第469話 見失いがち
アイリスが興味を持ったものを見つけたり、疑問に思った事について質問される度に説明するために立ち止まっていたため、ヴィラロボス辺境伯邸に到着するまで想像以上に時間が掛かった。
街が黄昏色に染まった頃ようやく辺境伯邸に辿り着き、邸宅の外周を囲う塀を伝って正門を目指して歩いていると不意に塀の中から声を掛けられる。
「デミトリさん!」
「カミール!? 久し振りだな」
「こんな所からすみません! たまたま見えたので声を掛けちゃいました! お久しぶ、り……です?」
カミールの口調が、俺の隣に立っているアイリスに気付いてから一気にたどたどしくなり心が沈む。まさか――。
「えっと……そちらの方がアイリスさんですか?」
「アイリスだよ……?」
話し方に違和感を感じたのか、アイリスが俺の背に身を隠しながら疑問形で返答する。
「な、なるほど!? ヴァネッサさんとセレーナさんの説明だと、もっと幼い感じに聞こえ――あ、別に悪い意味でではないですよ!?」
「おさない……?」
恐る恐る俺の後ろに立ったアイリスが俺の上着の裾を掴んで引っ張る。幼いと言うのはそう言う事ではないんだが……。
とにかく、カミールの動揺が想像していた理由からではない事に気付き安心する。
「で、デミトリさん……! てっきり、その――『アイリスって子を保護した』って聞いてたので」
「カミール、大丈夫だ。落ち着いてくれ」
「しんこきゅう!」
たまたま辺境伯邸に向かう道中教えた言葉を早速使いたかったのか、アイリスが大袈裟に胸を張りながら息を吸ってから吐くと、カミールもそれに続いた。
辺境伯邸の塀越しに深呼吸し合う二人が相当面白かったのか、カミールの背後から近づいた影が笑いながらこちらに近付いて来る。
「くく、騒がしいと思ったら何をしてるんだカミール?」
「ニルさん!」
「久し振りだな、デミトリ」
「ああ、久し振りだ」
一週間程度の不在だったため実際はそこまで会って久しいと言う訳でもないが、それでも久し振りと言ってくれる仲間が出来たのは嬉しい事だな……。
グラードフ領を逃げ出した頃は、そんな幸運に恵まれるとは想像できなかったかもしれない。
思えば仲間や、頼れる存在もかなり増えた……最近色々な出来事が重なって思考が悲観的になり呪力が暴走気味だったが、この身に降りかかった不幸ばかりに注目して享受している幸せを見失うのは駄目だな。
俺が頭の中で自問自答をしている内にニルが塀の傍まで歩き、そのまま俺の隣に立つアイリスに話し掛けた。
「そしてこちらのお嬢さんは初めましてだな? 私はニルだ」
「にる? あいりす!」
「アイリスと言うのか、これからよろしくな!」
いつもよりも砕けた口調で話すニルに驚きつつ、そう言えば既婚者でお子さんがいると言う事を思い出す。アイリスの事を子供と呼ぶのが正しいのか分からないが、子供と対話するのに慣れているらしい。
「デミトリ、こんな塀越しだとゆっくりと話せないだろう? 正門で待っているからそちらに移動してくれ」
「ああ、分かった」




