第439話 検証のお礼
「ハッ……ハッ……」
「クゥーン……」
「一通り確認したい事は確認できたな」
身体強化を掛けてさえいればコボルドの膂力を凌駕出来る事、そして噛みつかれても血が流れはするが肉の奥まで牙が進まない事は検証出来た。
ただ……。
「こいつらの膂力と噛む力が、他の魔獣と比較してどの程度のものなのか分からないのが問題だな。個体差もあるだろうし、同じ銀級の討伐指定対象にも俺の力が通用すると過信はしないほうが良いだろう。とは言え、このコボルド達と同じように出逢った魔物や魔獣と片っ端から戦って検証する訳にも……」
「ゥー……?」
「コボルド」と言った瞬間、疲弊しきったコボルド達の耳がピンと立ち上がる。
最近シエルに話していた癖で考えている事を話しながら検証を続けたため、「コボルド」が自分達のことを指しているのを学習したのかもしれない。
「長い間付き合わせて悪かったな。もう行って良いぞ」
「クゥーン?」
「……たがーー」
「「ワウ!?」」
地面の上でぐったりとしていたコボルド達の間に移動して、丁度転がっていた岩に魔力を込めながら正拳突きを見舞う。
粉々に砕けた岩を、恐怖に見開いた目で見つめるコボルド達に近づいてしゃがみながら無理やり視線をこちらに合わせる。
「ここでお前達を見逃したせいでいつか誰かが襲われたら流石に寝覚めが悪い。人を襲ったら討伐しに来るからな?」
「「ワオーン!!」」
返事をしてくれたが伝わった……のか?
身体は二足歩行を可能にするため人型に近く発達しているが、両手で耳を押さえながら目を隠す様は普通の犬に似ているな……。
ダニエラの資料では生息数が少ないと書いてあったが、コボルドが討伐依頼の対象になることも今後あり得るだろう。
仮に俺との約束を守って抵抗出来ずに狩られる事になってしまったら、それもそれで嫌だな……。
「……逆に人に襲われたら逃げるか、最悪自己防衛のために戦っても良いからな?」
「ワウ……?」
願わくばこのコボルド達が人里から遠いどこかに移動してくれれば俺的には一番安心するが……これ以上求めるのは完全に俺のエゴだな。
「……まともに餌にありつけてないだろう?」
「「クゥーン……」」
戦ってみて分かったが、毛深さのおかげでそれなりに体型を誤魔化せているがこのコボルド達は大分痩せている。
出会い頭に何を食べているのか質問したが、今のところコボルド達以外の動物を見かけていないし実際満足に食にありつけてない可能性が高い。
「非常食用に納品せずにいたタスク・ボアの肉だ。色々と付き合ってくれた礼だ」
「「!! ワオーン!!」」
収納鞄から肉を出した瞬間、先程までの疲れ切った様子からは信じられない俊敏さでコボルド達が肉を抱き上げて森の奥へと走り出した。
先程俺から逃げようとした時に検証したので追おうと思えば追いつけるが……一目散に逃げ出したコボルド達をそのまま見逃す。
いくら「コボルド」という単語に反応したからと言って、人語を理解できている訳ではないはずだ。あの脅しもただの自己満足に終わるだけかもしれないが仕方がない。
一応ギルドでダニエラからヒエロ山の麓は危険なため、冒険者以外は基本的に立ち寄らないと聞いている。
あのコボルド達と冒険者が遭遇してしまったら……言い方は悪くなってしまうが冒険者達がどうなろうと自己責任だ。
「……そう簡単に割り切れるものでもないけどな」
仮に、俺があのコボルド達を逃したせいで誰かが負傷してしまったり死んでしまったことを聞いたら……仕留めなかった自分のせいだと俺は後悔するだろう。
そこまで責任を負う必要がないと頭で理解していても割り切れないのは、性格だからもう仕方がないと諦める。
「はぁ……」
先程の検証でまだ火照った体から漏れた白い息が、風に拾われて霧散するのをぼーっと見つめてから歩き出す。あのコボルド達の事はこれ以上考えない方がいいな。
今からでも追いつけると一瞬考えそうになったが、頭を振ってその思考を掻き消す。魔獣とは言え検証に付き合わせて逃すと約束したんだ……約束を反故にするのは違う。
「コボルド達とは別の方向に進んで調査を続けるか……」




