第451話 折衝上手な愛神の愛し子
コボルドが身を包んでいた毛布を脱ぎ捨てた事によって、姿が隠されていたもう一匹のコボルドの死体が目に入ったのかヴァネッサとセレーナが目を丸くする。
「え、コボルドの死体……??」
「本当に何か事情がありそうだね」
「最初からそう言っているだろう……」
「うぅー……」
進化する前の名残だろうか? 二足で立ち上がってはいるものの、唸りながら前屈姿勢で腕をだらりと下げたコボルドが俺の横に移動して威嚇し始めた。
「ぐるるるるる……」
ヴァネッサ達に襲い掛からないように伸ばした腕がコボルドの肩に触れた。小刻みに体を震わせているのは、寒さだけが原因ではないだろう……ヴァネッサの魔力の揺らぎに当てられてかなり気が立っている。
「大丈夫だ、敵じゃないから落ち着いてくれ」
「……がるるる……」
かなり興奮しているが、これまでの出来事を考慮したら無理もないな……。
昨日今日で俺に絡まれてからワイバーンに襲われて仲間を失い……トリスティシアの力に晒され失神するように眠りにつき、起きた直後今度はヴァネッサの魔力の揺らぎを浴びせられている。
この短時間でこれだけ立て続けに災難に遭ったら、冷静でいられないのがむしろ正常な反応だと思う。落ち着きを取り戻してくれたとしても、今度は自身の身体の変化に気づいて混乱してしまうだろうし……。
「……大丈夫だから、な? 一旦落ち着こう」
「うぅぅ……」
言葉が通じてないので気休めにしかならないが、安心させるためになるべくゆっくりと穏やかな声色を意識しながらコボルドに声を掛ける。
「ここには敵はいないから、大丈夫だ」
ヴァネッサ達を見て再度興奮しないように、しっかりとコボルドと目線を合わせながらゆっくりと上着を脱ぐ。
「わう?」
上着を脱ぎ終わってそのままコボルドの肩に掛けると、急に寒さを思い出したのか戦闘態勢を解いたコボルドがその場に蹲み込んだ。
羽織った上着の端を掴んで身体全体を覆い、そのまま低い姿勢を保ちながらコボルドが俺の背後に回りピタリと背につく。
「……デミトリの事だから本当にちゃんとした理由があるのは分かるよ? それはそれとして、くっつき過ぎじゃない??」
「ヴァネッサ、ちゃんと説明するから魔力を収めてくれないか?」
「怖がってるみたいだし、多分このままだと話しが進まないよ?」
セレーナからも指摘され、徐々にヴァネッサの魔力が収まっていく。
「わう……!」
「せっかくヴァネッサが魔力を収めてくれているんだから威嚇しないでくれ」
「ヴァネッサちゃん、ここは大人の余裕を見せつける所だよ!」
「……私は余裕だ、よ」
俺の背後から顔を出したコボルドを見ながら、ヴァネッサが物凄く歪な作り笑顔を浮かべているのが気になり、ちらりとコボルドの方を見てみると馬鹿にする様に舌を伸ばしていた事に驚く。
「一体どこでそんな事を覚えたんだ……」
「その子がコボルドだってまだ信じられないけど、コボルドって集団生活する魔獣だから意外と人間臭い仕草を覚えてたりするよ」
「そうなのか?」
俺よりもちゃんとと冒険者活動をしていたセレーナがそう言うのであればそうなのだろう。
調査依頼のためにダニエラがイーロイと一緒に纏めてくれた資料を読んで、コボルドがこの森に生息している事は知っていたが、コボルドの生態についてはそこまで詳しく書かれていなかった。
今後のために把握しておきたいが……今はそれ所じゃないな。
「早速何があったのか共有したいんだが、話はこの子に服を着せてからでいいだろうか?」
「……デミトリが着せるの?」
「服の着方が分からないんだ……」
「うーん、結構絵面がやばいと思うけど」
「それは重々承知の上だ……でも俺以外に適任が居ないだろう? 出来れば二人に手伝ってもらいたいがーー」
「わう!!」
コボルドから離れようとした瞬間ガッチリと腰に腕を回され身動きが取れなくなる。
「……」
「ヴァネッサちゃん、落ち着いて! ここで問答を続ければ続けるほど服を着終わるのが長引くだけだから、私達は外で待とう?」
「……すぐ外に居るからね?」




