第456話 儀礼を妨げる礼儀知らず
ヴァネッサ達と別れてから既に三日経っているが、この調子だとアイリスの心の整理がつくのはまだ当分先になりそうだな……。
一向に姉の傍を離れようとしないアイリスを見守っていると、周囲に張っていた霧の魔法に無数の影が侵入したのに気付いて反射的に身体強化の魔法を発動する。
「でみとり……?」
「ちょっと外の様子を見て来るだけだ。すぐに戻るから心配しなくても大丈夫だ」
「……わかった」
アイリスが毛布を被ったのを見届けてから収納鞄に手を伸ばし、ヴィセンテの剣を取り出してから天幕の外に出る。
「お前らは性懲りも無くここに来て何がしたいんだ?」
「ガルルルル……」
天幕を囲むように展開したコボルドの中でも一回り身体が大きな個体が、後ろ足で立ち上がりながら威嚇するように牙を剥き出しにして唸る。
『みつかった……!?』
先日野営地にコボルド達が現れた時、焦る様に天幕に身を隠したアイリスの様子から察するに彼等は元々アイリス達が所属していた群れなのだろう。アイリスの古巣と言う事もあり、あの時は軽く威嚇して追い払ったが――。
「ウゥー……ワォーン!!」
先日よりもコボルドの数が明らかに増えているな……前回はあの大きな個体も居なかったし、群れ総出で来たのか?
「……!!」
物音がして振り返ると天幕の奥でそわそわと外の様子を伺う影が見える。コボルド達の遠吠えのせいでアイリスが奴らの存在に気付いてしまった。
「グルルルルルウゥ……」
このコボルド達の薄い青みの掛かった灰色の毛はアイリスとも彼女の姉とも似ても似つかない……アイリスの反応と言い、コボルド達の攻撃的な態度から関係値が最悪なのは想像に難しくないが……。
「黙れ」
「……! ガルルル……」
力量差を分かっているのかコボルド達は無暗に攻撃して来ないが、そのせいで逆に対処が難しい。幾ら今は仲違いしているとしても、アイリスの知り合い……それこそ同じ群れなら親戚の可能性すらあるコボルドに手を掛けてしまうのは流石に躊躇してしまう。
「だいじょうぶ、でみとりと、おねえちゃんがいるから、だいじょうぶ……」
天幕から聞こえてくる独り言に胸が痛む。一体何をされたらここまで怖がるんだ……?
「グルル、ウゥー……!!」
「黙れと言ったのが分からなかったのか?」
「「「「キャン!?」」」」
空から降らした氷柱が群れの中心に堕ちたのと同時にコボルド達が散開する。このままどこぞへと行ってくれたら助かるんだが――。
「グルルゥオー!!」
「逃げる振りをするなら視界から外れるまで演技を続けるべきだったな」
「ガルルルル……!!」
背後から襲い掛かって来たコボルドの爪を剣で受け止めてから蹴りを見舞うと、コボルド達の長が大袈裟に後ろに飛び退きながら衝撃を殺すように宙で回転してから着地した。
蹴られた腹を摩りながら元気良く唸るコボルドの様子にため息が漏れる。気を抜かなければアイリスに危害を加えられる事は無いだろうが……想像以上に動ける上に相手は二十体近くの群れだ。
確実に安全を確保するのであれば手加減を一切せずに息の根を止めるしかないが……。
「……アイリス」
「……」
「アイリスを守るためにこいつらと戦ってもいいか?」
「わたしたちをまもってくれる?」
私達、か……。
「ああ、約束しただろう?」
「……! おねがい……やっつけて」




