閑話 欲神と闘神②
「おかしな奴らと出会う機会が多いなら、トリスティシアが授けた加護について説明した方が良いに決まってるだろ」
「気持ちは分かるけど説明したらしたでデミトリに危険が及ぶ可能性があるから」
……言ってる意味が分からないな。
「自分の信じる正義を貫き易くなる加護だと知ってどこに危険性がある? 小僧は悪人じゃないし、加護の内容を教えても上手く扱えるはずだ」
それこそ小僧が『正義は必ず勝つ』と本気で信じてるような単細胞なら、それだけで自分が悪人だと思った相手との戦闘では加護の恩恵で力が増すはずだ。
それにトリスティシアの事だ。『正義は必ず勝つ』と信じただけで本当に無敵になる様な、無法な力を加護から得られるようにしたとは思えない。
トリスティシアの加護ってだけで十分すぎる程恩恵はあると思うが……。
問題は小僧がトリスティシアの加護の恩恵を受けている事を見越して主神が干渉してる時だ。その場合、小僧が出会うおかしな輩も相応に強かったり、強力な加護や異能を持ってる可能性が高い。
主神の考えが押し測れない以上これもあくまで可能性の一つでしかないが、一刻も早く小僧に加護の内容を教えた方が良いに決まってる。
「仮に加護の影響で小僧が自分の掲げる正義と反した人間と遭遇する可能性が高くなってるなら、加護の内容を教えてやった方が小僧も対策を練り易いし生存率も上がるだろ?」
「そんなに単純な話だったらトリスも加護の内容を伝える時期について悩まないよ」
「はぁ? 悩む理由なんて――」
「ディータス……デミトリは多分自分がそんな加護を授かってるのを知ったら『加護の影響で不当に得た力は不公平』だとか考えて、逆に今無意識に得てるトリスの加護の恩恵すら受けられなくなると思うよ」
な……!?
「そんな馬鹿な事を気にする必要ないだろ!」
「難儀な性格だよね」
「……別に他人が加護や異能の恩恵を受けても小僧は否定してないんだろ? 自分にだけ厳しいのは公平でもなんでもないぞ」
「だから言ったでしょ、難儀な性格だって。かなり無理して御してる呪力の事も未だに借り物の力で自分の実力じゃないって思ってる節があるし。むしろデミトリに加護の内容を教えちゃったら、公平性を保とうと過剰に修正しようとした結果、最悪の場合トリスの加護の影響で弱体化する可能性すらあると思うよ」
「ちっ……」
愛し子を守るために授けた加護なのに、そんなことになったら本末転倒も良い所だな……。
「今の状態でも十全に加護の力を引き出せてないなのに、加護の内容を教えて逆に力を制限されちゃったら余計に危険でしょ?」
「……別にお前の愛し子って訳でもないのに小僧の考えについて妙に詳しくないか?」
「短い期間だったけど、成仏するまでデミトリを見守ってた僕の愛し子から色々と教えて貰ったのと……トリスの前の愛し子にどことなく気質が似てるから、なんとなくね」
小僧は相当面倒な性格をしるらしいな……腹立たしい。
他人と比べたり公平さなんて無視して、小僧も少しは自分の欲に素直に……我儘に生きれば良い。誰にだってその権利があるはずだ……。
「……いずれにせよ、説明しないといつか取り返しのつかない事になりかねないのは変わらないだろ。何も知らないまま小僧の心が折れて、掲げる正義を見失った時大変な事になるぞ?」
「トリスの加護が主神の思し召しの媒介として利用されてるって確定してるわけじゃないし、そうだとしてもデミトリはトリスの愛し子だ。僕らが横やりを入れるのは良くないよ」
「それは……」
俺達の愛し子じゃないと念押されたのはこれで二回目か? 変な所でフリクトはそこら辺の線引きに厳しいからな……自分に甘くて他人に厳しい節があるが。
「失礼な事考えてない?」
「考えてたな」
「あのねぇ、そういう時は嘘でも否定するべきだよ! まあ、いっか。話に花が咲いちゃったけどそろそろ手合わせしよう!」
両手を叩いたフリクトが腕を振って勢いを付けながら一気に立ち上がった。もうこの話は終わりと言わんばかりのフリクトの態度に無意識に嘆息が漏れる。
こいつなりにトリスティシアを思って行動してるみたいだが……以前の愛し子を失ったトリスティシアを知ってたら仕方がないかもしれない。
トリスティシアが元気を取り戻したのは大いに結構だが……小僧と出会ったおかげで立ち直った彼女が、小僧までも失った時の反動を考えると静観を決め込んで何も言わずにいるのは絶対に悪手だと思うが。
「何が切っ掛けで小僧の考えが変わるか分からない。小僧が世界に絶望してからじゃ手の打ちようがないぞ? 本当にトリスティシアに助言しなくてもいいのか?」
「……! いつもは早く済ませたいからって手合わせの時間になったら協力的なのに……随分とデミトリの事を心配するね?」
「!? フィーネの恩人だから当たり前だろ」
「同じ位自分の愛し子の事も気に掛けてあげれば良いのに……」
「あのな、クレアの事は今関係ないだろ!! それに、ここに軟禁され始めてから毎日見守ってるのはお前もサシャも知ってるだろうが!」
――――――――
怒り心頭の様子のディータスの枷を解くと、ずかずかといつも稽古場に利用してる領域の一画に向かって歩き出した。
「茶化してごめんね……」
小声で呟いた言葉はディータスに届かなかったけど言わずにはいられなかった。あそこまでデミトリの事を心配してるのには驚いたけど、ディータスの言ってたことも理解できる。
正直な話僕も何が正解なのか分からない……せっかくあの一件から立ち直れそうだったトリスの事も、デミトリの事も心配だ。
ディータス程はっきりとは言わなかったけど、サシャとミネアも何となく主神の思し召しについては気付いてて敢えて触れてなかったみたいだし、今は一旦様子見の状態だとは思うけど……。
取り敢えず僕達からトリスに伝えるのは止めた方がいいよね。ディータスはデリカシーが無いし、僕も神呪の件でやらかしちゃったからなぁ……サシャかミネアの方が――。
「お前が『手合わせしよう』って言ったんじゃないのかよ!? 何突っ立ってるんだ!!」
「……ごめんごめん! 今行くね」
……後でサシャに相談しよ。




