第461話 デミトリの限界
「……ゆけっ、ファビオラ」
「カルメン!!」
唐突に腕輪を起動する言葉を発したカルメンにグスタヴォが詰め寄ったが、肝心の腕輪は反応しなかった。
俺には腕輪の能力を発動出来てカルメンには無理となると……てっきりシンゴと言う所有者が死亡したため誰でも使えてしまう状態になっていると思ったがそんなに単純な話ではないのかもしれない。
「族長、私を腕輪の中に閉じ込められるか試してください」
「さっきから一体何を――」
「俺も止めておいた方が良いと思う。なぜ全く関係のない俺が腕輪からここにいる皆を呼び出せたのかも分かっていない。今まで腕輪の能力を行使出来ていたのがたまたまで、もしも呼び出せなくなったら大変だ」
「デミトリの言う通りだ。カルメン、下がって――」
「族長! このままだと話が進まないし、私達のせいでデミトリにこれ以上迷惑を掛けるのは一族の恥です。あの腕輪の影響下にあったとは言え、デミトリに迷惑を掛けた私が検証に協力するべきです」
そう言う事か……腕輪の問題を解決するのが優先とは言ったが危険な神器で人体実験をするつもりはない。
「カルメン。シンゴに操られていた時の行動について俺は全く気にしていないから負い目に感じる必要はない」
「でも……」
「……なるほど。お前の覚悟に気づけなかった私が愚かだった。カルメン、私を腕輪の中に封じろ」
「族長!?」
「一族の非礼をデミトリに詫びるのであれば、代表として私が責任を取らなければ示しが付かないだろう」
「待ってくれ! 俺は誰にも無意味に危険な橋は渡って欲しくない。気持ちだけありがたく受け取っておくから早まらないでくれ」
意味があるのか分からないが慌てて地面に捨てられたままの腕輪の前に移動して二人の視線から隠す。そんなに軽々しく命を掛けないで欲しい、心臓に悪いな……。
「そうは言うが、触れることも出来ず放置することも出来ない危険物をいつまでも見守る訳にも行かないだろう?」
「一応、伝手はあるんだ……ここにいる全員にお願いしたい事がある」
「デミトリの願いならなんでも聞き遂げるぞ?」
「グスタヴォ、俺が何を願うのか分からないのに族長が安易にそんな事を言ったらだめだろう」
「私達を解放した命の恩人なのに見返りを一切求めず、そうやって私の発言を咎めてくれる相手すら信用できなくなったら生きていけんよ」
グスタヴォが快活に笑い、後ろに並び立っている獣人達も頷いている。大変な目に遭っていたのに人を信じる心を失っていない彼等の人柄に感心しつつ、それが原因でシンゴやファビオラに騙されてしまったんじゃないかと言う不安の棘が脳裏を突く。
善人が馬鹿を見るのは前世も今世も変わらずか……腹立たしいな。
「分かった……信用してくれてありがとう。これからこの腕輪をどうにかできる仲間を呼ぶ」
俺もいい加減なんでもかんでも一人で抱え込み、解決しようとする悪癖をどうにかしなければないといけない。無暗に頼りたくはないが、神器らしきものが出てきた以上俺の手に負えないと認め助けを求めても許されるだろう。
「急に現れてびっくりするかもしれないが、驚かないで欲しい」
「? 分かった」
グスタヴォ達はあまりピンと来ていないみたいだが、取り敢えずはこれで大丈夫だろう。
『ティシアちゃん、助けてくれないか?』
「ふふ、デミトリから呼んでくれたのは初めてね」
「「「「!!!?」」」」
俺の隣に現れた闇黒の塊から姿を現したトリスティシアを見てグスタヴォ達の耳が一斉に立ち上がった。
「あら、随分とかわいらしい進化をしたのね。おめでとう」
「みて、おそろい!」
「ふふ、そうね。似合ってるわよ?」
満足そうに微笑むアイリスの頭をわしゃわしゃとトリスティシアが撫でる光景を目の当たりにして、獣人達の警戒が緩む。
「そのお方は?」
「俺の……仲間のトリスティシアだ」
「はじめまして。でみとりの知り合いならティシアちゃんって呼んでくれても構わないわよ?」
「え、あ、それは――」
グスタヴォが明らかに動揺しているのを見てくすくすと笑うトリスティシアに耳打ちする。
「ティシアちゃん、あまり意地悪はしないでくれ」
「緊張してたみたいだから解してあげようと思って」
微笑みながらそう言ったトリスティシアが辺りを見回して、雪に半分埋もれたままの腕輪を拾い上げた。
「元々の持ち主はその子?」
「ああ」
未だに地面に横たわるシンゴの死体に注目したトリスティシアの問いに答える。
「ティシア、さん、は触っても平気なのか?」
「ふふ、大丈夫よ」
「ティシアちゃん、それは一体何なんだ?」
「商神の腕輪よ」
「しょうじん……商人の神って事?」
「ご名答」
独り言として呟いた言葉に反応したトリスティシアに目配せをされたカルメンが硬直する。
「ふふ、取って食べたりしないからそんなに怖がらなくても大丈夫よ」
「はぃ……」
「……人を捉えられると言う事は、シンゴは奴隷商だったのか?」
奴隷と聞いて少しだけ呪力が疼いたので頭を振って気を保つ。グスタヴォの一族が売り払われていたとなると大分厄介だが――。
「何とも言えないわ、帳簿に記載されてる履歴には奴隷が売られた記録はないわね」
「帳簿……??」




