第457話 寝不足
「痛……」
割れるような頭痛をごまかすように剣を握った右腕を左手で抓る。
色々あって休息をないがしろにしていたが、四日間も徹夜を続けていれば頭痛の一つや二つ起こっても仕方ないな。
「グルルルルゥ……!!」
「……」
再び飛び掛かって来たコボルドの長の爪を剣で受け止めて嘆息する。アイリスはやっつけてと言っていたが……。
「……最後の警告だ、このまま退散すれば見逃してやる」
「ガウ!!」
パン!
俺が何を言っているのか分かるはずも無いので仕方が無いが、聞く耳を持たず渾身の力を込めて腕を振ったコボルドの攻撃が頬を捉え、乾いた打撃音が周囲に響き渡る。
「警告はしたからな」
「ワウ!?」
「止めなさい!!!!」
「ちっ……!?」
コボルドを斬首しようと振るった剣が邪魔に入った何者かの介入によってブレて、刀身がコボルドの頭上を掠める。
風魔法か……? 軌道を逸らされた剣の制御を奪い返して背後から聞こえた声の主の方へと振り向く。
寝不足は言い訳にならないな……疎かにしていた霧の魔法に意識を向けると、声の主と思われる誰かとその仲間と思われる影がこちらに近付いてきているのが分かる。
「なんて野蛮な――」
「ややこしくなるからファビオラは黙ってて!」
「でも、無実の魔獣を殺そうと――」
コボルド達に集中していたとは言え、接近に気付かなかったのは俺が疲れていた事だけが原因ではなさそうだな。霧魔法に意識を向けても位置を補足し辛い……何かの異能か加護を持っているのかもしれない。
数は……三人か。
「僕達は魔動物の人道的保護を求める会です! 無益な争いは止めましょう!」
「グルルルルゥ……」
コボルドの長が、まるで俺の増援が現れたかのように後ろに飛び退く。
突如現れた三人組が人間だったためそう言った反応をするのは当たり前だが、こいつらの仲間だと思われるのは心外だ。
「シンゴの声が聞こえなかったの!? 今すぐ武器を捨てなさい!!」
「……俺はこのコボルド達に襲われている。仮にお前の指示に従って俺が武器を捨てて殺されたらどう責任を取るつもりなんだ?」
「そんなのちゃんとコボルド達と向き合って心を通わせたらありえないわ! そうなったとしたら、あなたがか弱いコボルド達を怖がらせる挑発的な行動をとったせいよ!!」
……。
「ファビオラ、話し合いは僕に――」
「シンゴは甘すぎるわ! 尊い命を奪おうとする冒険者を止めるのが私達の使命でしょ!?」
次から次へと、本当に……。
「面倒くさいな……」
「ほら!! 魔獣の尊い命を守ろうとしてるのに、こんなに薄情な反応を示す相手には――」
女が喚くのを無視しながら魔力を練って、何があってもアイリスに被害が及ばないように天幕を分厚い氷の膜で覆う。
「ワウ!?」
「な、なんだそれ――」
「氷魔法!? む、無駄な抵抗は止して武器を捨てなさい!!」
こいつらの実力は未知数だ。アイリスがどう思うのか分からず始末に悩んでいたが……突如現れた三人組と同時に襲われる危険性が出てきた以上もう息の根を止めるしかないな。
「キャン!?」
「何を――」
霧の魔法をコボルド達の体に凝結させて一気に凍らせる。急に動かなくなった体の自由を取り戻そうと暴れて、凍った血肉を無理やり動かして砕いたコボルド達の悲鳴が広場に響き渡る。
「止めなさい!!!!」
さっき攻撃をずらされたのはやはり風魔法だったらしい。放たれた無数の風の刃の勢いを霧の魔法で弱めつつ敢えて体で受ける。身体強化を掛けていたから軽い衝撃を感じる程度で済んだが……当てられた箇所は両手首、足首、膝肘などの関節に加えて、特に集中的に狙われたのが首筋だった。
不意を付かれて防御せずに喰らっていたら、無力化される所か死ぬ可能性の方が高い魔法の放ち方に苛つく。
「え、無傷……」
「魔動物を守りたいのは勝手だが、人殺しに人道的な保護について説かれる筋合いはない」
コボルド達に纏わりつく氷に呪力に浸った魔力を流し続け、氷から逃れようと暴れて流した血までもが凍てついて行く。
「く、助けられなかった……!」
「今度は何をするつもり!?」
事切れたコボルド達を呪力で満たした水で包み込み、一匹ずつ死して尚動く傀儡と化して蘇って行く。
「ネクロマンサー!? ファビオラ、カルメン、下がって!!」
「命を弄んで……!! 許せない!!」
俺の命も、気付いているのか分からないが俺が守っていたアイリスの命も軽視した発言と行動を繰り返しているのに、コボルド達の命を奪った事に憤っている精神が理解出来ない。
「覚悟しなさ――」
「馬鹿女と、その手綱を握れない優男は黙ってろ」
蘇らせたコボルド達に突如現れた三人組を囲ませながら、今まで沈黙を貫いてきた女に注目する。
「隠密の技能を持ってるのはお前か?」
「!? ど、どうして――」




