免れないでしょう?」
「あー……」
「それに現在領軍の兵士として雇用している人員の、再雇用先の準備が整っていない内に軍縮を進めたら領民への負担も甚大です」
貴族の世界は本当に色々と厄介だな……ゆくゆくは軍縮を進めるにしても、当分は現状維持を強いられると言う事か。
「となると、言っていた通りかなり厳しい状況だな……」
「セヴィラ侯爵領もヴィラロボス辺境伯領と似て、アムール王家の支援に頼っていた所がありますから……まずは二つの領の財政の改善に手を付けたいのですが――」
「言い方は悪いが支援金込みでもギリギリの状態で、事業開発などに回せる予算が限られているのか」
「ご明察です。若輩者ながら色々と案はあるものの、いかんせん資本金が無いと着手が難しい物ばかりで……」
資本金、か……。
「……ちなみに、進めたい案はどんなものがあるんだ?」
「主だって進めたいのは三案です。一つ目は寒冷地でしか入手できない貴重な薬草の研究と、栽培方法の確立です。薬師ギルドとの連携が必要になりますが、幽氷の悪鬼が去った今ヒエロ山の探索も過去に比べたら容易になっているはずです」
以前依頼で採取したクリク草のような薬草か……確かに特定の気候でしか手に入らない薬草を安定的に供給できるようになったら良い資金源になりそうだ。
ただ、研究が実って人の手で貴重な薬草の栽培が可能になるのは確実じゃない。投資した額を回収できずにそのまま失ってしまう危険性がある分、一種の賭けになってしまうな。
「二つ目は林業と木製家具の輸出業の拡大です」
「林業と家具……もしかしてあの綺麗な赤い木材の事か?」
エリック殿下が泊まっている客室で見た椅子の事を思い出しながらそう聞くと、嬉しそうにケイレブが応える。
「ヒエロ山近辺に生えているセコーヤの木は自領で唯一と言っても良い特産品なんだ」
「色合いの美しさだけでなく、ヴィラロボス産の家具は買ったら生涯壊れないと昔から評判なので、セコーヤの木の安定供給のために林業に今後力を入れて家具の輸出量を増やしていきたいですね」
こちらの案は、先程の案よりも堅実だがその分利益率が低そうだな……本当に家具が頑丈で壊れないなら継続して購入はされないだろう。素人目線での批評になってしまうが領を支えるような財源にするなら、何か一工夫を加えるか……むしろ家具ではなく建築素材としてのセコーヤの輸出に力を入れた方が良さそうだ。
「三つ目の案は希少鉱石の採掘計画です」
「「希少鉱石??」」
他の二つの案と違い想像外だった為思わずエリック殿下と声が重なる。
「氷贋鉱と呼ばれる、金属に似た性質を持ちながら氷のように透き通った鉱石がヒエロ山に眠っています」
説明を続けるリカルドの横で、ケイレブが胸元からまるで氷で創られたように見えるペンダントを取り出す。
「こちらは代々ヴィラロボス辺境伯家当主が受け継ぐペンダントで、氷に見える部分は氷贋鉱で出来ています。ヒエロ山に幽氷の悪鬼が住み着く以前は、毎年採掘に成功していたみたいですが……ここ数百年は正式には採掘されていません」




