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閑話 ルークの仕事

 人を抱えてるのになんて速さだ……!


 魔族について手掛かりがないか市場で聞き込みをしてる最中、馬鹿な冒険者に絡まれてるデミトリ殿に遭遇した。デミトリ殿がテイムした魔鳥が飛び立ったのとほぼ同時に、なぜかデミトリ殿が隣に立ってた女性を抱きかかえて走り出したから念のため追い始めたのに……。


 ――クソ、見失った!


 市場を抜けた辺りでデミトリ殿の姿を完全に見失った。


 俺自身注目を浴びないように人目を避けて移動してたから全力で追えなかったとは言え、それでも並の相手なら追跡できた自信があった。デミトリ殿の脚力を完全に侮ってたな……。


 落ち着け……先輩面してリーゼとカミールに助言してたのに、俺がこんな体たらくじゃ格好付かない。デミトリ殿の魔鳥があのまま真っ直ぐ進んでいたとしたら――。


「また僕から逃げられると思うなよ!!」


 状況を整理するために身を寄せていた路地にまで響く大声が聞こえた方向を見ると、丁度あの馬鹿な冒険者が無駄に長い緑の髪を靡かせながら視界を横切って行った。


 アムール王国で合流する前にある程度デミトリ殿について説明は受けたが……本当になんでこうも変な奴に絡まれるんだ??


 直接話した機会はほぼないものの、エリック殿下やニルさんとのやり取りを見る限り本人はどちらかと言うと争いも面倒事も一番嫌いそうなたちなのに……。


「どこだ!」


 本当に馬鹿でかい声だな……あいつの後を付けてまたデミトリ殿が絡まれたら助けられるようにした方が、見失ったデミトリ殿を探すより建設的かもしれない。


 考えを纏めて、息を切らし始め叫ぶのをやめた冒険者の後をつける。


 しばらく距離を取りながら尾行したものの、あの冒険者は遅れて俺の居た場所まで辿り着いた時点で動きにキレが無かった。このまま失速していく一方なら、デミトリ殿がどこかで足を止めてない限り追いつくことは無さそうだな……。


 念のため、後数分後をつけて問題なさそうなら任務に戻っても問題なさそう――。


「おい、君!!」

「……」

「聞いてるのか!?」


 あれは……デミトリ殿と一緒にいた女性? あの後別れたのか?


「……耳障りだから怒鳴らないでくれる?」


 ……当たり前だけど相当怒ってるな。


「ふん、デミトリが居なくなった途端僕を無視するのを止めたな! 守って貰わないと何もできないんだろ? なら守られてない時の事も考えてから言葉と行動を選ぶべきだ!」

「……それは脅しのつもりかな?」


 ちょっとヤバくないか……?


「デミトリと話をつける前に、君から先に分からせて――」


 !? 一体何をするつもりだ!?


「ちょっと失礼!!」

「はぐっ!?」


 後頭部を殴られた冒険者がぐしゃりと地面に体を預ける。不意打ちとは言え、本当にこれで銀級の冒険者なのか……?


 俺の接近に一切気づかず沈黙した冒険者越しに、全く動じた様子を見せない女性が声をかけて来た。


「あなたは?」

「……デミトリ殿の仲間だ。市場で騒ぎを聞きつけて、加勢できるように見守ってた」

「そうなんだ。デミトリの仲間なら安心だね、ありがとう」

「……それを仕舞ってくれないか?」

「怖がらせちゃった? ごめんね」


 俺が焦って飛び出た原因……魔力の揺らぎを感じないのに、見ただけでヤバいと分かる禍々しい業炎の塊を、まるでなんでもないように謎の女性が握りつ潰して消す。


 あれを放っていたら……。


「その人はどうするの?」

「……腰の剣に手を掛けてたし、明らかに貴方を脅してた。このまま憲兵に引き渡す」

「そっか」


 敵意は感じないが、この心臓を鷲掴みにされたような重苦しい感覚は何なんだ……??


「取り調べに付き合う暇は無いんだけど……」

「……通報したくないのか?」

「迷惑な人に絡まれた上に、私達が後処理で困らされるのって馬鹿らしいよね? でもほっといたらまたデミトリに迷惑を掛けそうだし……いっそ燃やしちゃうのも手だよ」


 背筋に悪寒が走る。流石に冗談だろ……?


「っ、それはそれでデミトリ殿に迷惑が掛かる」

「跡形も無く……いや、そうだね。デミトリに迷惑が掛かるならやめよっか」


 彼女が言いかけた言葉を聞いた瞬間頭の中に警鐘が鳴る。デミトリ殿とどんな関係なのか分からない、けどこの女性が危険だと本能が訴え掛けて来る。


 とにかく、今は事を荒立てないで収めるのを優先しよう。


「……彼の処理は俺に任せてくれ。貴方にもデミトリ殿にも迷惑が掛からないように手配する」

「本当に?」

「ああ、約束する」

「流石デミトリの仲間だね! じゃあ、お言葉に甘えてお任せしようかな」


 ……純粋に感謝されているだけにしか聞こえないのに、この違和感は何だ……?


「それじゃあ、もう行ってもいいかな?」

「……あ、ああ」


 仲間に連絡してこの冒険者の処理を任せて、彼女には監視を付け――。


「あ!」


 立ち去ろうとした女性が、何かを思い出したかのようにこちらに振り返る。


「この人を追ってたみたいに、私の事を追ったらだめだからね? いくらデミトリの仲間でも許してあげられなくなっちゃうから」

「!?」

「約束だよ? じゃあね」

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― 新着の感想 ―
闘争と試練の呪いなくなってもこれだから、神呪にからみとられてると頭わいてるのが寄ってくるシステムになってる説
もしかしてこの世界にアタマおかしな奴が多すぎるんじゃなくて デミトリがアタマおかしなのを引き寄せてるのか……?
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