第476話 会食
エリック殿下の客室で待っていると窓から差し込む夕日が徐々に弱まっていき、半刻が過ぎた頃には夜の帳が完全に降りきっていた。
予告通り客室を訪れた使用人が再び客室の扉を叩き、先程と同じようにイバイが対応に動く。
「ヴィラロボス辺境伯夫妻のご準備が終わったようです」
「それじゃ行こう、デミトリ! 安全だからあんまり考え過ぎないで」
「あ、ああ」
「収納鞄は私がお持ちします。手に届く所にあると分かっていれば安心するでしょう?」
「イバイ殿……すまない、助かる」
預けた収納鞄をイバイが懐に仕舞うのを見届けてから客室を発ち、使用人に案内されながらヴィラロボス辺境伯邸の食堂に向かう。
ずっとそりで寝泊まりをしていた為、今まで外からしか館を確認する機会が無かったが……露出した石畳の廊下、装飾が施されておらず絵画の一つも飾られていない壁に、視界を確保するために最低限必要の灯を確保できる間隔で設置された灯台。
一切の贅を尽くさず、質実剛健を体現している建築はボルデでは珍しくない。それにしても、領主の邸宅ですらここまで無駄を削ぎ落しているのはかなり特殊な例だろう。
「到着致しました」
先導していた使用人が廊下の途中にある扉に手を掛けゆっくりと開きながら、俺達に中に入るように促してきたのでエリック殿下、俺、イバイの順で扉を潜る。
縦長に広い食堂に踏み入り最初に気付いたのは天井の高さだった。頭上にぽかんと空いた開けた空間から視線を外して部屋を見渡すと、先程の廊下と同じように装飾らしい装飾がほとんど見当たらない。
そんな飾り気のない部屋の中央に据えられた長いダイニングテーブルの先に居たナタリアとリカルド、そしてヴィラロボス辺境伯夫妻と思われる二人組が会話を中断して立ち上がる。
「ちょっと遅れちゃったかな?」
「とんでもございません! むしろ我々の準備でお待たせしてしまい恐縮です」
ナタリアと同じ茶の長髪を緩く縛り肩に掛け、緑色の瞳を輝かせ人好きのする笑顔を浮かべた壮年の男性が大袈裟に身振り手振りを駆使しながら話し出す。
「立ち話もなんですし、どうぞお座り下さい!」
「……あなた、落ち着いて!」
ヴィラロボス辺境伯の横に立ち、これまたナタリアと同じ髪色と瞳の色をした女性が静かに辺境伯を窘めているが……ナタリアは彼女似なのだろう、年齢の違いはあるが顔つきが瓜二つだ。
「そんなに固い事を言わないでくれバーバラ! 滅死の魔術士殿の話も早く聞きたいし、早く座りましょう!」
俺に……??
「夫がすみません」
「気にしてないから大丈夫だよ、それじゃあ座ろっか?」
「勇者殿と一緒にあの憎き幽氷の悪鬼を屠った話を、本人から聞ける機会なんて中々ないじゃないか?」
「お父様……落ち着いて……」




