閑話 欲神と闘神①
「私はミネアにお願いされた事を調べて来るから、留守の間領域の事は頼んだわよ?」
「任せてサシャ! いってらっしゃい」
全く……好いた相手とは言えあんなに尻尾を振って、闘神が聞いて呆れるな。
深海を切り取った次元の狭間から領域を脱したサシャの姿が完全に消えるまで、ぶんぶんと手を振って見送ったフリクトがこちらに振り向き目が合う。
「はぁ……」
「ため息なんか吐いちゃって。いい加減ディータスも意固地にならないで、もう少し反省して態度を軟化させたら拘束を解いてあげるのに」
「解いたら解いたでお前との手合わせが増えるだけだろ! 俺は脳筋のお前と違って戦闘は得意じゃないんだ」
「またまた。僕も久々に手ごたえのある相手と手合わせ出来て力が増してるし、ディータスは才能があるよ?」
「そんな才能要らないって言ってるんだよ……!!」
本当に調子が狂うな……! 比較的話が通じるサシャがミネアの頼みを聞くのを、もう少し真剣に止めてフリクトを送り出すように言えば良かったと後悔する。
「それにしても、デミトリは相変わらず色んな逆風に立ち向かってるね。運命の糸の件もそうだけど、主神にまで目を付けられてるなんて」
サシャ達に相談しに来たミネアが言っていた件か……。
「……なぁ、お前はおかしいと思わないのか?」
「何が?」
あっけらかんとしてるが……こいつは脳筋かもしれないが勘が良い。頭も口の軽さと反比例して意外と悪くない。気付いていないとは思えないが……まさか演技なのか?
「とぼけるな。小僧の受難の原因の事だ」
「……」
フリクトがわざわざ黙るって事は、こいつも何か引っかかってるな。
「異世界人と頻繁に出会うのは運命の糸が原因なのはまだ分かる。問題は……俺が言うのもなんだが、小僧が出会ってる異世界人が軒並みイカレてる事と――」
「クレアちゃんの件は本当に反省した方が良いよ」
「分かってるよ!! とにかく! 小僧は異世界人に限らずおかしな輩と出会いがちだろ? それが主神の思し召しが原因だったとしても、主神は俺らの世界に直接干渉するのを嫌うだろ?」
「……」
いつも余計な事を言ってうるさ過ぎる位なのにいっちょ前にまた黙りこくりやがって……こいつ、多分大分前から気付いてたな。
「主神はトリスティシアの――」
「シーッ!」
「ぶはっ!? 何しやがる!?」
急に距離を詰めて人差し指で俺の口を閉ざしたフリクトの手を掃う。
「一旦その件については触れないでおこう」
「なんでだ? 闘神の癖に怖気付いたのか」
「そういう事じゃないよ! デミトリには色々と期待してるし応援してるけど……この件に関しては外野の僕達じゃなくてトリスに任せた方が良い。デミトリは僕達の愛し子じゃない」
「……トリスティシアは気付いてるのか?」
「主神は直接僕らの世界に干渉することを嫌うからね。それでも意思を反映したい時は間接的に影響を及ぼすから、トリスは自分の加護が主神の意志を遂行するために利用されてる可能性に気付いてると思うよ」
ちょくちょく小僧の近況をミネアに確認するサシャとフリクトのせいで無駄に詳しくなったが……主神の思し召しの影響で小僧が出会ったと思われる人間は、ほぼ全員が小僧の掲げる正義に反する奴らばかりだ。
トリスティシアが司る正義と小僧の考えが、主神がこの世界に反映したかった意志と絶妙に噛み合ったのか分からないが……ぎりぎりトリスティシアの加護の影響とも取れる範囲で干渉してくるやり方は主神らしい。
「……小僧が苦しんでるのが自分のせいだと勘違いしなけりゃいいが」
「もう、ディータスは本当にデリカシーがないね! だから触れないでおこうって言ったの! トリスのせいじゃないし、そんなんだからフィーネにも怒られるんだよ」
「フィーネは今関係ないだろ!! それに俺はトリスティシアのせいだとは一言も言ってねぇ!!」
「とは言え心配ではあるよね。最近精力的に神界で活動したり、僕達に助けを求めてくれたのはうれしいけど……デミトリが苦しんでるのは自分が関わってしまって加護を授けたせいだって、なんとなくトリスは負い目から焦ってる感じがする」
この野郎、見当違いな事を言った直後に怒り辛い話題にするっと切り替えやがって……!
「とにかく!! 主神がトリスティシアの加護を媒介として利用してる可能性があるなら、さっさと小僧にトリスティシアの加護の恩恵を説明した方が良いんじゃないか??」
「それは難しいと思うよ」
「は……??」
……本気で言ってるのか?




