第458話 許容外
カルメンだったか? 一人だけ口数の少なかった女に能力について問い掛けると蛇に睨まれた蛙のように縮こまってしまった。
「図星か……戦う意思があるなら全力で受けて立つが、お前達は死獣と化したコボルドの群れと金級のソロ冒険者を同時に相手取る実力を持っているのか?」
「「!!」」
「お前達がどんな思想を掲げているのか知らないが、魔獣に襲われている俺に攻撃をした時点でヴィーダ王国法によればお前達は盗賊と同等扱いを受けても文句を言えないのは分かっているだろう?」
「わ、私達の活動は古びた考えを元に作られた王国法に――」
「ファビオラ……!! 本当にやばいから!!」
相当状況が不味いのがようやく理解できたのか、シンゴと呼ばれた優男が無理やりファビオラの口を塞ぐ。
「お前らが古臭いと思うのは勝手だが法は法だ。依頼中に盗賊と遭遇して交戦した場合賊の拘束と、拘束が難しければ殺害が許されている冒険者の前に立っている事実を理解しろ」
「くっ……」
声を押し殺して苦悩しているみたいだが名前と反応からしてシンゴは異世界人だろう? 個人的に納得できなくても、国が定めた法律は従わざるを得ない物だという認識が欠落し過ぎていないか?
「これは最後の警告だ。俺はヴィーダ王国の法と冒険者ギルドの規則に則ってこの森で活動している。お前達の指示を聞く謂れも無ければ、攻撃してきたお前達を合法的に殺す事も許されている。その意味を理解できない馬鹿じゃなければ大人しく従ってくれ」
「……僕達が引き下がれば見逃してくれるんですか?」
なんで見逃してもらえると思って――、はぁ……面倒だが、野放しにして他の冒険者がこいつらの被害に遭ったら後味が悪いな。
「何寝ぼけた事を言っているんだ? 殺すつもりで襲って来た賊を見逃すわけないだろう。監視するのは面倒だが、ボルデの憲兵に引き渡すまで大人しくするなら命は――」
「ふざけないで!!」
シンゴの拘束から脱したファビオラの放った風魔法を躱すと、運悪く射線上に立っていたコボルドの胴体が下半身と別れを告げた。ドシャリと不快な音を立てながらコボルドの身体が地面と衝突する。
「あ……!」
守ろうとしたコボルドに当たったから息を呑んでいるのか? しおらしい反応をしているが、俺に当たっていたら喜んでいたに違いないと思うと反応に困る……こいつらの倫理観はどうなっているんだ?
「……交渉決裂だな」
一日に二度も同じ警告をする事になるとは思わなかったが、まさか魔獣と同じ位人間も聞き分けが無いとは思わなかったな……。
「ファビオラ、もういい! 戻れ!」
「シン――」
異能か? シンゴの手首に巻かれた腕輪に鎮座する水晶の中にファビオラと呼ばれた女が吸い込まれて行く。このまま好き勝手させるのは愚策だな……身体強化を掛けながらシンゴ目掛けて駆け出す。
「カルメンは隠匿の術を発動して!! ゆけっ! ガ――ぎゃああああああああ!?」
なんとなく身のこなしから戦闘慣れしていなさそうだとは思っていたが、なんの抵抗も無く俺に距離を詰めさせるのを許したシンゴの右腕を切り落としてそのまま回収する。
「ん? 外れないな、呪具の類か?」
ファビオラを消した能力が気になり腕輪を外そうとしたが、まるで肉の中に埋め込まれているように腕輪と腕の間に一切隙間が無い。
「周りの肉を削ったらいけるかもしれないな」
「シ、シンゴ!? いやああああ!?」
「ああああああああああああ!!?!?!」
「五月蠅いな…‥‥」
シンゴの口と、ついでに腕を失い骨が露になった彼の肩の傷口を氷魔法で塞ぐ。
「んーー!! んんーーーー!!!?」
「……口を塞いでも意味が無いなら――」
「ま、待ってください!! お願いします、抵抗はしないので命だけは……!」
どこまでも自分達にとって都合の良い考え方をする奴らだな……。
「今更そんな事を言われても困る」
「さ、さっきのは逃げようとしただけで攻撃するつもりは――」
「はぁ……」
攻撃してきたのを見逃して投降する機会を与えたのに拒否して逃げようとした時点で、敵対行動と捉えられても仕方が無いのが分からない程馬鹿なのか?
「に、逃げようとしたのは愚かだったと認めます!! ごめんなさい!!」
「ん? あー……」
やばいな、寝不足で考えていた事をそのまま口に出していたらしい。
「んーっふ!? んうー、ぐっ……」
腕を失った肩を左手で押さえながら悶えるシンゴに気が散りそうになるのを我慢して話を続ける。
「……カルメンと言ったか?」
「は、はい!?」
「シンゴの腕輪の中には、ファビオラ以外にも仲間が入っているのか?」
「……」
「正直に答えなかったらこの腕輪を破壊する」
「い、います!!」
せめて一人位普通に話が通じるのを期待していたが、こいつも脅さなければ素直に質問に応えてくれないのか……協力するつもりが無いなら、情報の真偽も計れないし生かしておく意味は――。
「ごめんなさい!! なんでも、素直に答えるからこ、殺さないで!!?!」
「……またか、クソ」
独り言を言ってしまった事に苛つきつつ必死に頭を下げるカルメンの方を見ると、目部下に被っていたフードが頭から外れて、頭頂部に人には存在しないはずの異物がある事に気付く。
「……獣人なのか?」
「っ……はい……!」
「んーー!! んんーーーー!!!!」
俺とカルメンの間に割って入ろうとしたシンゴを蹴り飛ばし、そのまま氷で地面に縫い付ける。
「シンゴは人みたいだが……ファビオラと他の仲間は?」
「んんんーーーー!!!!」
「……獣人、です……」
「ブハッ!? ヴォ、ヴォグノグヂガラゼヅエイザゼテ!!!」
物凄い執念だな……凍らせた肉ごと口を覆っていた氷を砕いたシンゴが、唇を失くしむき出しになった歯茎を血で濡らしながら叫び始めた。
「でみとり……?」
コボルド達だけならまだしも人間の叫び声まで聞こえて来て不審に思ったのか、天幕に残した通気口からアイリスが顔を出した瞬間奪ったシンゴの右腕が主人の方に戻ろうと一人でに動き始めた。
「ヤッパリアタラジイゲモミミガイダンダ!! ボグガホゴシデアゲ――ぐぴょ!?」
「お断りだ……!!」
斬首されたシンゴの頭部が、驚愕の表情に固まったまま少しだけ地面の上を転がって止まる。
俺にちょっかいを出すのはまだ我慢できる……だがシンゴがアイリスに目を付けた時、彼の瞳に宿った何かと切り離した右腕から強烈な違和感に耐えきれず体が勝手に動いてしまった。
「シンゴが死……ざまぁみろクソ野郎!!!!」
「は?」
激昂したカルメンがシンゴの切り離された頭部に飛びつき地面に叩きつけ始めた。
「私達を攫って好き放題しやがって!!!!」




