第452話 防衛本能
「うぅー……」
「くっ……!」
腰にしがみついたコボルドの腕を剥がそうとしたがびくりともしない。勝手に戦闘に特化していない進化だと思い込んでいたが、認識を改めなければいけないのかもしれない。
コボルドの両手首を掴んで身体強化を掛ける。そのまま無理やり体から腕を離した瞬間、急にコボルドが俺が引っ張っていた方向に合わせて腕を動かしたため万歳の姿勢になり体幹が後ろに崩れる。
「なにを――」
「わう……!」
間抜けな姿勢のまま後ろに倒れた俺の腕を掴みながら、今度は腰にコボルドが両足を絡ませてきた。
「うぅー……」
コボルドが震えているのは、別に俺の体重を受け止めて苦しいからではないだろう……。
こちらの都合で強引に事を進めようとし過ぎていたと反省しながら、意識しながらなるべく優しくコボルドに語り掛ける。
「すまない。急に色々とあって不安なんだろう?」
「くぅーん……?」
ヴァネッサ達を待たせてしまうのは申し訳ないが、今はコボルドを落ち着かせる事を優先しよう。
身体強化の強度を上げながらコボルドに掴まれた腕ごと自分の腕を胸の前に持ってくる。今度は引き剥がそうとしていない事が伝わり、コボルドも俺の腕を掴む力を緩めてくれた。
コボルドの両手を取って、包み込むように腕を組む。
「仲間を失って……今度は俺もどこかに行くと思っているのか?」
「うぅぅ―……」
コボルドの腕を優しくトントンと叩きながら話を続ける。
「……理解できないかもしれないが、一つだけはっきりとさせたい事がある」
「くぅーん?」
「きっかけがあのふざけた探求神が授けた加護なのは正直納得できないが……お前の進化の道を勝手に決めてしまった以上、中途半端に投げ出すつもりは無い」
「わう?」
口にしてしまった以上もう後戻りは出来ないな。
この見た目で人肉しか食べられない等、特異な生態だったら頭を抱えてしまうが……投げ出さないと約束した以上なんとかするしかない。そんな事はないと願いたいが……。
「……とにかく独りぼっちにしないから安心してくれ。こんな事を言うのは不謹慎かもしれないが、助けるのが間に合わなかった仲間の分も含めて俺がお前の事を守る」
「……わぉーーん!!」
何だ……!? 一瞬、魔力が体から抜けていく感覚が――。
「やく、そく!」
「!?」
「なかま……!」
――――――――
「神界に戻って来たって噂には聞いてたけど本当だったのか! どうだ? 久し振りに一杯――」
「誘ってくれるのは嬉しいけど今は色々と込み入ってるの」
「なるほど。急に俺を訪ねてきた時は何事かと思ったけど、例の愛し子のためか」
挨拶代わりに抱擁を求めて来た調教神のセイドを躱しながら会話を進める。
「察しが良いわね……コボルドのテイム方法を教えてくれないかしら」
「コボルドか! これまた珍しいテイム方法が必要な魔獣を仲間にしようとしてるな? トリスの愛し子がテイムに役立つ加護や異能を持ってないと、それなりに面倒な手順が必要になるぞ」
「持って無いわね……」
「そんなに気を落とすなよ、面倒だけど地道な方法でもテイム出来るから。まず、大前提としてコボルドは群れ単位でテイムする必要がある」
「え……」
あのコボルド達の群れを探さないといけないの??
「群れの長を除く全ての個体と力比べをして、まずは群れの一員として認められるんだ。その後群れの長と長の座を掛けて力比べをして勝利して、群れを統率するに値する長だと認められたらテイム完了だ」
「……私の愛し子が出会ったのは、コボルドの群れじゃなくて二匹だけだったわ」
「はぐれ個体か……?? 一匹ならまだしも、二匹で群れを抜けるってあまり聞いたことがないな。それだったら力比べをした後、付いて行きたいって認めさせることができればテイムできるはずだけど……」
表情に影を落としたセイドが、短く切り揃えた小麦色の髪をガシガシと掻きながら説明を続ける。
「仲間思いのコボルドが群れから追放したのか、わざわざ自分達から群れを抜け出したのか分からないけど、訳有りの個体はテイム出来ても性格に難がある可能性が高いぞ?」
「私が見た限り、毛並みがピンク色だったこと以外は普通の――」
「あー……! それなら大丈夫だ」
頭を掻いていた手をぴたりと止めて、安心したようにセイドが笑みを浮かべる。
「そうなの……?」
「稀に突然変異で毛並みの色が違う個体が生まれる事があるんだ。コボルドは仲間思いな分、仲間外れにはかなり厳しい性質だから……トリスの愛し子がテイムしようとしてる個体が、毛並み以外普通のコボルドと変わらないなら問題ないと思うぞ。多分群れに居づらくなって逃げたんだと思う」
「……その理屈だと、コボルドはテイムしようと力比べを挑んできた人間に対しても強い警戒心を抱かないとおかしくないかしら?」
「うーん、そこら辺は主神が定めた事だからな……俺も気になって昔獣神と議論したよ。完全に違う種族なら自分達と違う見た目を受け入れることができても、見知った仲間に酷似してるのにどこかが決定的に違う存在が怖かったり、強烈な違和感を覚えて排除しようとするのは、種を存続させるための防衛本能って事であの時は意見が纏まった」
防衛本能……?
「例えば病気が原因で見た目に変化が現れた個体が居たら、防衛本能が働いて群れから切り離そうとするだろ? 結果的に群れ全体がその病気に感染するのを防ぐ事に繋がる」
「なるほどね……」
「あくまで俺達の推測だけどな。真実は主神のみぞ知るって奴だ」




