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第443話 探究心

 念の為しばらく様子を伺ってから、水魔法を穴の底まで流し込んでゴブリンの死体を包み込む。


 ゆっくりと水を浮かせながら冒険者達からゴブリンを剥がし、落とし穴の中腹まで水球を浮かべた状態で死体を圧縮する。そのまま血に染まった水の塊を凍らせて、落とし穴の上まで移動させてから素早く収納鞄に仕舞った。


 あのゴブリンは人語を話していただけではなく、前世の知識がなければ馴染み無いはずの「経験値」という単語や「進化ポイント」なる未知の単語を発していた。


 もし異世界からの転生者なら死後に発動する呪い、又は異能か加護のようなインチキ能力を持っているかもしれないと思い、過剰な程死体の処理を慎重に行ったが……。


「……何も起こらないな」


 収納鞄に仕舞えたと言う事はちゃんと死んでいるはずだし、少し警戒し過ぎていたのかもしれない。


「あ、あの……」

「誰だ!?」


 落とし穴に間違って落ちないように注意しながら声がした方向から急いで遠ざかる。振り向くと俺が元々立っていた位置の真後ろに、いつの間にか見知らぬ学者風の服装を身に纏った男が立っていた。


 気配も感じず、霧の魔法でも察知できなかった男を警戒しながら身体強化を掛ける。


「驚かせちゃいました?」

「……質問に答えろ、誰だ」

「えー、そんなタメ口で人に話されるのは初めてですけど新鮮ですね。神です」


 ……は?


「……まさか、あいつはお前の愛し子か何かだったのか?」

「あれ、思いの外話が早いですね?? 愛し子ではないけど加護を授けてた子で、ちょっと困るんですけど」


 本当に神かどうかは分からないが仮に神じゃなかったとしても神だと自認している、俺が気配を察知できない存在というだけでかなり厄介だな……。


「……何がどう困るのか説明して貰わないと理解できないな」

「だって、どう進化するのか楽しみにしてたのに死んじゃったら見守れないじゃないですか。実験は失敗です」


 実験……あのゴブリンは個人的に相容れない性格をしていたが、この自称神に実験動物扱いされていた事実に沸々と怒りが湧き上がって来る。


「悪趣味な下衆だな……何れにせよ俺には関係ない」

「そんな事ないですよ、だって君が実験体一号を殺したじゃないですか」

「関係ないと言っただろう。神の癖に難癖を付けるつもりか?」

「難癖じゃないです。君が実験体一号の事を殺さなかったら実験を見守り続けられましたよ?」


 なんとしてでも俺のせいにしたいみたいだな。何となくだが「俺のせい」だと認める言質を取られるのは悪手だと分かる。


 今までのトリスティシアとミネアとのやり取りでも、口約束だろうと神は発言にかなり重きを置いている節がある。迂闊な事は言わない方が良い。


「それはお前が実験体と呼んでいるゴブリンの行動の結果だ。引いては加護を与え、実験体として見守ると決めたお前の責任だろう」

「え、僕の?」

「お前の言葉をそのまま借りるが、実験なんだろう? 満足のいく観察を続けられるように要件定義した上で、実験体が死なない配慮をするべきだった」

「……介入しすぎると実験の意味が……」

「あのゴブリンがどんな死を迎えたとしても、殺めた対象に実験失敗の責任を押し付けるつもりだったのか? それで実験だと言い張るならお前には学者を名乗る資格はないな」

「んぐぐ……!」


 服装から連想して当てずっぽうで言ってみたが、想像以上に効いているな……なぜ神が学者の称号に関心があるのかは分からないが。


「全く!! 神様相手にこんなに噛み付くとは思いませんでした! ああ言えばこう言うとはまさしくこの事ですね」

「……ああ言えばこう言って責任転嫁しようとする存在には言われたくないな」

「下手に出てあげたら好き勝手言って……僕が誰だか知らないでしょう!?」

「名乗られていないからな」

「な……! 聞いて驚いてください! 僕は神界でも一目置かれてる探究神です!」

「へ〜?」


 ドヤ顔で胸を張りながらこちらを見下すよう頭を上げながら高らかに自己紹介した探究神が、何かに気付いたのか俺の背後に注目しながら少しずつ顔から色が抜けていく。


「え、な!? なんでトリスさんがーー」

「私の愛し子に何か用、リスコ?」

「ティーーむぐ!?」


 後ろから抱きつかれながら口元を包まれ物理的に発言を止められる。そんな俺の様子も言いかけた事も気にする余裕がないのか、リスコと呼ばれた神が所在げなく両手を慌ただしく動かす。


「トリスさんの……!? おひ、おひさしぶりですね!?」

「そうね、久しぶり。私の知らぬ間に神界で一目を置かれてるなんて驚いたわ?」

「えっと……それは、その……言葉の綾というか…… 」

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― 新着の感想 ―
ティシア様が最後の良心に見えてきた。
ホント、ろくな神様居ねえなぁ
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