第464話 介入
「アイリスは……」
「出来たわよ」
「ティシアさん!」
まるで俺がグスタヴォの質問への返答に困っているのを見計らった様に現れたトリスティシアのおかげで、グスタヴォの関心が彼女が持っている商神の腕輪に反れてくれたため安堵する。
「商神の腕輪の中にまだ入ってる物はともかく、グスタヴォ達はもう大丈夫よ」
「……! ありがとうございます!」
腕輪の中に他にも物を仕舞っていたのか……説明通り収納鞄の様に使えるなら当たり前か。とにかくグスタヴォ達が解放されたのは良かったが……。
「……ファビオラはどうするんだ?」
「願わくば里に連れ帰って掟に則って裁きたいが素直に付いてくるとは思えないな。今更だが、ここはいったいどこなんだ?」
「ヴィーダ王国とアムール王国の国境付近だ」
「そうか……大分遠い所まで連れて来られていたんだな」
「グスタヴォ達はどこで攫われたんだ?」
「アムール王国の北に位置する、ノックス共和国だ」
知らない国だな? アムールの更に北となると大陸の最北に位置するはずだ。
裸足のままの獣人達の事が心配で防水布を敷いた時、かなり大袈裟にそこまでする必要は無いと言われたがあれは遠慮ではなく本音だったのか?
「くちゅんっ……!!」
視線を下げて俺にしがみ付いてるアイリスの腕を見ると鳥肌が立っている。着替えを渡した獣人達と同じぐらい薄着のアイリスが日が暮れ始めて寒がっているのに、全く寒さに動じた様子を見せないグスタヴォとその仲間達は寒さに強い種族なのかもしれない。
アイリスの手足を解こうとしたものの動く気配が全く無かったので、少し身を焚火に寄せてから会話を続ける。
「国境を超える旅をするとなると、確かにファビオラを捕えたまま移動するのは厄介そうだな……帰国次第裁かれるのを分かっていて大人しく従うとは思えない。言い方は悪いが拘束した状態の罪人を連れて国境を越えようとしたら余計な面倒事の種になるだろう」
「ああ……迷惑を掛ける位ならここで沙汰を下すのも可能だが、それ自体がデミトリ達の迷惑になりかねない……」
頭が痛いな。
攫われたとは言えヴィーダ王国目線だと、現時点で自分達が不法入国者だとグスタヴォは言いたいんだろう。正当な理由があったとしても、不法入国者の集団が誰かを私刑で裁いてしまったら、それはそれで問題になるのは想像に難しくない。
「……ばれないように消しちゃうのも可能よ?」
「ティシアさん……! 一族を代表してひとつだけはっきりとさせたい。一族の一員の不始末を処理するために、お世話になった恩人達に共犯者になって貰う恩知らずにはなりたくありません」
黄金の瞳を光らせながら、グスタヴォの発言に満足したように微笑むトリスティシアに耳打ちする。
「らしくない提案をしてどうしたんだ?」
「ふふ、どちらかと言うと悪神らしいと思ったんだけど……でも誘いに乗らなくて良かったわ」
「……試したのか?」
「ええ。今回は運が良かったけど、グスタヴォ達が被害者だからといって善人だと言う保証はないのよ?」
「それは……!」
「寝不足なのもあると思うけど……気を付けてね? デミトリに何かがあってからじゃ遅いから」
「すまない……」
「分かってくれたなら良いわ。後は私に任せて」
「なに、を――」
――――――――
「でみとり??」
「大丈夫よ。眠らせただけだから」
デミトリが地面に倒れないように背中を支えた腕を、忙しなく動くアイリスの耳先がくすぐる。この子、この状況になってもデミトリを離す気が無いわね……。
「ティシアさん、どうして――」
「デミトリと別れた後、正規の方法で渡国するつもりがないなら直接ノックス共和国に転移させてあげた方が法を破る回数は減るわよね? ノックス共和国の暗部隊長さん?」
「な!? なぜそれを……!?」
「細かい事は気にしなくて良いわ。嘘を付いたわけじゃなくても、デミトリの善意につけ込んで正体を隠してたのはちょっとお仕置きが必要かもしれないって思ってたけど――」
無意識に喉仏を上下させながら顔を強張らせたグスタヴォに目配せする。
「――デミトリに迷惑を掛けたくないのは本心だって分かったから、今回だけ大目に見てあげるわ」
「か、かたじけない……」
「ちょっと散らかっちゃってるけど、シンゴの死体も必要なら回収するのをお勧めするわ。準備が整ったら腕輪に残ってるファビオラって子を解放して、全員転移させるから声を掛けて」
「わ、分かりました!!」
大急ぎで仲間の元に向かったグスタヴォを見送りながらデミトリを抱き上げる。そのまま背後に引っ付いたアイリスがぶら下がる形になってしまったけど、疲れないのかしら?
「てぃしあちゃん……?」
「どうしたのかしら?」
「でみとり、いつもならねててもはんのうするのに、だいじょうぶ??」
……アイリスを心配させないように、夜は周囲の警戒をして見守りながら寝たふりをしてたみたいね。
「ぐっすり寝てるだけだから心配しなくても大丈夫よ。後、寝てても痛いと思うからお腹に爪を突き立てるのはやめてあげて」
「うん」
――――――――
「んーんー!!!!」
「大人しくしろ!!」
状況を呑み込めてないファビオラが大いに暴れてるけど、いい加減デミトリをちゃんと寝かせてあげたいからさっさと転移させてしまおう。
「転移先はどこが一番都合がいいかしら?」
「出来れば首都近辺だと助かります……ティシアさん」
「なにかしら?」
「デミトリに私達が感謝していたと伝えてくれませんか? この恩は決して忘れないとも」
「それ位お安い御用よ」




