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第474話 拗れた原因

「ヒエロ山にデミトリが残るって決めた時、ヴァネッサとセレーナとちょっと……変な感じになってたよね?」

「あ、ああ……まさかそれが原因で何か問題があったのか!? すまな――」

「あー謝らないで! そういう訳じゃないから」


 個人間の問題とばかり思っていたが、エリック殿下に心配だけでなく迷惑を掛けたと思い謝罪しようとしたが言葉を遮られてしまう。


「今回の件は、その、完全に僕の対応が悪くて……」

「そうなのか……? 念のため共有しておくが、ヴァネッサとセレーナには埋め合わせをする必要があるが一応謝罪は受け取って貰えた。もう蟠りはないから心配しないでくれ」

「「……え?」」


 エリック殿下の驚愕にイバイの声が重なり思わず視線を彼の方に向ける。会話に参加していない時はいつも殿下の影に徹しているのに――。


「僕の聞き間違いだったかもしれないから、もう一回言って貰えないかな?」

「ヴァネッサとセレーナと話して、もう蟠りはないので心配しないで欲しい?」

「嘘でしょ……」


 脱力して大きな椅子の上で縮こまってしまったエリック殿下が絞り出すようにそう言った後、耐えきれない様子でイバイが沈黙を破った。


「デミトリ殿、本当なのか……?」

「俺がイバイ殿達に嘘を付く訳がないだろう? 本当にどうしたんだ?」

「もう仲直りできてるの……?」

「あ、ああ?」

「イバイ……僕達今まで何してたの……」

「殿下……」


 イバイまで今にも消え入りそうな程消沈している状況に困惑しつつ、このままでは埒が明かないので取り敢えず話を進める事にする。


「申し訳ないが、俺に分かるように説明してくれないか?」


――――――――


「ごめんね、デミトリ……」

「本当に申し訳なかった」

「……二人が俺の為を思って行動してくれたのは理解している。気にしないでくれ」


 気にするなと言うのが適切かどうかについてさておき、俺の知らぬ間に相当拗れてしまったみたいだ。


 聞いてみると割と単純な話ではあったが……詳細を省いて纏めてしまうと、俺がヴァネッサとセレーナと仲直りするお膳立てをしようとした結果、二人の不満が貯まりエリック殿下に怒りが移ってしまった。


 俺と彼女達が接触するの避ける為巻き込まれてしまったナタリアまで怒らせてしまい、結果だけ言ってしまえばエリック殿下とイバイに対してヴァネッサとセレーナとナタリアの三人が不満を抱く状況に。


 俺とヴァネッサ達が勝手に和解してしまったため、殿下達は徒労の末何も成果を得られない所か余計にナタリアまで怒らせてしまった。


「リカルドも怒らせちゃったし……」


 リカルド……? 宰相家の嫡男がなぜ急に話題に……婚約者のナタリアに会いに来てるのか?? とにかくこのままこの状態を放置するのは得策ではないな。


「エリック殿下、イバイ殿、これからヴィラロボス辺境伯夫妻との会食があるだろう? 会食にはナタリア様も出席するのか?」

「ナタリアも、彼女の婚約者のリカルドも出席すると思うよ」

「会食には殿下、ヴィラロボス辺境伯夫妻、ナタリア様、リカルド様、デミトリ殿の六名が参加予定です」


 リカルドが出席するのは少し驚きだが……まぁ問題ないだろう。


「分かった。ナタリア様もリカルド様も今回の会食の目的を理解しているはずだ、悪いように受け取って欲しくないんだが……会食の場で殿下への不満を露にするとは思えない。会食中は一旦この事を忘れよう」

「でも……」

「あくまで一旦忘れるだけだ。会食が終了したら二人に話がしたいと伝えれば良い。ヴァネッサ達には王家の影経由で連絡を取れるから、ヴァネッサとセレーナにも今受けている依頼が落ち着き次第話をしたいと、その後連絡を入れよう」

「うーん……」


 こう言った事は早いに越した事はないと思い提案したが、エリック殿下の反応が薄い。ちらちらと後ろに控えるイバイを伺いながら、何やら考えている様子だ。


「……すまない、俺だったらそうした方が良いと思った内容を提案してみたが、少し押し付けがましかったかもしれない」

「そんな事ないよ! ただ、ちょっと気になる点があって」

「気になる点?」

「なんで怒らせたのかを、ちゃんと理解してない状態で話し合うのがちょっとだけ怖いと言うか」

「……なるほど??」


 話した感じでは割と怒られた原因は明確な気がするが……言い方は悪いが、俺のために行動していたのだとしてもそれを説明せず軟禁紛いの事をしたら誰でも怒ると思う。


 ヴァネッサとセレーナとナタリアの三人はそれが不満だったのだと思うし、リカルドは……王都で別れた際かなりナタリアの事を気に掛けていた。わざわざボルデまで会いに来たのに、殿下の行動が理由でナタリアと会えなかったのだとしたら怒るのも想像に難しくない。


「殿下は怒らせた理由に心当たりが無いのか?」

「流石にそんな事は無いよ! でも、間違えてたらどうしようって思って……」


 なるほど……王族故の経験不足が、エリック殿下に二の足を踏ませているのかもしれないな。


 ヴィーダ王家の人間は公の場でなければ非を認めて謝る事に抵抗がないのは知っている。それはエリック殿下に限らず、アルフォンソ殿下もそうだしヴィーダ王もそうだった。


 それでも謝罪をすると言う行為に対して並々ならぬ制約を抱えて生きているのには違いない。普段は謝る事を禁忌とされている為、謝罪を間違える事にかなり忌避感を抱いている可能性がある。


 加えて自分の非を認めて謝った経験はあっても、エリック殿下は立場上こういった人間関係の拗れで誰かに本気で怒られた経験が少ないはずだ。


 政治的な理由だけでなく、そう言う面での経験不足を補うためのアムール王国への留学だったのかもしれないが……あの馬鹿王子、もとい元王子と取り巻きの相手をしながら他の生徒に遠巻きにされていた状況では実りも少なかっただろう。


 勝手な想像だが俺を含めた同世代の人間とこれだけ深い関りを持ったのは、今回が初めてだったとしてもおかしくない。


「俺の不在中、機会があったのに話し合いの場を設けられなかったのもそれが原因なのか?」

「うん……」

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