第470話 頼れる年長者
辺境伯邸の敷地内に案内され、広大な庭先に止められたそりの元に辿り着いたのと同時にアイリスが呟く。
「おっきい! おいしそう……」
アイリスの視線を辿ると、そこに居たのは馬用の厩舎しかなかったのか窮屈そうに身を屈めたスレイプニル達だった。
ふらふらとそちらに向かって歩き出したアイリスの手を掴み、体を引きずられないように身体強化を掛けながら止める。
「アイリス、あの子達は食べちゃだめだ」
「なんで?」
……何故と聞かれると説明が難しいな。彼女の目線で考えると、目の前に美味しそうな獲物が居るのに狩りを止められているようなものだ。
一応出会った森からボルデに到着するまでの数日間、街で困らないようある程度やって良い事と悪い事を噛み砕いて説明していたのだが、教えてる側の俺も手探りの状態で説明しきれなかった事がまだ沢山ある。
ちゃんと教えてあげる前に街に連れてきてしまったのは俺の都合だから、ボルデに到着してから辺境伯邸に向かう途中は初めての経験だらけのアイリスに情報を教えすぎて混乱させてしまうのを避けるために、敢えて質問された事に対して答える事に徹底していた。
「……あの子達は仲間だ」
「わたしとでみとりみたいに?」
「そうだ」
「そっか……なかまはたべちゃだめだもんね」
苦し紛れに捻り出した回答だったが、すんなりと受け入れて貰えて一安心する。
仲間と認めた俺への態度や、失くしてしまった姉の事と言い、アイリスが仲間を大切にするのを分かった上でそれを利用しているのは正直かなり心苦しいが……取り敢えず仲間の仲間は傷つけ無さそうで良かった。
とは言え、誰でも彼でも「仲間」と呼んでいたらいつか破綻してしまう。この回答の仕方は一時的な解決にしかならないのを肝に銘じておこう。
「偉いぞアイリス。ボルデに来る途中に説明したが、白い羽をした綺麗な魔鳥も俺の仲間だから傷付けないで欲しい」
「うん!」
「スレイプニルを見て美味しそうだと思うなんて、見た目に寄らず食欲旺盛みたいだな」
「しょくよくおうせい……?」
そりまで案内してくれたニルの感想にアイリスが首を傾げる。
「食べるのが好きという意味だ」
「たべるのすき!」
「そうか! 実は今日の夕食についてデミトリに相談したい事があるんだが、少し借りても良いか?」
「……?? でみとりはあいりすのおさだからあげないよ?」
引き留めるために握ったアイリスの手に力が入り、慌てて身体強化を発動する。
「ちょっと話したらすぐに返すから安心してくれ」
「……」
「ニル、アイリスも一緒に――」
「なんでもかんでも受け入れてあげるのが正解じゃないぞ、デミトリ」
「!? そんなつもりは……」
一瞬反論しそうになったが、アイリスが俺と関わってせいで進化してしまった事や彼女の姉を救えなかった事に対して負い目を感じていなかった訳ではない。
「アイリス、約束は分かるか?」
「うん」
「私が約束しても信じて貰えないかもしれないが、デミトリが戻って来ると約束したら信じてくれるか?」
「……ほんとにどこにもいかない?」
「勿論だ。約束しただろう?」
「……わかった……」
ニルは凄いな……。
「ありがとうアイリス。約束通りデミトリが戻って来なかったら私のせいにしても良い」
「!?」
急に何を言っているんだ!?
「ニル、そこまでする必要は――」
「デミトリ、今私はアイリスと話しているだろう?」
「……にるのせいにしていいの?」
「ああ。今日出会ったばかりなんだ、私が約束を破るつもりがないと言ってもすぐに信じるのは難しいだろう?」
こくこくと頷くアイリスにニルが優しく語り掛け続ける。
「約束は必ず守る。少しずつでいいから私達の事を知って欲しい……お互いデミトリの仲間なんだ、せっかくだから仲良くなりたい」
「なかよく……うん!」




