第467話 親馬鹿
人差し指と同様に中指を上げたトリスティシアが更にこちらに近付き、暖かい吐息が寒さに冷えた耳をくすぐる。
「デミトリも考えがあっての事だと思うから、分かってくれたなら良いわ。それじゃあ二つ目――」
――――――――
「あれがぼるで?」
「ああ。後少しで着きそうだな」
トリスティシアと別れてから三日が経った。森で過ごす期間が分からなかったため帰りの馬車の予定を決めていなかったが、そりでの移動に慣れ過ぎてしまってボルデまでの距離を見誤っていた感は否めない。
日が暮れたら野営をして日が昇ったらただひたすら平坦な街道を進み歩く作業を三日三晩アイリスとともに繰り返してようやく地平線にボルデの城壁が現れた。
今まで人里訪れた事が無いからか、ボルデが見えてから心なしか歩調が低下したアイリスに合わせてゆっくりと街道を進み、日が暮れるのと共に城壁に到達した。
「そこ行く者、止ま――滅死の魔術士殿ではありませんか!」
「? めっし……?」
「気にしないでくれ……入都したいんだが」
なんとなく見た事のある顔っぽいが……俺の事を認識できたと言う事はかれは対策部隊に所属していたのだろうか?
一人考え事に更けていると検問を担当する兵士の視線が俺からアイリスの方へと移った。
「こちらの方は――」
「俺の仲間だ」
「……左様でございますか! 承知致しました、お通り下さい」
……本当にそんな適当な確認で良いのか?
内心不審に思いつつも、もしかするとヴァネッサ達が事前にエリック殿下やナタリアに事情を説明していたのかもしれないと思い口を噤む。
俺の推測が外れていて、仮にこの兵士が俺が二つ名を持っているから贔屓してくれたのだとしても……散々恥ずかしい二つ名で呼ばれて迷惑を被って来たんだ。少し位の役得はあってもいいだろう。
「迅速な対応感謝する」
軽く検問担当の塀に会釈をして、興味津々に辺りを確認するアイリスの手を引いてボルデの街の中へと進んでいく。城壁に備えられた門を潜り広がったボルデの街並みは、一週間と言う短い期間にも拘らず大分変っていた。
街に大きな被害は出なかったので復興作業が完了したのか、出発前と比べると資材を運ぶ人々や作業員らしい服装に身を包んだ人間が少ない大通りの中心で一度立ち止まる。
「きがない……」
「街にはあまり木がないんだ。森と環境が違って戸惑う事があれば、迷わずに何でも聞いてくれ。困ったり、特に体調が悪くなったりしたら絶対に隠さずに教えて欲しい」
「? わかった!」
これだけ念を押しておけば一旦は大丈夫だろう。
表面上は獣人に酷似しているものの、アイリスについては分からない事の方が分かっていることよりも多い。
グスタヴォ達に獣人についてもっと詳しく聞いておけばよかったかもしれないと後悔しつつ、過ぎた事を悩んでも仕方がないので再びアイリスの手を引きながら大通り沿いに街の中心へと向かっていく。
「おにく……」
恐らく生まれて初めて目の当たりにした建物に注目していたアイリスの視線が大通り沿いに建てられた屋台に注目して固定された。
……もう一週間も森に居たんだ。これから数時間ヴィラロボス辺境伯邸に着くのが遅れても誤差の範囲内だな。
「食べてみるか?」
「いいの!?」




